「ナチュラル」会長逮捕でも「メンバーには給料が支払われ、組織は平常運転」…マル暴刑事まで懐柔する「凶悪スカウト集団」を重罪に問えない事情とは
「協力者はひとりではない」
新宿・歌舞伎町を拠点に活動を始め、国内最大規模といわれるまでに膨張したトクリュウ型スカウト集団「ナチュラル」。そんな謎多き組織に、大きな動きがあった。今年1月、警視庁暴力団対策課は同集団の会長、小畑寛昭容疑者(41)を逃亡先の奄美大島で逮捕したのだ。
組織の関係者に接触するなど入念な取材を続け、『捕食 欲望をカネに変えるトクリュウ型犯罪集団「ナチュラル」の闇』(講談社)をまとめあげた元NHK記者の清水將裕氏によると、いまや国内で性的なサービスを提供する店の約20%はナチュラルと取引をしているとまで言われ、年間に動くカネは100億円単位、1年間の収益は少なくみてもおよそ50億円にのぼるという。当然、税金も払っていない。

トップの逮捕により、組織の解体が進む……かと思いきや、そう簡単にはいかないようだ。匿名・流動型グループであるがゆえ、トップが抜けても組織は稼働し続けているのだ。また、昨年11月にはナチュラルに捜査情報を漏らしたとして、あろうことか警視庁暴力団対策課の刑事が逮捕された。だが、清水氏によると「警察の協力者はひとりだけでなく、複数存在する」という。【高橋ユキ/ノンフィクションライター】
前編【“異形のスカウト集団”メンバーには「早慶MARCH」の大学生も…“自前のアプリ”と“凄惨な暴力”で支配する最凶トクリュウ「ナチュラル」の実態】からの続き。
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ナチュラル会長・小畑容疑者は今年1月26日に逮捕された。容疑は東京都暴力団排除条例違反である。警視庁は逮捕に先立つ同月21日に小畑容疑者を公開手配し、行方を追っていたところ、情報提供を受けたことにより居所を掴んだ。2月には職業安定法違反容疑で、さらに、3月11日までに職業安定法違反(有害業務紹介)容疑で再逮捕されている。
だが『捕食』を執筆した清水將裕氏は「逮捕されてから“給料日”が複数ありましたが、メンバーには普通に支払われているようです」と、組織の動きは止まっていないと語る。これは「仕組み化」先行であるトクリュウならではの組織形態も関係している。
「暴力団組織のように、トップが見えるところにいて、具体的に指示を出したりするという形態ではない。ナチュラルでは組織としての『仕組み』が出来上がっている。会長はスカウトをするわけでもなく、その上がりを収益にしているわけなので、ヤクザ以上にトップは何もしなくても組織がまわる。小畑容疑者には弟がおり、今(※編集部注、3月上旬現在)は、その弟を中心に幹部が複数で組織運営をしているようです。組織が完成されているので、会長が捕まろうが、止まることはない。人がいなくても会社は回る、などと言われますが、そういう意味でもやはりナチュラルは“会社”に近いといえます。もちろん、ナチュラルに対する世間の風当たりも強くなってきて、店舗の中には契約を止めるところも出てきていますが、まだ大きな影響はないようです」(清水氏、以下「」内同)
「ナンパしてただけ」
実際に清水氏が接触したメンバーは、組織を“会社”と称していた。
「クリア、ホワイトなどといった別名を使う場合もありますが、基本的に“会社”と呼んでいますね」
驚くべきことに、そもそも自身が属する組織をナチュラルだと認識していない者も存在するのだそうだ。会長が逮捕されたといっても、都条例違反や職業安定法違反はさほど重い罰則が科されるわけでもない。ナチュラルは組織のエンジニアが作成した独自のアプリでメンバーを管理し、スカウト活動をバックアップしているが、現行法ではこれを罪に問うことも困難だ。
2025年6月の風営法改正以降はスカウトバック自体が違法となり、6月以下の拘禁刑や100万円以下の罰金が科されることとなった。だが、スカウト側にも、店舗側にも逃げ道は残されている。「路上でのスカウト行為を警察に咎められてもスカウトは“ナンパしてただけですよ”と言い張るし、ナチュラルに金を支払う店舗側も、スカウトバックとは言わず、広告料や顧問料、人材紹介費など名目を変えているケースもあるので、なかなか摘発は難しい」のだという。
