「狩野英孝」はなぜ、中高生の「好きな芸人」1位に選ばれたのか 「攻撃性のない笑い」を求める今の若者に刺さる存在
前年はランク圏外
LINEリサーチが2026年1月に実施した中高生調査で「一番好きなお笑い芸人」の1位に狩野英孝が選ばれたことが話題になっている。前年はランク圏外だったところからの急上昇である上に、男子中学生、男子高校生、女子高校生で1位、女子中学生でも3位に入っており、幅広い層から支持を得ていることがうかがえる。【ラリー遠田/お笑い評論家】
***
【写真】「なんですかこの顔は」「ほんとに天才です」…衝撃の仮装姿を披露した狩野英孝
狩野が選ばれた主な理由としては「個性的/ユニークだから」と「動画配信(YouTubeなど)がおもしろいから」ということが挙げられていた。
今の時代に狩野が中高生に支持されているのは、不思議に感じる人もいるかもしれない。なぜなら、彼はすでにキャリアの長いベテラン芸人だからだ。

2000年代後半にホスト風のキザな人物を演じるコントで注目された彼は、ちょっと抜けたところのある「天然キャラ」としてバラエティで活躍してきた。「ラーメン、つけ麺、僕イケメン」「スタッフゥー」といった決めフレーズでも知られていた。
しかし、その後に大きなトラブルに見舞われた。複数の女性との交際報道に続いて、未成年女性との淫行疑惑が報じられ、事務所から謹慎処分を受けた。ここまでの彼の歴史を、現在の中高生は、直接は知らないと考えられる。そんな狩野が今も若者から支持されている理由は何なのか。
きっかけになったのは、活動再開後にYouTubeチャンネルを始めたことだ。芸人の中でもいち早くゲーム実況の動画を多数公開するようになり、そこで新たなファンを獲得していった。ゲームをプレーする狩野のピュアなリアクションと人柄の良さが評判になった。時に奇跡的なハプニングを起こすところも面白がられていた。
テレビに出始めた頃の狩野は「イジられキャラ」として認識されていた。派手なリアクション、自己陶酔的なキャラクター、自作の歌の絶妙なクオリティなどによって、天然とも計算ともつかないズレ方によって笑いを生む存在だった。その時期の彼は、どちらかと言うと誰かに料理されて輝くタイプのタレントであり、本人が笑いの主導権を握ることはなかった。
ノイズが笑いに
しかし、YouTubeが普及して、動画配信の時代に入ると、彼の「ズレ」は欠点ではなくなった。むしろ、編集されすぎていない素のキャラクターが伝わる場所でこそ、狩野英孝の魅力が出ていた。
今の中高生は、芸人を単に「テレビに出るタレント」として認識しているわけではない。YouTube、ショート動画、切り抜き、SNS上の話題を経由して、その人物を断片的かつ反復的に摂取している。その環境では、ネタやトークの面白さだけでなく、「見ていると何かが起きそう」「毎回少しずつ違う顔を見せてくれる」「失敗しても嫌味にならない」といった資質こそが強い武器になる。狩野はまさにそこに適合する存在だった。
彼のゲーム実況動画は、ゲームが上手いから見られているのではない。上手くいかなさ、読み違い、場違いなテンション、予測不能な言い間違いなど、本来ならノイズとなるような要素自体が笑いにつながっているから強いのである。
さらに重要なのは、狩野英孝の笑いが、誰かを傷つけたり排除したりする方向に向かいにくいことである。今の若い世代は、攻撃性や圧力を含んだ笑いに距離を取る傾向がある。
その点、狩野は絶妙である。何を言い出すかわからない危なっかしさはあるが、他人を傷つけることはなく、自分が転んで結果的に笑いを生む場面が多い。だからこそ、見ていてスリルがあるのに、後味が悪くなりにくい。安全だが退屈ではない笑いを提供する狩野は、今の時代には貴重な存在だ。
人物としての狩野英孝の本質は、完成された芸人ではなく、永遠に未完成なスターであるという点にある。普通、芸人は年齢を重ねるにつれて技術が洗練され、振る舞いが安定し、笑いの取り方が予測可能になっていく。だが狩野は、ベテランになってもなお「次に何をするかわからない」という良い意味での危うさを保っている。
狩野が中高生に支持されているのは、彼が若者に寄せたことをやっているからではない。メディア環境が彼に有利なように変わっていった結果、多くの若者が彼の面白さを受け取る土壌ができたからなのだ。
ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。
デイリー新潮編集部
