「分子標的療法」で治療する5つの病気とは?化学療法との違いや費用も医師が解説!

分子標的療法の基本と適応疾患とは?メディカルドック監修医が、化学療法との仕組みの違いや治療費、対象となるがんの種類について詳しく解説します。

※この記事はメディカルドックにて『がん治療の1つ「分子標的療法」とは?「化学療法」との違いも医師が解説!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
横田 小百合(医師)

旭川医科大学医学部卒業。
都内の大学病院・がんセンターにてがん治療と緩和ケア診療に従事。現在はがん専門病院にて緩和ケア診療を行っている。
保有資格:医師、がん治療認定医、総合内科専門医、日本緩和医療学会認定医

「分子標的療法」とは?

分子標的療法は、がん細胞や疾患を引き起こす細胞の異常分子構造をターゲットにする治療法です。がん細胞表面の異常な受容体、細胞内の異常活性化した増殖シグナルなど、標的とする分子が明確であるというのが特徴です。

「分子標的療法」と「化学療法」の違いは?

従来の細胞障害性抗がん剤(いわゆる化学療法)は、がん細胞だけでなく正常な細胞の分裂も妨げるため、吐き気、脱毛、骨髄抑制など重い副作用が出やすいという問題がありました。これに対し、分子標的療法は、がん細胞が持つ異常のある部分(ターゲット分子)だけを選んで攻撃します。このような部分が分子標的療法と化学療法との違いです。
分子標的療法は治療効果を高めつつ副作用を抑えた「より安全で効果的ながん治療」といえますが、標的とするターゲット分子に異常がある患者のみが対象になるという点でも化学療法とは異なります。

分子標的療法の費用

保険適用の場合

分子標的薬は価格が高いことが多いですが、疾患や適応条件を満たす場合は保険診療の対象になります。負担割合は自費診療だった場合の1~3割で年齢や所得により異なります。高額療養費制度の併用も可能です。

自費診療の場合

保険収載されていない新規薬剤を自己輸入したり、適応外使用する場合は全額自己負担になります。ひと月の薬剤費だけで数十万~数百万円になることも少なくありません。一方、治験に参加する際の薬剤の費用負担は、研究機関などが負担するためかかりません。
治験等を行う高度医療機関以外で、適応外使用を行う医療機関はまずありません。「保険適応でない分子標的療法」は詐欺医療の可能性があることに注意しましょう。

分子標的療法で治療をする病気にはどのようなものがあるか

分子標的療法は、特定の分子異常と治療効果が直接結びつく疾患で用いられます。代表的なのはがんですが、他の疾患でも行われることがあります。

乳がん・胃がん(HER2陽性)

特徴:乳がん・胃がんのうち、HER2タンパクの過剰発現タイプが分子標的療法の適応。
担当科:乳腺外科、消化器内科、腫瘍内科

肺がん(EGFR遺伝子変異ありタイプ、ALK融合遺伝子変異ありタイプ)

特徴:肺がんは遺伝子変異や融合遺伝子の有無で治療方針が決まるため、診断後は全例に遺伝子変異の検索をする。EGFR遺伝子変異ありタイプ、ALK融合遺伝子変異ありタイプが分子標的療法の適応。
担当科:呼吸器内科、腫瘍内科

大腸がん(RAS野生型タイプ)

特徴:RAS野生型の場合にEGFR抗体が有効で分子標的療法の適応。野生型というのはRAS遺伝子に変異がないことを指す。
担当科:消化器内科、腫瘍内科

リンパ腫(CD20陽性タイプ)

特徴:B細胞の表面に存在するCD20を標的にした抗体薬がある。腫瘍の本体にCD20が多く発現しているときに分子標的療法の適応。
担当科:血液内科

腎細胞がん

特徴:分子標的薬である血管新生抑制薬(VEGF経路)およびmTOR阻害薬が、投薬によるがん治療の中心となる。
担当科:泌尿器科、腫瘍内科

「分子標的療法」についてよくある質問

ここまで分子標的療法を紹介しました。ここでは「分子標的療法」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。

分子標的療法はどんな人に効果的なのでしょうか?

横田 小百合 医師

分子標的療法は「ターゲットとなる遺伝子異常や異常分子構造を持つ患者」に有効です。事前にがん検体の遺伝子検査で治療適応の有無を確認します。

分子標的療法のデメリットについて教えてください。

横田 小百合 医師

分子標的療法は、治療目標とするがんの組織内にターゲット遺伝子異常がなければ効果は期待できない治療です。追加の検査費用や検査受診の負担があります。また、化学療法に比べれば少ないですが副作用があります。皮膚症状、下痢、高血圧、注入時反応など特有の副作用が出てきます。ご自身の分子標的療法で出やすい副作用を知っておくと、早期対処がしやすく、症状の悪化も予防しやすいでしょう。

まとめ

分子標的療法は「がんの異常分子構造をターゲット」にする治療です。事前の検査により、患者ごとに最適な薬を選択できる点がメリットです。
特有の副作用や費用の課題はありますが、分子標的療法のおかげで、従来治療では治療が難しかった症例にも比較的副作用の少ない選択肢を提供することができるようになっています。従来治療に加えてさらに治療の選択肢を増やすことで、QOL改善や生存期間延長に役立っている治療といえます。
一方、希望する全員が受けられる治療ではないですし、治療方針は病期やがん種により異なります。新薬でもあるため、従来治療にくらべて治療の流れや順序はさらに複雑化しています。分子標的療法も活用してより適切ながん治療が続けられるように、治療医とよく相談していきましょう。

「分子標的療法」と関連する病気

固形がん

肺がん乳がん大腸がん肝細胞がん

腎細胞がん

甲状腺がん悪性黒色腫

血液がん

悪性リンパ腫

白血病(慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病)

多発性骨髄腫

がん以外

関節リウマチ

炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)

アトピー性皮膚炎

重症喘息

尋常性乾癬

骨粗しょう症

「分子標的療法」と関連する症状

関連する症状

息が苦しくなる

血圧が上がる

出血しやすい

爪のまわりが痛む

手足の皮膚が赤くなる

下痢

疲れやすい髪の毛が抜ける

参考文献

NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology(NSCLC, Breast Cancer, Management of Toxicities)

ESMO Clinical Practice Guidelines - Management of toxicities from targeted therapies

国立がん研究センター(NCC)「薬物療法(分子標的治療)」