平等主義者もそうでない人も「貧困者の見た目」について似たような偏見を持っている

平等主義はすべての人々が社会的に公平に扱われることを目指す考えであり、平等主義を支持する人々は貧困層に対して肯定的な態度を示します。ところが、平等主義と「貧困者の見た目」に対する認識について調べた研究では、平等主義の人はそうではない人と似たような偏見を持っていることが明らかになりました。
Resource Possession in the Mind’s Eye: Ideological Convergence and Divergence in the Perceptions of Poor People - Wilson N. Merrell, Lei Fan, Jennifer Sheehy-Skeffington, Lotte Thomsen, 2025

Egalitarians and anti-egalitarians share the same negative mental image of the poor
https://www.psypost.org/egalitarians-and-anti-egalitarians-share-the-same-negative-mental-image-of-the-poor/
経済的不平等や宗教的階層は人類の歴史において根深い特徴であり、こうした階層構造の根底には「誰が資源を保有して、誰が保有しないか」を巡る緊張関係があります。一般に階層構造の上に立つ人々は豊かで恵まれた生活を送る一方、階層構造の下にいる人々は貧しく苦しい生活を強いられることとなります。
世の中には、こうした階層構造を肯定して資源の不平等な分配を正当化する「反平等主義者」がいる一方で、階層構造の解体に意欲的であり公平な社会を目指す「平等主義者」がいます。これまでの研究では、反平等主義者はしばしばステレオタイプを用いて貧困層を「怠惰」「裕福な生活に値しない存在」とレッテル貼りする傾向があり、平等主義者はこうしたレッテルを否定して貧困は制度的な問題だと主張する傾向が示されています。
今回ノルウェーのオスロ大学の研究チームは、こうした社会階層に関するイデオロギーの違いが言葉で表現される態度だけではなく、心の中に思い浮かぶ「貧困者の見た目」にも影響するかどうかを調べる実験を行いました。
イデオロギーが心的表象を形作るのであれば、平等主義者は反平等主義者よりも貧困層の容姿をより肯定的に表現するはずです。一方、貧困層に対するステレオタイプが根深いもので政治的立場を問わず共有されているのであれば、イデオロギーにかかわらず貧困層について似たようなイメージを思い浮かべると考えられます。

1つ目の実験ではイギリスに住む652人の被験者が、「並べられた2枚の顔写真を見てどちらが『貧乏』でどちらが『裕福』かを選択する」という試行を300回繰り返しました。これらの画像は無表情な白人男性の顔をベースにランダムな視覚ノイズを重ね合わせ、脳が顔の特徴として認識するゆがみを加えられたものでした。研究チームは選択された顔写真のノイズパターンを平均化することで、人々が「貧乏」だと認識した平均の顔と「裕福」だと認識した平均の顔をそれぞれ作成しました。
300回の試行の後、被験者は自分が平等主義を支持しているか、それとも支持していないかを報告しました。そして、平等主義に関する「貧困層を怠惰と見なしているか、それとも勤勉だと見なしているか」「貧困層に対してどの程度温かい感情を抱いているか、それとも冷たい感情を抱いているか」といったアンケートにも回答しました。
アンケート結果を分析したところ、平等主義者は反平等主義者と比べて、貧困者に対してより温かい感情を抱いていることや、貧困者を怠惰ではなく社会的つながりがある存在だと見なしていることが示されました。
しかし、研究チームが合成された顔写真のピクセル輝度を分析して、顔の明暗のパターンに基づく客観的な類似度を調べたところ、異なる結果が示されました。分析の結果、「平等主義者が作成した貧困者の顔写真」と「反平等主義者が作成した貧困者の顔写真」の間には高い相関関係がみられ、顔の構造的特徴はほぼ同一であることがわかりました。

2つ目の実験では、394人の被験者に最初の研究で作成された顔写真を見せて、顔から読み取れる「温かみ」「有能さ」「支配性」「攻撃性」「知性」といった特性について評価してもらいました。被験者らにはこれらの顔写真がどういう文脈で作成されたのかは知らされず、中立的な第三者としての評価が行われました。
結果を分析したところ、平等主義者が作成した貧困者の顔写真は、反平等主義者が作成したものと同様に否定的な評価を受けました。イデオロギーにかかわらず、貧乏な人々として作成された顔写真は裕福な人々として作成されたものと比較して能力が低く、温かみがない存在として評価されたと報告されています。
さらに3つ目の実験では、これらの顔写真がより詳細な情報についてどのように評価されるのかを調べるため、新たに募集された348人の被験者に顔写真から受ける「怠惰さ」や「社会との連帯」について評価してもらいました。その結果、やはり平等主義者が作成した貧困者の顔写真は否定的な評価を受け、裕福な人の顔写真よりも「怠惰」で「社会的連帯に欠ける」と評価されました。
しかし、平等主義者の評価者は反平等主義者の評価者と比較して、貧困者の顔写真に対する否定的な評価が弱い傾向がみられました。これは、人々はイデオロギーにかかわらず貧困に対する視覚的ステレオタイプを共有しているものの、平等主義者の人々は具体的な評価を下す際にこうした視覚的シグナルを意図的に無視していることを示唆しています。
研究チームは今回の結果について、貧困者に対する心的表象は「認知の構成要素」である可能性があると提唱しています。これらの心的表象は、人々が政治的・道徳的フィルターを適用する前に視覚的イメージとして浮かぶものであり、資源に基づくステレオタイプが集団心理に深く根付いていると考えられます。

今回の研究で用いられた顔写真は白人男性をベースとしたものであり、結果は女性や有色人種には当てはまらない可能性があります。また、貧困層に対する視覚的なステレオタイプが実際の交流や経験から生まれたのか、それとも映画やニュースなどのメディアから受けたものなのかは不明です。さらに、貧困層に対する視覚的ステレオタイプが雇用や福祉といった行動に影響するのかどうかもわかっていません。
今後の研究では、メディア環境の異なる文化圏でも同様の貧困層に対するステレオタイプが存在するのかどうかを調べることで、偏見が進化的基盤によるものなのかメディアを通じて後天的に学習したものなのかを判断できる可能性があります。
心理学系メディアのPsyPostは、「この研究は結局のところ、私たちの信念と視覚的認識の間に隔たりがあることを浮き彫りにしています。私たちは平等な社会を心から望んでおり、恵まれない人々に肯定的な見解を持っているかもしれません。それでもなお、私たちの脳内にはそうした意識的な信念と矛盾する、否定的な視覚的連想が潜んでいる可能性があるのです」と述べました。
