M-1優勝「たくろう」に勝るとも劣らぬ活躍…3位「エバース」にCMオファー殺到の理由
ニュートラルなキャラクター性
漫才日本一を決める「M-1グランプリ」は、お笑い界で最も注目度の高い一大イベントである。そこで結果を出した芸人は世間に注目されて、一気に仕事を増やしていくことになる。【ラリー遠田/お笑い評論家】
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【写真】「さすが野球経験者」「ダイナミックなフォーム」…エバース・佐々木の投球姿
昨年末の「M-1グランプリ」に出場して、見事に勝ち組になったのは誰なのかと言えば、その筆頭は優勝したたくろうと準優勝したドンデコルテの2組である。彼らはテレビを中心にしてさまざまなメディアで精力的に活動している。
ただ、そんな彼らに勝るとも劣らないほどの活躍をしているのがエバースの2人だ。エバースは昨年の「M-1」で3位という結果に終わったものの、2年連続で決勝進出を果たしており、その実力を印象づけることには成功した。

今年に入ってから、サントリーのウェブCMにコンビとして起用され、マクドナルドのPR動画には町田和樹が出演した。また、昨年の「M-1」でロボット掃除機のルンバに関する漫才を披露したことを受けて、販売元であるアイロボットジャパンのルンバのPRイベントにも登壇した。
広告系の仕事が次々に舞い込んでいる上に、レギュラー番組の「夜明け前バラエティ トワライト」をはじめとしてバラエティ番組で目にする機会も多くなっている。
彼らの強みは、ネタの完成度の高さとニュートラルなキャラクター性にある。「M-1」は多くの人が注目するイベントであるため、お笑いに馴染みのない視聴者にとっては面白さがつかみにくいことがある。
そんな中でエバースの漫才は、構造的には緻密でありながら、笑わせるための仕組みが明確で理解しやすい。専門家が見ると構成の上手さや技術の高さを評価したくなるし、ライト層が見ても単純に面白い。
どちらにも刺さる要素を持っているということは、幅広い層に魅力が伝わりやすいということだ。この点が、スポンサー企業にとって彼らを起用したくなる要素になっている。
見た目も中身もクセがない
また、エバースの2人はわかりやすい強いキャラクターを持っているわけではなく、どちらかと言うと見た目も中身もクセがないタイプである。だが、そういう部分こそが見る側にとっては身近に感じられ、親しみを持てるようなところもある。
一般的には、わかりやすいギャグや強烈な個性を持っている芸人の方がCMに起用されやすいイメージがあるかもしれないが、必ずしもそうとは限らない。「笑わせようとしていない瞬間でも成立する存在感」を持っているというのも重要な条件である。
バラエティ番組ではボケやツッコミの瞬発力が重要になるが、広告や企業イベントではむしろ逆で、過剰に芸人らしく振る舞わないことが求められる。エバースは、漫才ではしっかり笑いを取りながらも、素の立ち姿に過度なクセがなく、清潔感と親しみやすさが同居している。このニュートラルな印象が安心感につながっている。
現在のテレビ・広告業界では「とがりすぎていない才能」が以前よりも強く求められている。炎上リスクはキャスティング判断の重要な指標となっていて、企業は爆発力よりも安心感を求める傾向が強くなっている。
エバースは芸風的にも人格的にも偏った要素が少ないが、漫才師としての実力は担保されている。リスクが低いのに実力は高いというこのポジションは広告市場において貴重である。
コンビのブレーン的存在である佐々木隆史は、自分より大柄で不思議なたたずまいの町田を巧みにコントロールして、ネタでもトークでも笑いを生み出している。町田は普通に話していても受け答えに独特のとぼけた味わいがあり、CMでもそんな彼の個性が生かされている。
エバースは、派手なインパクトや極端な個性によって注目を集めるタイプではないが、漫才師としてのたしかな技術を土台にしながら、過度に自己主張しすぎないニュートラルなたたずまいを保っているからこそ、テレビ、広告、イベントなど多方面で活躍を続けている。
「M-1」の順位は3位だったものの、彼らもたくろうやドンデコルテと並ぶ立派な勝ち組なのだ。
ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。
デイリー新潮編集部