それどころかナチュラル側は、「徹底抗戦の構えを見せており、別のスカウトグループ『アクセス』のように解散届を出す雰囲気ではない」というから、組織壊滅にはほど遠いようだ。難敵を相手に地道に捜査を続ける警察だが、ナチュラルはその組織にも侵食している。片鱗が見えたのは昨年11月12日。ナチュラル側に捜査情報を漏らしたとして、まさに捜査に関わっていた刑事が逮捕されたのだ。
「ウイルス」
地方公務員法(守秘義務)違反容疑で警視庁に逮捕されたのは、警視庁暴力団対策課の警部補だった神保大輔被告(43)だった。ナチュラル内部において警察は“ウイルス”や“プロ”などと呼ばれ、摘発を防ぐための対策が講じられていたが、彼らはその警察までも取り込んでいたのである。神保被告は、警察が監視していた会長の自宅や関係先に設置されたカメラの位置をナチュラル側に漏らしていた。
清水氏は神保被告の逮捕前から、警察による情報漏洩について、取材で耳にしていたという。
「神保被告の名前は知りませんでしたが、ナチュラルに警視庁の協力者がいるとの噂は聞いていました。実は、取材を進めるなかで、私が独自に警察から得た情報と同じ内容を、ナチュラルの関係者から聞くことがあったんです。なぜナチュラルが警察の情報を共有しているのか疑問を持ちました。2月26日に開かれた神保被告の初公判では、自宅から約900万円の現金が見つかり、紙幣にナチュラル関係者の指紋が付着していることも明らかになりました。神保被告はプライベートで複数の離婚歴があり、子供もいた。弱みを握られ、また、金を握らされてナチュラルに絡めとられたのではないかと見ています」
そのうえ「警察の協力者は複数いると聞いています」と、取り込まれている捜査機関の人間は、神保被告ひとりだけではないとも言う。こうした困難を伴う捜査において、さらなるハードルとなっているのがナチュラルの“現金主義”である。メンバーへの支払いや金の移動など、全てを現金で行うため、カネの流れを把握することが困難となっている。
「会長の逮捕によりビビっている状態ではありますが、現在に至るも、おおむね平常運転といった印象ですね」とナチュラル内部について語る清水氏だが、実のところ「ナチュラル自体を攻撃しようという意図は持っていない。むしろこうした組織を生み出している社会のありかた、若者の価値観の変化を知りたい」という思いから取材を続けてきたのだという。
まっとうな会社で働くのは「タイパが悪い」
スカウトとして稼働するのは男性であり、また多くが大学生などの若者である。もし大学生の頃にスカウトを始めたとしても、就職活動を機に足を洗うこともできる。にもかかわらず、大学を卒業しても続けている若者がいるという。なぜなのか……と問うと、清水氏はこう解説してくれた。
「まっとうな会社で20年働き続け、下積みから始まってさまざまな経験を積むことは自分の財産となります。しかし、いまの若者たちはこれを“タイパが悪い”と思うようです。彼らにしてみれば“20年の会社勤め”は長すぎるし、10年修行することさえ“ちょっとな……”と思う。もっと手っ取り早くお金を稼いで、それを元手に起業したり、自分の思い描くビジネスを展開したい。だから“とりあえずお金が欲しい”と語るメンバーは結構いました。ナチュラルでスカウトに精を出して月200〜300万円もらったとして、5年も続ければまとまったお金ができますからね」
スカウト行為に対する締め付けは急激に厳しくなっているが、
「とはいえ、“トクリュウ”と聞いてイメージするような強盗や特殊詐欺に手を染めるわけではない。ナチュラルのメンバーの多くはスカウトを“ぎりぎりグレー”だと考えている。“たぶんグレーな仕事だけど、とりあえずパパっと稼いで、それを元手に自分の好きなことやりたい”というマインドですね。彼らの多くは頭が良くて、コンサルや営業職でも活躍しそうな雰囲気がありました。地道にキャリアを積むより、グレーな仕事であっても“まずはとにかく稼ぎたい”と。そうした若者の価値観と合致したのが、組織として極めて合理的で高額の報酬を期待できるナチュラルだったのかもしれません」
多くの若者を取り込んで、膨張し続けるトクリュウ型犯罪集団――。高学歴なメンバーを動かす驚愕のシステムについては、前編【“異形のスカウト集団”メンバーには「早慶MARCH」の大学生も…“自前のアプリ”と“凄惨な暴力”で支配する最凶トクリュウ「ナチュラル」の実態】で報じている。
高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。
デイリー新潮編集部
