昨年9月、コーヒー事業で起業したフリーアナウンサーの竹内由恵さん。自己資金1000万円を投じた挑戦は、期待が膨らむ反面、受注や発送業務をみずからこなす個人事業主としての多忙な日々でもありました。2児の母として育児に追われながら、ときには朝2時から作業に勤しむことも。「アラフォーでもう一度、新人になる」と決意し、新たなステージへ飛び込んだ彼女の今を伺いました。

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初期投資1000万円は自己資金を投じて

不定期で自身でコーヒーを淹れて提供するポップアップストアをオープンすることも

── 昨年9月にコーヒービジネスへの参入を表明されました。初期投資に1000万円かかったそうですね。

竹内さん:焙煎機にかかった費用がいちばん大きいですけど、焙煎所の手配や、デザイン料や備品など、いろいろかかりました。コーヒーの備品、たとえば豆を挽くグラインダーという器具なんかも意外と高いんですよね。諸々入れると1000万円ぐらいという感じです。

── 事業で使えるような焙煎機は、いくらくらいするのですか?

竹内さん:ドイツのプロバットというメーカーのものなんですが、400万円ほどでした。プロバットは、車でいうとフェラーリみたいな存在なんだそうです。高いものだとそれだけで1000万円くらいするものなんですが、私は中古で少しお安く入手できました。

── こうした費用は、どのようにして賄ったのでしょうか?

竹内さん:すべて自己資金です。焙煎機を購入した当時は、まだ法人のクレジットカードができていなかったので、個人のカードで支払いました。限度額を上げて購入したのですが、ほかの支払いと重なってしまい、月末にはカードが使えなくなる、ということもありましたね…(苦笑)。

焙煎機の購入には補助金を少し活用しました。そのために事業計画などの書類を数十枚用意する必要があり、初めてのことばかりで大変でした。「この金額を受け取るために、ここまで準備が必要なんだ」と実感しましたが、この過程は、事業未経験だった自分にとって大きな学びにもなりました。

── 発送業務などの細かいことも竹内さんがやっているのでしょうか?

竹内さん:焙煎はもちろん、受注業務、配送や梱包も今のところ自分でやっています。一部は心優しい友人に手伝ってもらうこともありました。

立ち上げ当初は本当にやることが多かったです。ホームページ作成は他の方に手伝ってもらいつつ、SNSとの連携や、ホームページや製品用の写真撮影は自分でもやりました。プロにお願いするときは、メイクさんや写真家さんを自分で探して依頼します。パッケージのデザインも必要なので、デザイナーさんも探して依頼して、一緒に打ち合わせしながら仕上げてもらいました。特に最初は、ありとあらゆることをほぼひとりで担っていましたね。

── ひとりでそれだけの業務を。

竹内さん:ひと通りやってみて、「ひとつの商品を世に出すまでに、こんなに多くの業者さんが関わるんだ」と実感しました。本当に大変ですね。商品の表示シールや、コーヒー豆の詳細を書いたカードも、今はまだ自宅のプリンターで印刷しています。

そうした情報カードをどこで、どう作ればいいのかも最初はまったくわからず、一つひとつ調べながら進めている状態です。

ひとりでは回らなくなっていく現実と理想の狭間で

パッケージデザインにもこだわりを持ち、デザイナーと何度も打ち合わせして制作した

── 個人起業だと、孤独を感じることも多いのではないでしょうか?

竹内さん:「このお店のことをいちばん考えているのは自分しかいない」と思うと、どうしても他人に委ねにくくなる感覚はあります。ただそうなると、基礎知識が十分にないまま、ひとりで決めなくてはいけないことが増えてしまうんですよね。

たとえば発送業務では、「自分ひとりでは回らなくなったら、どうすればいいんだろう」と思っても、誰に相談すればいいのかわかりませんでした。配送業者さんを選ぶ際も、少しでもコストを抑えようと考えたことはあったのですが、「この状態で届くのは、自分が思い描いているブランドイメージとは違う」と感じて。結果的に、発送の3、4日前になって別の会社を探すことになり、かなりバタバタしたこともありました。

── その後、事業の進め方に変化はありましたか?

