「パワハラが横行する職場」がそれでも「回る」驚きのワケ…認めたくない「暗黙の合意」という存在
多くの会社で、今もなお横行しているパワハラ(パワーハラスメント)。そこには、「暗黙の合意」と呼ばれるものが横たわっているという。『マネジメントの原点 協働するチームを作るためのたった1つの原則』の著者、堀田創氏が、「暗黙の合意」の正体と、リーダーが知っておくべき、職場からパワハラをなくすための気づきを教える。
パワハラが今もなお横行している理由
パワハラは、アビューシブ・スーパービジョン(攻撃的な上司行動)とも呼ばれ、数多くの研究対象となっています。ある米国企業の調査では、社員の約13%が直近1カ月以内に罵倒や恫喝を経験。日本では厚生労働省の令和2年度実態調査で、過去3年間にパワハラを一度でも受けた労働者は31.4%、およそ三人に一人の割合でした。
6000件超の職場データを統合した最新メタ分析では、上司の侮蔑的発言や威圧的振る舞いがあるとチームの心理的安全性は大幅に下がり(相関係数で−0.45)、同時にメンバーの離職意図が大幅に高まる(相関係数で+0.42)ことが示されました。
つまり、攻撃的マネジメントは「黙らせる」と「辞めさせる」をワンセットで組織にもたらす赤字施策だと、統計的にも裏づけられているわけです。
ではなぜ、これほど明らかなデメリットのある問題が、今もなお横行するのでしょうか。事実、メンバーが疲弊していても、なぜか組織は動いているのです。
「あの職場にはまともな話し合いすらない。合意なんて存在しないはずだ」と感じるかもしれません。しかし実際には、どんなに不健全な職場であっても、チームが「回って」いるなら、そこには何らかの合意が存在しているのです。
人間関係がひどく歪み、上司が威圧的で部下が萎縮している現場でも、メンバーが辞めずに働き続けるのは、少なくとも表面上「それでいい」と思える暗黙の合意が形成されている証拠です。もう少し詳しくいうと、沈黙・回避・同調が積み重なった機能的均衡が生じているためです。
これは自発的同意ではなく、構造と心理の力学で生まれる暗黙の前提にすぎません。とはいえ、人々がその前提に従う限りそれは事実上の「暗黙の合意」として働くことになります。
ここでいう合意とは、決して「全員が心から納得している」状態だけを指すわけではありません。嫌々ながらでも従っていたり、諦めて妥協していたりする場合にも、そこには確かに合意が横たわっています。
ご都合主義の「暗黙の合意」から始まる
パワハラを受けている当事者からすれば、「受け入れる選択を自らした覚えはない!」「他に方法がないだけだ」と強く反発したくなるでしょう。その感情は当然のものです。むしろ、それほどまでに他の選択肢が思いつかない精神状態に置かれているということでもあります。
ただ、私たちがその状況を「自分には何の選択権もない」と感じるとき、心の中で「現状を前提とする生き方」を受け入れてしまうことがあります。
それは心理的な自己防衛の結果であったとしても、結果的に組織の歪んだ前提(暗黙の合意)を温存する力として働いてしまうことがあります。
もし「合意なんて存在しない」「他の選択肢などなかった」と思い込んでしまえば、次にどのように変えていけばよいのか――つまり「その合意をどう書き換えるか」という発想自体が生まれにくくなるのです。
一方で、「実は不健全な合意があるかもしれない」と気づくことには大きなメリットがあります。たとえば、次のようなものです。
・これまで黙っていた同僚や部下との間で、「自分たちも本当は違和感を覚えていた」という共感が生まれる可能性が高まる。
・自分自身が意図せずに加担していた構造を可視化でき、そこから抜け出すきっかけをつかめる。
・組織の空気や慣習にまつわる根本的な問題をあぶり出し、具体的な改善策を考えやすくなる。
どんなに不可解に見える状況でも、たとえ歪んだ形であれ、チームが維持されている以上は何らかの合意がある。この事実を受け止めることから、健全な合意に作り替えていくための一歩が始まるのです。
だからこそ、「うちの職場には合意なんてない」と断じる前に、「もしかすると、不健全な形で合意してしまっているのではないか?」と疑ってみようというのが本記事の趣旨です。
それは自分自身へ責任を問うためでは決してありません。沈黙の構造を可視化し、変化の起点を取り戻すためのきっかけとすることが目的です。
後編記事〈なぜパワハラ上司に「誰も反対しない」のか…あきらめムードに支配された職場に潜む「暗黙の合意」の正体〉では、ひきつづき「暗黙の合意」をキーワードに、職場のパワハラがなくならない理由を考えていきます。
