開発に失敗した無人のショッピングモール(筆者撮影)

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前回の記事では、中国社会が長期的にどのように老衰に向かうのかを、年金制度と人口動態を軸に考察した。そこでは、2040年代以降に社会保障制度が機能不全に陥り、2050年前後にはインフラ維持も困難になるという静かな崩壊の姿を描いた。

では、その未来に至るまでの過程はどのようなものになるのか。筆者は当面「強い中国」と「ボロボロの中国」、その両面が見られることになると予測している。

本稿では、より短い時間軸、すなわち今後5年から10年程度に焦点を当て、中国経済と社会がどのような形で変質していくのかを考えていきたい。

人口ボーナスの終えん

以下に中国の人口動態を再掲する。これを見ると分かるように、今後の中国社会は人口減少が避けられない情勢となっている。

国連の推計データより


ここから間違いなく言えることは、中国はこれまでの右肩上がりの経済成長からの転換を迫られている、ということである。

これまでの中国の経済成長は人口増加によって支えられてきた、といっても過言ではない。中国の高度成長はシンプルに言えば、若くて安い労働力と都市化、輸出主導産業という3点で回っていた。

実際のところ、労働人口の増加と農村部から都市部への移住が経済成長の燃料だったといえる。

しかし現在、人口は4年連続で減少し、高齢化が加速するという状態に陥っている。つまり、これまでのエンジンが逆回転し始めているのだ。

5カ年計画から読み取る国家戦略

人口動態の逆風のなか、中国はどのようにして成長をつかみ取ろうとしているのか。そのヒントとなるのが2025年10月に策定された「第15次5カ年計画」だ。ここのメッセージから、中国の大きな戦略変更を見て取ることができる。

2020年に定められた「第14次5カ年計画」では2035年にGDPを2020年比で倍増させるという目標が掲げられた。

しかし2025年に定められた「第15次5カ年計画」では2035年に“一人当たり”GDPを2020年比で倍増させるという目標に変更が加えられた。

ここからは事実上、人口減少社会を受け入れざるを得ない、という中国政府の方針を読み取ることができる。

そして次に筆者が注目しているのは5カ年計画の順守すべき原則として登場する「質の高い発展の堅持」という部分だ。この部分で語られているのはロボット等の現代的産業システムを構築することや、AIによるスマート化を推進するという内容である。

華々しい最先端産業と取り残される衰退産業

そしてもう一つ重要なポイントがある。5カ年計画で語られた産業分野もある一方、同時に語られていない産業分野も見えてくるのだ。

ここで日本のバブル崩壊後の社会を振り返ると、日本での経済再生は負け組も含めて議論されてきた。具体的には地方再生や中小企業支援、雇用維持といった内容だ。つまり日本では社会全体をどう維持するか、という観点で政策が決定されてきた。

しかし「第15次5カ年計画」では、これらの内容についてほとんど言及がない。つまり政策としては資源の集中によって選抜成長を生みだそうとしており、負け組は自然淘汰に任せるという、極めて厳しい裁定がなされようとしている。

つまり、AIやロボットといった華々しい最先端の産業が発展する裏側で、膨大な取り残される産業領域が広がる、という二重構造になるのではないか。

広東省の零細紡績工場(筆者撮影)

多くの場合、衣料や雑貨といった従来型の労働集約型産業はロボットによる自動化・効率化が採用されず、作業者の高齢化、設備の老朽化とともに先細りしていくだろう。おそらく、こういった旧態依然とした産業が更に低賃金となる国外へ流出することは中国政府としても容認していると考えられる。

そして筆者は、この「強い中国」と「ボロボロの中国」が同じ時間軸に存在する姿が、これからの常態となると考えている。

そうなると外部から中国という国の実像を捉えることは、これまで以上に困難になる。最先端のハイテクだけを追っていては、その裏に広がる巨大な荒廃を見落とし、逆に衰退の一面だけを切り取ってもまた、この国の持つ力を見誤ることにつながる。

では、この選別が行われるなかで、具体的にどの産業が生き残り、どの産業が沈んでいくのか。次回の後編では産業ごとの明暗と、そこから浮かび上がる社会像を掘り下げていきたい。

文/下川英馬 内外タイムス