今田美桜×北村匠海コンビが再び 『あんぱん』総集編を機に振り返る朝ドラの夫婦像
NHK連続テレビ小説、いわゆる朝ドラは、女性の成長譚であることが多いが、その中でヒロインが恋をして結婚し、夫婦となって妻・母となることも少なくない。2025年度前期に放送された『あんぱん』も、漫画家・やなせたかしの妻・小松暢をモデルにした作品とあって、夫婦の歩みを描いた側面も大きかった。総集編が放送されるのを前に、改めて朝ドラがどのような夫婦像を紡いできたのかを振り返ってみたい。
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初期の朝ドラでは、妻の「内助の功」がまだまだ美徳とされていた。大ヒット作『おしん』(1983年)でも、商売の才があるのは明らかにおしんなのだが、結婚後はあくまでも夫を立てている。作者の橋田壽賀子自身も、自叙伝『おしんの心』の中で「夫婦の間で『男女平等』はあり得ないと思っている」とはっきり述べている。何よりもまずは家があってのことだった時代、女性の社会進出は進みつつあったものの、夫婦の姿は当たり前に家父長的だったということなのだろう。
平成に入ると、少しずつそうした夫婦像は揺らぎ始める。『ふたりっ子』(1996年度後期)のヒロイン・野田香子(岩崎ひろみ)は、将棋の世界へ飛び込み、同じ棋士の森山史郎(内野聖陽)と恋に落ちて結婚する。しかし、香子は結婚後に勝負の神通力を失ってしまう。愛しているからこそ将棋ができなくなるというジレンマの中で、香子は夫と別れる選択をする。
一方で、双子の麗子(菊池麻衣子)は、京都大学を卒業して事業家となるが、幼馴染の黒岩政夫(伊原剛志)の一途な愛に気づき、結婚することになる。“平凡な”専業主婦になるのだが、妻・母としての幸せを掴むことができる。
『ふたりっ子』の姉妹は、どちらにも得たものと失ったものがある。そこには、自分の夢と妻・母である幸せを両立することの困難さを感じる。だからこそ、対照的な双子という設定が必要だった。それでも、女性が自己実現を果たし、夫婦が対等なパートナーでいることへの挑戦を見せてくれたドラマだったように思う。
『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)は、漫画家・水木しげるの妻・武良布枝がモデルの物語だ。夫の才能を信じて支える妻の姿が描かれたが、『おしん』の時の夫の立て方とは一味違うものがあった。ヒロインの村井布美枝(松下奈緒)は、そもそもかなりおおらかな性格ということもあって、夫・村井茂(向井理)を支える悲壮感があまりない。とにかく極貧なのだが、食べられる雑草を探したりするのもどこか呑気で楽しげだった。松下も「初めは3歩下がって夫を支える性格かなと思っていたけれど、次第に自分の意志を持って前向きに生きるのが布美枝だと分かってきた」(※)と話している。夫を支えるにしても、義務感からではなく、主体的にそれを選択しているようなところがあった。
他にも、夫を支える妻を描いた作品として、『マッサン』(2014年後期)、『まんぷく』(2018年後期)などが挙げられる。どちらも夫の夢に共感し、夫を立てるというよりも、共同プロジェクトを進めていくようなパートナーとして描いていたのが、この年代の特徴かもしれない。
『あんぱん』も、こうした流れの中に位置づけられる夫婦のドラマかもしれない。しかし、これまでと違うのは、『あんぱん』のヒロインがもともとかなりのキャリアウーマンだったという点だ。
主人公・のぶ(今田美桜)は、父に「おなごも大志を抱け」と言われて育ち、高知では「ハチキンおのぶ」と呼ばれるほど男まさりな性格だった。実際、モデルとなった小松暢は、高知新聞社の戦後初の女性記者であり、東京で代議士の秘書をしていたという人物だ。今までの朝ドラに登場した「支える妻」よりも、自分自身が「何者かになりたい」と考えていた女性のように思われる。
しかし、物語後半で、柳井嵩(北村匠海)と結婚したのぶは、だんだんと意気消沈していく。売れない漫画家である嵩を支えるべく仕事をしているのだが、それもいつしか辞めることになってしまう。嵩が忙しくなるほど、のぶの気持ちは追い詰まっていく。そして、「頑張ったつもりだったけど、何者にもなれなかった」と吐露するのだ。
そのセリフには、視聴者から多くの共感が集まったと聞く。作者の中園ミホは、この反響に対して、近著でこう綴っている。
「今、40~60代くらいの女性の方も、『腰掛けOL』という言葉が残っていた頃の世代かと思います。夢を持って社会に出て、『何者かになろう』としていても、結婚や出産、子育てのために、キャリアを中断、あるいは諦めざるを得なかった人が多かった時代です」(『60歳からの開運』)。
中園は、夫を支える妻の「内助の功」を決して美談にはしない。そこには夢を断ち切られた女性たちの忸怩たる思いがあるのだということを垣間見せた。その点で『あんぱん』は、今の中年以降のリアルな夫婦の現在地を見せてくれた作品だと言えるのかもしれない。
参照※ https://www.nikkei.com/article/DGXDZO04858410Z20C10A3BE0P01/(文=尾崎真佐子)

