●SNSでは「そんなに忘れるなんて不自然」の声
反町隆史、大森南朋、津田健次郎のトリプル主演で、“こんなはずじゃなかった”大人たちの再会と再生を描いた「1988青春回収ヒューマンコメディ」のフジテレビ系ドラマ『ラムネモンキー』(毎週水曜22:00〜 ※TVer、FODで配信/FODで次話先行配信)の第7話が、25日に放送された。

SNSを見渡すと、「そんなに記憶って塗り替えられるもの?」「そんなに忘れるなんて不自然」といった言葉が散見される今作。だが実は、これは正常な脳でも起こり得るとご存知だろうか? そこで今回は、医学論文から見た「記憶の塗り替え」について触れておく。

(左から)津田健次郎、大森南朋、福本莉子、反町隆史 (C)フジテレビ

○【第7話あらすじ】マチルダが怪しいバイトを…?

吉井雄太(反町)たちが「ランボー」と呼んでいた男・二瓶清吉(野仲イサオ)は、1988年のクリスマスに暴行を受けていた。鶴見巡査(濱尾ノリタカ)が調べたところ、ランボーに危害を加えたのは竿竹屋の鳥飼久雄(村上航)という男だと判明する。

鳥飼は地元の暴力団「白狼会」の構成員だった。雄太、藤巻肇(大森)、菊原紀介(津田)は、当時の鳥飼を知る阿部から話を聞く。阿部によると、鳥飼は竿竹屋の裏で金さえもらえば殺しも行うような危ない仕事を請け負っていたという。「女はうぶな顔をして恐ろしいことを平気でする」という阿部の話に、黙り込む3人。マチルダこと宮下未散(木竜麻生)の失踪にも鳥飼が関わっているのか…?

西野白馬(福本莉子)から事件のあった1988年のクリスマスに何をしていたのか問われた3人は、部室で映画の編集をしていたことを思い出す。1月6日の上映会を控えて編集作業に熱が入る中、「トレンディさん」と呼んでいた男・望月学(三浦りょう太)がクリスマスの前日に部室に差し入れを持って来ていた。

そんな中、白馬はSNSである画像を目にする。1980年頃の大学生たちの中に、マチルダの姿があった。白馬が画像を投稿した高校生に連絡すると、マチルダと共に写っていた祖父と祖母を紹介してくれるという。4人は早速話を聞きに行くのだった。そこで雄太らは、マチルダには二面性のようなものがあったと聞く。キャンパスパブで働いていたというのだ。

さらに、トレンディさんが竿竹屋にマチルダ殺害の依頼をしたのではないかという疑惑が持ち上がる。そこでトレンディさんの元彼女の日記が手に入り、トレンディさんが仕事でトラブルを抱えていたことを知る。そこで紀介は、クリスマスにトレンディさんがマチルダに大金を渡そうとしていたことを思い出す。2人の間にトラブルがあったのではないかと3人。

マチルダがお金のためには何でもするヤバい女だったのでは…と結論付けられた直後、写真に写っていた当時のマチルダの同級生から電話が。悪いアルバイトをしていたのは彼女で、マチルダが罪をかぶっていたのだという。マチルダの誤解は解ける。だが新たな謎が。なくなったVHSの12巻をトレンディさんが血眼になって探していたのではないかという新たな疑惑が浮上したのだ。そして3人は思い出す。映画研究会には、もう1人の部員がいたことを。

木竜麻生 (C)フジテレビ

○かわいらしいおじさんたちのクリスマス

1988年のクリスマス──紀介は、マチルダが多くの男性にプロポーズされ、それを断っていたという記憶が脳内にあった。だが実際は、トレンディさんが大金を持ってマチルダのもとへ。マチルダはそれを額が足りないと受け取らず、トレンディさんが激昂していたというのが真の記憶だった。

脳内にある記憶のどこまでが本当で、どこまでが嘘か。さらに故意に秘密を抱え(マチルダが悪い噂の身代わりを申し出ていたことなど)、まったく違う事実として周囲で見聞されるといったエピソードもあり、それによって3人が右往左往する第7話だった。

そしてそれは同時に、視聴者をも巻き込む。登場人物が語る記憶が本当なのか、それとも思い違いか、それとも嘘だったのか。二転三転する物語展開は、まさに映画『キサラギ』のようで、“古沢良太節”全開だった。

