高市政権が着手したインテリジェンス強化「本当のヤマ場は国家情報会議・情報局設置のさらにその先」にある

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2025年10月20日、自由民主党(自民党)と日本維新の会は両党の連立のための合意文書を取り交わした。その中に「インテリジェンス政策」として、2026年度における国家情報局と国家情報会議の創設、インテリジェンス・スパイ防止関連法制(基本法、外国代理人登録法およびロビー活動公開法など)の検討開始、2027年度末までに独立した対外情報庁(仮称)の創設が謳われている。

もしこれらの政策が実現すれば、それは1952年の内閣総理大臣官房調査室(後の内閣情報調査室)設置以来、日本のインテリジェンス機構にとっては約70年ぶりの大改革になるため、注目を集めている。本稿では高市政権が目指すインテリジェンス改革について検討していく。

ハードルは低い国家情報会議・国家情報局設置

政権が最初に着手した国家情報会議と国家情報局は、それぞれ既存の内閣情報会議と内閣情報調査室(内調)との格上げによって実現されるので、比較的ハードルが低いといえる。両者を格上げしなければならない理由は、まずは内調の情報集約能力を高めるためである。

内調は1952年、当時の吉田茂・自民党政権が、米国の中央情報庁(CIA)のような情報機関を目指して創設したものであるが、情報収集のための権限が与えられず、人員や予算もごく限られたまま現在に至っている。

もちろんその間にも内調の情報集約能力を強化するため、1980年代には内閣情報会議と合同情報会議が設置され、内調が置かれる内閣官房自体の権限も強化されてきたが、90年代に内調室長を務めた大森義夫の言葉を借りれば、内調は錚々たる各省庁の間に埋没する零細企業、という有様で、各省庁に指示を出して情報を集約するという体制には程遠い状況であった。

その後、第二次安倍自民党政権において、安倍晋三総理は内調を重視し、内閣情報官による総理ブリーフィングも週に一度から二度に拡充したが、これは例外的に総理がインテリジェンスを重視したこと、そして総理と北村滋・内閣情報官の個人的紐帯が確立されていたためである。つまり同政権は、運用上の工夫によって内調という組織を活用したのであって、根本のところは1950年代からあまり変わっていないとも指摘できる。

官邸は雑多の情報で溢れかえっている

現状では、各省庁の情報部門(インテリジェンス・コミュニティ)が情報収集・分析を行い、内調がそれを束ねて官邸に報告することになっている。内調の最も重要な任務は、各省庁の情報を束ね、官邸に情報を報告することであるが、そのためにはインテリジェンス・コミュニティの協力が不可欠となる。ただし各省庁は重要な情報があれば、内調ではなく、直接官邸に情報を届けることが多いので、必ずしもすべての情報が内調を通じているわけではない。その結果、官邸は雑多な情報で溢れかえり、内調には分析業務に必要な情報が届かないこともある。

この構造の根本的な原因は、内調の各省庁に対する権限を明確に規定していない点である。対照的なのは2013年に内調と同じ内閣官房に設置された国家安全保障局(NSS)であり、こちらは国家安全保障会議設置法によって、「内閣官房長官及び関係行政機関の長は、議長の求めに応じて、会議に対し、国家安全保障に関する資料又は情報の提供及び説明その他必要な協力を行わなければならない。」と規定されている。そのため現状では、NSSの方がインテリジェンス・コミュニティに対する情報要求が強く働くとも評価できる。

現状、日本のインテリジェンス戦略については、NSCで審議・決定されているが、NSCは主に外交安全保障に関する政策を審議する場であるため、インテリジェンスの課題はどうしても副次的にならざるを得ない。そのため政府内に国家インテリジェンスについて専門的に審議・決定する場が必要になっている。この組織がなければ、後述するスパイ防止法や対外情報庁創設のための議論もできないのである。

さらに言えば、歴代の内閣情報官や内調の幹部が警察官僚で占められていることも、各省庁の内調に対する姿勢に影響を与えている。他の省庁から見た場合、内調は警察の出島と映るため、内調に情報を提供するということは、警察に情報を提供することと理解されている。インテリジェンス・コミュニティの中で、警察は最も他省庁との情報共有に消極的であるため、他省庁も積極的に情報を共有するインセンティブが湧かないのである。