竹内さん:今はパートナーとして一緒に動いてくれる方がいて、相談できるようになりました。事業を広げていくには、ひとりでは限界があります。一緒に頑張ってくれる存在が見つかったことは、本当に心強いですね。

── 想像以上に大変だったことがあれば教えてください。

竹内さん:販売までの工程が、想像以上に多かったことです。たとえば豆袋のシール貼りだけでも、1枚ずつ作業すると数時間かかってしまいます。そこに豆を詰めて、さらにお客さまの希望に応じて粉にしていくと、20袋用意するのに30分ほどは必要になります。実際にやってみて、配送作業がどれだけ大変かを実感しました。

── しかも、アナウンサー業と並行してやられているわけですよね。

竹内さん:そうなんです。このペースで続けると、私が3~4日ぐらいずっと配送作業をしてないといけない計算になるので、「じゃあ、焙煎は一体誰がするの…?」となってしまって(笑)。人手がたりないので、今後はそれを構築していかなくてはいけないという感じですね。

アラフォーで始まった、もう一度「新人」になる日々

2人の未就学児の母でもある竹内さん。保育園には18時に迎えに行けるよう、仕事と子育てを両立している

── 2人のお子さんを育てながらアナウンサー業とコーヒー事業をやられているわけですよね。今はどんなタイムラインで動いていますか?

竹内さん:朝は2時か3時に起きています。

── 2時ですか!? まだ夜中ですよね?

竹内さん:でも、寝るのが早いんです。子どもと一緒に夜9時ぐらいに寝ています。ただ、最近は疲れすぎて、子どもに絵本を読み聞かせながら、私が寝落ちしてしまうこともあって…。目をひんむきながら眠気をこらえて、なんとかようやっと読み終わり、バタンッと寝るみたいな生活です。

── 2時に起きて、どう過ごしているのでしょうか?

竹内さん:そのときどきで、やらなければいけない作業をこなしています。たとえば、その日に販売するドリップバッグを袋詰めしたり、製品に貼るシールやコーヒーの情報を載せたカードをまとめて印刷したり、ポップアップストア用の写真を手配したりしています。

ひと通り作業を終えたら朝ごはんを準備して、6時頃に子どもたちを起こし、一緒に食べてから保育園へ連れていきます。でも、夜中から朝方にかけて仕事をする生活は、私には意外と合っているんです。寝起きのほうが頭の回転がよく、手際よく作業が進むんですよね。

── アナウンサー業とコーヒー事業、子育てを並行してやると、時間がたりないと感じるのではないですか?

竹内さん:子どもとの時間も大切にしたいので、帰宅後や土日は、できるだけ一緒に過ごすようにしています。それを言い訳にするつもりはありませんが、「時間がたりない」というのは、今いちばん大きな課題ですね。

── それでも、使える時間を目いっぱい使っていますよね。

竹下さん:限られた時間の中でやるしかないいっぽうで、成功されている方々の話を聞いていると「そもそもの前提が違う」と感じることもあります。みなさん、時間を最大限に使って、すべてをそこに注ぎ込んでいる方ばかりです。そう考えると、成功している方から見れば、今の自分のステージは「趣味レベル」に映ることもあるのかもしれない、と感じることはあります。

── 起業を発表して以来、メディアでは著名な起業家に成功までの道のりについて前のめりで話を聞く姿が印象的です。

竹内さん:みなさんお優しいので、ガツンと厳しいことはおっしゃらないのですが、メガネ製造販売チェーン「OWNDAYS」会長の田中修治さんに「焦らなくていいよ」とおっしゃっていただいたときには、心にグッときました。ただ、「趣味ではなく本気です」ということは、これからも行動で示していきたいですね。

── この挑戦をしてよかったと思える瞬間について教えてください。

竹内さん:最近40歳になりましたが、知らないまま人生を終えていたかもしれないことを、実際に経験できていると感じています。大きな発見がありましたし、人生そのものも、以前よりずっと豊かになりました。

新人アナウンサーの頃は失敗ばかりでしたが、今回もまた、まったく新しい分野での「新人生活」が始まり、失敗の連続です。アラフォーとしては正直、疲れることもあります(笑)。本来ならベテランに差しかかり、失敗を先読みして避けられる年代だと思うのですが、それでも今は、体当たりで向き合っているこの時間を楽しめています。だからこそ、この挑戦をしてよかったと思いますね。

取材・文:石野志帆 写真:竹内由恵