最高年収1,500万円を誇った元事業部長、65歳まで現役のはずが、60歳で「1日中ぼんやりテレビ」。会社員人生“まさかの終わり方”に妻「自業自得ね」
かつては「仕事ができるエリート」として評価されていた夫。しかし、その裏で積み重なっていたのは、周囲との軋轢と“孤立”でした。仕事の実績だけでは測れない「人との関係性」が、定年後の人生にどのような影を落とすのか--事例とともに見ていきましょう。
仕事では評価されても「嫌われ者」の夫
「うちの人、会社に居場所がなくなったんです。いま、何もすることなく家でぼんやりしてますよ。自業自得ですね」
そう話すのは、妻の美咲さん(仮名・58歳)。夫の浩一さん(仮名・60歳)は、業界大手で事業部長を務めていた人物。ピーク時の年収は1,500万円、役職定年後も1,000万円前後を維持していました。経歴だけを見れば、誰もが羨むエリート会社員です。
ですが、そのキャリアの終わりは、ずいぶんと寂しいものでした。
浩一さんは筋金入りの“体育会系”。学生時代から上下関係に厳しく、結果がすべてという価値観。そのスタイルは社会人になってからも変わりませんでした。
「家でもそう。気に入らないことがあれば、露骨に態度に出すし、上から目線で本当に扱いづらい人なんです。会社で浮いてるんじゃないかなと思っていました」
家族も参加する会社行事をきっかけに、同僚の妻たちとの交流があったという美咲さん。そのなかで、夫の“外での評判”を知ることができたといいます。
「仕事はできるけど、とにかく怖いって有名らしい」
「若い子たち、かなり萎縮してるみたい」
「女性社員からは特に評判よくないって」
会議室で部下を叱責するのは日常茶飯事。人前で声を荒げることも珍しくない。本人にとっては指導のつもりでも、周囲から見れば威圧的で、関わりたくない上司。“ああ、やっぱり外でもそうなんだ”――何の違和感もなかったといいます。
65歳まで働くはずが、60歳早々に自ら会社を去ったワケ
厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(令和5年度)によると、過去3年間にパワハラの相談があったと答えた企業は64.2%(前年比+16.0%)に上っています。
こうしたパワハラ相談の増加は、単に問題が増えたというよりも、相談窓口の整備や意識の変化によって“可視化された”側面が大きいと考えられます。今や中小事業主を含むすべての事業主が職場におけるパワハラの防止措置義務の対象になるなど、時代は確実に変わっています。
浩一さんのような指導スタイルは、かつては許容されていたかもしれません。しかし、今は明確にリスクとみなされ、企業も対策を強めています。それでも浩一さんは、どこかでこう思っていたのでしょう。
「仕事ができれば、それでいい」
「これが自分のやり方だ」
浩一さんの会社でもハラスメント対策が強化され、研修も行われるようになりましたが、浩一さんに変化はありませんでした。美咲さんが仕事に口を出そうものなら、上から目線で否定されるだけ。もはや、浩一さんに注意できる人は誰もいなかったのでしょう。
転機は、60歳を目前にしたある日のこと。帰宅した浩一さんは食事も取らず自室にこもり、翌朝、ぽつりとこう告げました。
「あんな会社、もう辞める。これからは家にいるからな」
営業畑一筋だった浩一さんは、業務と無関係な部署へ異動を命じられました。いわゆる“閑職”です。人事に抗議しても、明確な説明は得られなかったといいます。美咲さんは、すぐにその理由を理解しました。
「人望がなさすぎた」
「同じ部署で働きたいと思う人がいなかった」
結果として、浩一さんは自ら会社を去る道を選びました。
変われない人が失うもの
退職金は約3,000万円。貯蓄も2,400万円ほどあり、生活に困る状況ではありません。それでも、その後は決して順調ではありませんでした。
プライドの高さから再就職はうまくいかず、日中はやることがない。テレビを眺め、時間を持て余す日々。かつての部下や同僚から連絡が来ることもありません。
内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)」によると、孤独感を感じるかの問いに対し、60歳代で「しばしばある・常にある」と答えた人は全体で4.4%。男女別だと男性が5.6%、女性が3.8%と男性のほうが割合が多くなっています。
また、孤独感が「しばしばある・常にある」、「時々ある」、「たまにある」と回答した人(孤独感が比較的高い人)が現在の孤独感に影響を与えたと思う出来事の回答を見ると、「家族との死別」が24.6%と最も高く、「一人暮らし」(18.8%)、「転校・転職・離職・退職(失業を除く)」(14.7%)となっています。
ここからは、「人とのつながりの喪失」が孤独を生む要因になっていることがわかります。浩一さんもまた、そうした一人だったのでしょう。会社という居場所を離れたことで、これまで当たり前にあった人間関係がぷっつり途切れたのです。
一方の美咲さんは、あえてパートのシフトを増やしました。
「ずっと一緒にいたくない。距離を取らないと、こっちが参ってしまうから」
会社に居場所がなくなった夫は、家でも居場所を失いつつありました。
浩一さんのケースは、決して特別ではありません。「これが自分のスタイルだ」と変われなかった結果、気づいたときには周囲から距離を置かれている――そんな例は、少なくないのです。
年齢を重ねるほど求められているのは、「結果を出せる人」であること以上に、「一緒に働きたいと思われる人」であること。どれだけ実績を積み上げても、“いてほしい人”でなければ、居場所は残りません。
その現実に向き合えるかどうかが、会社員人生の後半を大きく左右するのかもしれません。
【参考】
厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要(令和5年度)」
内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)」