各省庁の権限とのせめぎ合い

そこで高市政権は、3月13日に国家情報会議と国家情報局を創設することを決定し、現在、設置のための法案が国会で審議されている。国家情報会議が設置されれば、首相が議長となってインテリジェンスに関する議題を審議することになる。その議題は、外交・安全保障に関わる重要情報活動、そして影響力工作を含む外国情報活動への対処となっている。

さらに今回審議されている国家情報会議設置法案は「会議の調査審議に資する重要情報活動又は外国情報活動への対処に関する資料又は情報を適時に提供するとともに、議長の求めに応じて、必要な協力等を行わなければならないとする」としている。この国家情報会議・国家情報局の各省庁への情報アクセス権は、1950年代からの内調の悲願であり続けてきた。

国家情報会議では、総理が同会議に出席することで、すべての情報を包み隠さず共有すること、そして各省庁も他省庁の情報を共有してもらうことで、国家的なインテリジェンスが機能し出すことが期待されている。基本的に各省庁は自分たちの所掌事務のために情報収集を行っており、国のためという意識は希薄である。例えば外務省であれば、外務省の政策のため、防衛省・自衛隊であれば、防衛省の政策のための情報収集に専念し、その中で使えそうな情報があれば官邸に報告している。

しかし格上げされた国家情報局や国家情報会議に情報提供するとなれば、最初からそこを意識しなくてはならないので、インテリジェンス活動にも国家観が重要になってくる。さらに言えば、官邸、内閣官房、他省庁すべてに見られる可能性があるのであれば、下手な情報は出せないので、情報収集や分析も高いレベルのものが要求されるようになるのではないだろうか。

一方、政策決定者の側も情報の「カスタマー」としてインテリジェンスに対する関心を涵養し、それを使うことに習熟することが期待される。3月3日に公表された自民党政務調査会インテリジェンス戦略本部の「我が国のインテリジェンス機能の抜本強化に関する提言」では現状を、「寿司屋のおまかせ状態」と評している。これは情報関連部局から提出されるインテリジェンスをそのまま受け入れるだけで、政策決定者から政策決定のための能動的な情報要求がほとんどなかった様子が連想される。このような受け身の状況から脱却する意味でも、国家情報会議に寄せられる期待は大きい。

トランプは情報機関の報告を無視した

ただし懸念事項も指摘できる。まずは国家情報局の政治的中立性確保の問題である。情報組織と政策組織は分離した上で、運用上の工夫で両者を融合する、というのが理想であるが、首相を議長とする国家情報会議の下に国家情報局を置くということは、同局が時の政権の政治的影響を強く受けるということである。そうなると特定の政治活動のための情報収集指示の可能性もあるかもしれない。この点については、4月10日の内閣委員会の審議において、長妻昭・中道改革連合衆議院議員からも質疑が行われているが、現在、国会に設置されている、情報監視審査委員会の監視権限を強化する等の工夫が必要になってくる。

情報と政策の関係については、近すぎず離れすぎず、が理想である。近すぎると既述したように、情報機関の政治的中立性が揺らぐが、遠すぎてもこれまでの日本の歴代政権が経験してきたように、寿司屋のお任せ状態に陥り、情報を政策に活かすことができない。ただこれは欧米諸国でも試行錯誤されてきたことである。

2003年のイラク戦争においては、当時のブッシュ米共和党政権とインテリジェンスは一蓮托生の関係となり、情報機関は存在しないイラクの大量破壊兵器の情報をでっちあげ、それが戦争の口実として利用された。他方、2026年のイラン攻撃の際には、情報機関はイランの脅威は差し迫っていないと報告したにも関わらず、トランプ共和党政権はそれを無視する形で攻撃を行った。このように時の政権と情報機関の関係には、難しいものがあることを、時の権力者は理解すべきだろう。

他方、新設される内閣情報局長については、特定の省庁に偏らないような工夫も検討されなくてはならない。既述したように内閣情報調査室の幹部人事は、特に出身官庁が定められているわけではないが、これまで室長は警察、次長は外務省の指定席であり続けて来た。

もちろん警察組織が日本のインテリジェンス・コミュニティを牽引していることは事実であるが、もう少し能力に応じた柔軟性のある人事があっても良いだろう。既述の自民党の提言書にも「特定の省庁の出身者の指定席とするべきではなく、人物本位・能力本位での任命を徹底すべきである」と記されている。

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