さらに今回は、アラフィフ男たちの悲哀とかわいらしさが描かれていたのも印象的だった。3人仲良くマッサージを受け、その痛気持ちよさに呻くおじさんたち。特に前立腺のツボを押され、全員が一斉に悲鳴を上げるシーンは爆笑ものであった。

そしてクリスマス。それぞれ相手があったはずなのだが…。結局は全員がフラれ(?)、チェンの家に集まるハメに。若い時のように、クリスマスに女性や家族と楽しく過ごそうとするも、なかなかうまくいかない…。だが、それでうまくいかないもの同士3人が集まってクリスマスを過ごすシーンは、悲哀たっぷりであり、滑稽であり、そして、かわいらしくもあった。

2022年1月に放送された『めざましテレビ』(同系)の調査では、「おじさんをかわいいと思ったことがあるか」という回答が、10〜20代女性130人のうち3分の2を占めていた。「おじさんのどういうところがかわいいか」という調査では、1位は「頑張っている」、2位は「笑顔で明るい」、3位は「流行についていこうとする」で、“小動物を見る”かのように見る傾向がある。ただし、ここには落とし穴があり、「無害」であることが必須条件にあるように思う。ここは勘違いをしないようにしておきたい。

●医学論文から見ると当たり前の現象
(C)フジテレビ

さて、このドラマの感想をSNSなどで見ていると、次のようなツッコミが目立つ。「そんなにみんな昔のことって忘れるもの?」「そこまで記憶違いすることってある?」

確かに、ドラマはフィクションであり、演出として誇張されている部分もある。そうした疑問はもっともだ。しかし実は、私たちが思っている以上に、記憶というものはあいまいで、しかも“書き換わり得る”性質を持っている。この現象は、神経科学の分野では「記憶の再固定化(memory reconsolidation)」と呼ばれている。

米国国立医学図書館(PubMed Central)に収録されている、神経科学誌『Cold Spring Harbor Perspectives in Biology』(2015年、第7巻)に掲載されたカリム・ナーダー(Karim Nader)らのレビュー論文では、次のような知見がまとめられている。それは、「想起された記憶は再び不安定化する」という発見である。

従来の理論では、記憶は一度「固定化(consolidation)」されれば安定し、その後は壊れにくいものだと考えられてきた。ところがナーダーらの研究は、その常識を覆した。

記憶は、思い出した瞬間に再び“可塑的(不安定)”な状態に戻る。そして、その後もう一度固定化される。この再固定化までの不安定な時間帯に、新たな情報や感情が入り込むと、記憶の内容が更新・修正される可能性があるというのである。

分かりやすく説明するとこうだ。まず、ある出来事を経験する。脳はそれを固定化し、記憶として保存する。後日、その出来事を思い出す。しかし、その「思い出す」という行為そのものが、記憶を一時的に“書き換え可能な状態”にしてしまう。そこに新しい情報が加わったり、当時とは異なる感情が伴ったり、文脈を取り違えたりすると、歪んだ形のまま再び固定化されることがある。

つまり、記憶は思い出すたびに、一時的に揺らぐ。そしてその揺らぎの中で、修正や更新が起こり得る。

重要なのは、これは異常ではないという点だ。むしろ、脳の「可塑性(plasticity)」――変化に適応する力――による正常な働きである。もし記憶がまったく更新されなければ、私たちは環境の変化に適応できないだろう。「記憶が都合よく変わってしまう」と感じることがあったとしても、それは脳が壊れているからではない。脳が“更新可能なシステム”であるがゆえに起こる現象なのである。

神経科学の知見が示しているのは、こういうことだ。記憶とは、保存された過去そのものではない。それは、再生のたびに再構成されるものなのである。単に物覚えが悪いとか、老化しているとか、そうした単純な話ではない。私たちの記憶は、そもそも“変わり得る構造”を持っているのだ。

本作は今後も、この「脳の再固定化」による混乱が物語上で起こっていくだろう。何が嘘で何が本当か──。古沢氏に楽しく、存分に振り回されてほしい。









(C)フジテレビ

衣輪晋一 きぬわ しんいち メディア研究家。インドネシアでボランティア後に帰国。雑誌「TVガイド」「メンズナックル」など、「マイナビニュース」「ORICON NEWS」「週刊女性PRIME」など、カンテレ公式HP、メルマガ「JEN」、書籍「見てしまった人の怖い話」「さすがといわせる東京選抜グルメ2014」「アジアのいかしたTシャツ」(ネタ提供)、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中。 この著者の記事一覧はこちら