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胃がんの発症と深く関わるピロリ菌。大分大学の山岡吉生教授はピロリ菌の世界的な権威として知られています。胃がん撲滅を目指す山岡教授を取材しました。

【写真を見る】「胃がんはなくなる」世界的権威・山岡吉生教授が挑む“ピロリ菌撲滅”への研究最前線

ピロリ菌と日本の現状

ピロリ菌とは胃のなかに生息する細菌で、胃がんの多くはピロリ菌の感染が関与していると考えられています。

日本の胃がんの罹患率は世界で2位と高いものの、ピロリ菌の除菌が保険適用となっていることや早期発見できる医療体制により、死亡率(年齢構成を調整して算出)は45位と低くなっています。しかし、海外ではピロリ菌の感染者が多く、世界的には大きな課題です。

大分大学の副学長を務める医学部の山岡吉生教授はこの10年間、ピロリ菌に関する論文の発表数と、引用された論文の件数ともに世界一で、ピロリ菌研究の世界的な権威として知られています。

山岡教授:
「感染した人全員が胃がんになるわけではないですが、胃がんの人を見ると、ほぼ100%から95%はピロリ菌に感染しています。ピロリ菌がいなければ、ほぼがんにならないという菌です」

胃がん撲滅の「成功モデル」目指す

山岡教授は1997年にアメリカのベイラー医科大学に留学。その後、執筆した論文が「Nature」などの権威ある科学誌に掲載されたほか、アメリカで有名な「グラントR01」と呼ばれる研究予算を獲得するなど、一躍世界から注目される研究者となりました。

2009年に帰国し、大分大学医学部の教授に就任。現在は国際的なプロジェクトを複数担当していて、そのうちの一つが、ブータンでの「ピロリ菌撲滅活動」です。

人口約90万人のブータンではおよそ7割の人がピロリ菌に感染し、胃がんによる死亡率の高さが深刻な課題です。山岡教授は日本政府によるプログラム(SATREPS)でブータンでの胃がん撲滅を目指しています。

具体的には全ての成人を対象としたピロリ菌検査や除菌治療のほか、日本人医師を派遣してブータン人医師への内視鏡の指導育成を進めています。

山岡教授:
「内視鏡医が元々2010年には1人しかいなかったのが、このプロジェクトが始まって8人だったんですが、それが24人まで増えています。これまで、見つからなかった早期がんが見つかってきています。理想としてはブータンからピロリ菌を完全に撲滅することです」

共同研究でワクチン開発へ

山岡教授はさらに、スウェーデンとの国際共同研究でワクチンの開発を進めています。胃に定着させないようにするワクチンにより胃がんの発症を防ぐ計画で、マウス実験では一定の成果が出ているといいます。

山岡教授:
「ピロリ菌に感染させると、3割がんになる特殊なマウスを使用しています。そのマウスに外膜のタンパクに対するワクチンを打つと、胃がんが全くできなくなったという成果が出ています。今のところ動物実験段階なので、最終的には人に応用したいと考えています」

また、山岡教授が自ら疫学調査をした国はアジアやアフリカなど18か国に上り、2024年にはシベリアやアラスカなどで、食生活に適応して進化したピロリ菌を発見したことで、大分大学開学以来初めて責任著者としての論文が「Nature」に掲載されるなど、山岡教授の研究は地球規模となっています。

「胃がん」怖くない世界へ

一方、国内でも山岡教授は東北地方の胃がん罹患率の高さに着目し、青森県のピロリ菌は日本の他のエリアとは異なる系統であることを突き止めました。これにより、国内でも地域によって毒性の違いがあることがわかりました。

山岡教授の研究室には1万株以上のピロリ菌が保管されていて、その研究が世界的に注目されていることから、現在、6か国11人の留学生が学んでいます。彼らはいずれ自国の医療を担うことになります。

山岡教授:
「ここの留学生は、それぞれの国のトップクラスが来ています。彼らには戻ってもらい、その国のトップ研究者になってほしい。その国でピロリ菌を撲滅していただきたい」

「この世からピロリ菌がない世界にすれば、胃がんはほぼなくなるんじゃないかと考えています。まず、ブータンという一つの国をモデルにそこから胃がんをまずなくす。それが成功すれば『ブータンモデル』というのが世界に広まって、胃がんが怖くない病気になるような世界にするというのが理想です」