ベリベリホース流行の火付け役「絶対使った方がいいと…」 戸崎圭太に聞いた“名言”誕生の裏側
初の著書発売 オファーに「正直驚きも」
中央競馬の戸崎圭太騎手が今月26日、初の著書「やり抜く力 天才じゃなくてもトップになれた『ベリベリ』シンプルな理由」(Gakken)を発売した。勝負師としての心得や名馬とのエピソードなどが描かれ、ファン垂涎の一冊に。昨年、G1ドバイシーマクラシック制覇とあの“名言”「ベリベリホース」で注目を集めた実力派騎手が今回、自身の歩みを振り返りながら、競馬への向き合い方や影響を受けた騎手、名言誕生秘話について語った。(取材・文=猪俣 創平)
本書の出版オファーを受けたのは、昨年夏。「正直、驚きもありましたし、『僕でいいのかな?』とも思いましたけど、せっかくなのでやらせていただこうと決めました」と当時の心境を振り返った。
本書では、万年補欠の野球少年がトップジョッキーになるまでの足跡や、落馬によるけがと長期離脱、中央競馬への移籍の壁、好成績の裏にあったスランプなど知られざる試行錯誤と葛藤がつづられている。
さらに、戸崎騎手について、元騎手で調教師の福永祐一氏と石崎隆之元騎手へのスペシャルインタビューも収録されており、読みどころ満載といった感じだ。戸崎騎手は今も尊敬する騎手を聞かれると、真っ先に「石崎さん」と名前を挙げる。では、現役騎手で衝撃を受けた人物は誰なのだろうか。
3年連続リーディングのクリストフ・ルメール騎手や“レジェンド”武豊騎手か――? 少し考えてから、「外国人ジョッキーになっちゃうんですけど、ライアン・ムーアですね」と日本人ファンにもおなじみの、イギリス出身の世界的トップジョッキーを挙げた。
「馬乗りの技術もなんですけど、馬を降りてからの仕草とか考え方とか、寡黙に見えて競馬に対する熱い思いがすごいです。エージェント(騎乗仲介者)が一緒だった時に、一度食事をさせてもらって、いろんな話を聞きましたけど、よく考えているなって」
自身は45歳、ムーア騎手も42歳と同世代であり刺激を受けている様子。特に印象深いのはレースに対する徹底した準備だった。
「レースごとに作戦を立てるのは当たり前ですけど、彼はジョッキーの癖まで把握しているんですよ。このジョッキーだったらここで動くとか、外に持ち出すとか内を突くとか、そういう癖も勉強していると聞いて驚きました。僕は何度も同じレースに出ているから『この人はこういうジョッキーだな』とある程度は分かってはいますけど、彼が各騎手の癖もつかんでいると聞いて、一つのレースをとてもシビアに考えていると思いました」
年下ながら、世界を股にかける一流の姿勢に感銘を受けた。もっとも、ムーア騎手をはじめ外国人騎手の影響を受けて、2013年の中央移籍後に「迷走」していたことも本書で打ち明けている。また、中央移籍から毎年のようにリーディング争いを続けていたが、その裏では「勝たなければいけない」というプレッシャーにも苛まれていた。
追い打ちをかけるように、2019年11月には落馬により右ひじを開放骨折。復帰後も、右手の感覚は完全には戻らなかった。しかし、22年からは「楽しく乗れるようになった」と変化を明かしている。
ドバイでの勝利後「パッと出た」ひと言で掴んだ変化
「けがもして、上手く乗れない時期がありました。その時に、『これはより馬を感じて乗らなきゃ』と思った時に、だんだんとその感触、感覚が良くなってきたんですよ。『わあ、馬と通じるってすごく楽しいな』と思えてきたんです」
この心境の変化が、成績にも直結した。22年に年間136勝を挙げてリーディング2位に返り咲くと、その後は各実力馬に騎乗し、次々とG1タイトルも手にした。23年にはソングラインでヴィクトリアマイルと安田記念に勝利。24年はジャスティンミラノで皐月賞を、レガレイラで有馬記念を制覇した。
そして昨年の戸崎騎手を語る上で外せないのが、著書のタイトルにも入っている「ベリベリホース」という言葉だ。それは昨年4月、ダノンデサイルとのコンビで挑んだG1・ドバイシーマクラシック勝利後、馬上インタビューで飛び出した。
後にジャパンカップをレコードタイムで勝利するカランダガンの追撃を押さえ、先頭でゴールを駆け抜けた。興奮冷めやらぬ中、戸崎騎手は苦手だった英語でのインタビューに応じた。「すごくいい馬」という思いを伝えたったと推察されるが、「準備していたわけではなく、パッと出たので」と当時を回顧。もっとも、すぐに自ら“持ちネタ”として使い始めると、すっかり競馬ファンの間でも流行語となり、おなじみのフレーズとして定着した。
実は、流行となるきっかけを後押しした人物がいた。「(坂井)瑠星に『絶対使った方がいいですよ』と言われました。『え、そうなんだ』と戸惑いもありましたけど、瑠星が言うなら使ってみるかと……」。後輩騎手のアドバイスをきっかけに使い始めたが、ここまでの反響は予想外だったという。
「皆さんに浸透して、ファンの方も一緒に『ベリベリホース』と言ってくれるので、すごくありがたいですよね」と照れ笑いを浮かべ、当初の“迷言”が、“名言”になったことに感謝する。そして、この言葉に救われたことも明かした。
「昨年は『ベリベリホース』で本当に勢いをつかせてもらいました。自分自身もそこから変わった意識があります」。事実、その後もエリザベス女王杯をレガレイラで制し、中央132勝を挙げて勝利数2位、勝率3位、獲得賞金3位という好成績を残して、2年連続6度目となる、騎手にとっての栄誉「MVJ(Most Valuable Jockey)」を受賞した。
さらに「あの言葉をきっかけに僕を知ってもらえたことで、もっと発信していこうという気持ちになりました」と自らの殻を破るきっかけにもなった。これまでSNSには触れてこなかったが、昨年5月に公式YouTubeチャンネルとインスタグラムを開設。YouTubeは12月時点で登録者数が10万人を超えるなど大きな注目を集めた。
その変化は、若手騎手たちにも伝わっている。「(横山)武史から『戸崎さんの話を聞きたい若手騎手がたくさんいますよ』と言われました。今度飲み会を開いてくれるみたいです」と明かし、存在感の広がりがうかがえる。昨年つかんだ「ベリベリホース」の流れは著書の出版、そして新たな挑戦と、幸運を運んできた。
さて、春のG1シーズン、クラシック戦線もいよいよ本格化する。「けがなく1年間やって、少しでもリーディングに近づきたいなと思っています。大きいレースでも有力馬に乗せていただいているので、どんどん勝っていきたいです」と言葉に力を込めた。再び熱き戦いを迎える45歳の進化は、まだまだ止まらない。
■戸崎圭太(とさき・けいた)
1980年7月8日、栃木県生まれ。98年、南関東・大井競馬で騎手デビュー。2008年から12年まで5年連続で南関東リーディングジョッキーを獲得する。11年にはリアルインパクトで安田記念を制し、中央G1初制覇。13年に中央へ移籍すると、翌14年から3年連続でJRAリーディングジョッキーに輝いた。16年には特別模範騎手賞を受賞。25年4月、ドバイで行われたドバイシーマクラシックを制し、海外G1初勝利を達成。その際に放った「Very very horse!(ベリベリホース)」という言葉が話題に。160.8センチ、49.7キロ。
(THE ANSWER編集部)
