やっぱり進次郎のほうがマシ…「コメの値下げは無理」と言い張る農水大臣に、高市首相が命じるべき「5つの策」

■鈴木農相は「最も厄介なタイプ」の役人
霞が関に長くいた私の経験から言わせてもらうと、役人には大きく分けて3つのタイプがあるようだ。
一つは、積極的に問題を見つけて対策を提案するタイプである。役人には少ないのではないかと思われるかもしれないが、国のためにと思って役人を志望した人には、意外にこのタイプが多い。それなりに能力を持って成功する人も多いのだが、活発に行動して摩擦も生じるので、その処理に時間がかかることがある。「出る杭は打たれる」の例え通りである。
次のタイプは、言われたことを真面目に忠実にこなす人たちである。多数はこのグループに属する。このタイプが部下にいると仕事がはかどる。ただし、上司が判断を誤らないという前提が必要である。
農林水産省の場合には、上司は大臣ではなく農林族議員であることが多い。「大臣はすぐ変わるが農林族議員は変わらないので、大臣の言うことを聴く必要はない」と公然と発言して更迭された役人もいた。大臣に指示されても農林族議員が反対するような政策(たとえば減反廃止)は実施されない。
最後のタイプは、指示を受けても、最初の対応が「できません」で始まる人たちである。彼らはさまざまな理由や問題点を見つけて仕事を回避しようとする。要するに、前例のない仕事や難しい仕事を引き受けたりすることで、責任を取らされたくないのだ。このタイプが同僚や部下にいると、仕事が進まない。数の上では多くはないが、私にとって、最も厄介な人たちだった。
農水官僚出身である鈴木農水相は、この最後のタイプなのかもしれない。そうだとすると、高市総理も大変だ。
■鈴木大臣「コメの値段は下げられません」
あるテレビ番組に出演した鈴木農水相はコメの値段を“せめて(5キロ)4000円台に”という消費者の声に対し、「私が4000円にしてくださいと言って4000円になるんであれば、そういうふうに言うっていうのは1つのあれかもしれませんが」と笑い、「残念ながら価格というのは私たちにコントロールする権限が全くないし、私たちが管理をしてるものでは、残念ながらコメは…流通の世界は自由でありますから」と説明した。
農林族議員が反対する価格を下げるという仕事をしたくないのだ。
その代わりに出してきたのが「おこめ券」だ。これなら農家の収入は減らなくてすむ。政府は11月21日の臨時閣議で経済対策を決定した。自治体向けの「重点支援地方交付金」に2兆円を計上し、うち4000億円を食料品高騰に対応する特別枠として、おこめ券や電子クーポンの活用を促す。1人当たり3000円程度の支援となる予定だという。
既に述べたように、3500億円の減反補助金で米価を上げたうえで4000億円をかけて救済するというマッチポンプ政策だ。減反もおこめ券も負担するのは国民だ。国民に安くコメを入手できると思わせられると鈴木農水相が考えているなら、「朝三暮四」の例え通りだ。しかし、われわれ国民はサルではない。

■筆者「コメの値段は下げられます」
鈴木農水相にやれることはたくさんある。やろうとしないだけである。高市総理に代わって具体的な指示をしよう。それでも、できない理由を山のように挙げてくるかもしれないが。
すぐにコメの値段を下げるという即効性はないが、大きな効果を生む対策から順に説明する。

■値段は市場で決まるというのなら…
方策1 コメの先物市場を開設
まずコメの先物市場を認めることだ。
鈴木農水相は、二言目には「コメの値段は市場(マーケット)で決まるから関与できない」と言うが、その市場がJA農協の反対によって存在しないのだ。青果物(野菜、果物)の卸売市場に当たるコメの現物市場があったが、卸売業者と相対で米価(相対価格という)を有利に決めたいJA農協が上場を制限するようになって、2011年に廃止された。
大坂・堂島のコメ商人が世界に先駆けて始めた先物市場も、取引所による度重なる申請にもかかわらず、米価を操作したいJA農協の反対により認められていない。需給で公正に価格が決定される市場が実現できれば、JA農協が需給と関係なく独占的に相対価格を決めることはできなくなる。当然価格は下がる。

■より根本的な対策は供給量を増やすこと
方策2 減反廃止
より根本的な対策は、コメの減反政策を止めることだ。そもそも米価を自由な市場で決まる水準よりも高めてきたのは、農水省をはじめとする農政トライアングルだ。鈴木農水相はコメの値段は市場で決まるという。
しかし、その市場がないばかりか、減反でコメの供給量を4割も減少させているため、米価は需要と(減反しないときの)供給で決まる水準よりも大幅に高く操作されている。農林水産省は、価格を下げることには関与しないが、価格を上げることには関与してきたのだ。
来年産のコメが生産される翌秋まで待たねばならないかもしれないが、それ以降は確実に下がる。それを待たなくても、現在コメの値段の高騰で消費が減少し、JA農協を始めとする流通業者のコメ在庫が大量に積み上がっている。
コメ生産が大幅に増えそうだとわかると、流通業者は価格が下がる前にコメの在庫をさばこうとするので、市場でのコメの供給が増加し、コメの値段は今からでも下がり始めるだろう。意外に即効性があるかもしれない。
■即効性がある2つの方法
方策3 関税引下げ
次の、即効性のある対策は、コメの関税を下げることだ。恒常的に下げることが、自民党農林族やJA農協の反対で難しいなら、1年を限り時限的に半減するか撤廃すればよい。国内の価格が高騰すれば、輸入が増えることで、価格は低下する。これが野菜などでは実際に起きていることである。
これまではコメの関税(通常年では国内米価(相対価格)が玄米60キログラム当たり1万5000円の時に関税だけで2万円)が高いことで輸入が禁止されてきた。
しかし、最近の米価の異常な高騰(3万7000円)で、いつもなら輸入できないような高い関税を乗り越えて、輸入が急増している。2025年度上期(4〜9月)の輸入は前年同期の208倍となっている。関税を下げれば、より多くの輸入が行われ、需要と供給の経済原理によりコメの値段は下がる。
方策4 輸入枠の拡大
関税を下げるのが嫌なら、関税なしの輸入を行っているミニマムアクセスという輸入枠での輸入量を増やすことだ。これは、民間企業ではなく、農林水産省という国家貿易企業が独占的に行っている。
バターが不足したときには、同じく国家貿易企業である農畜産業振興機構(ALIC)が輸入を拡大することで対応した。民間での輸入ではないので、農林水産省が決断しさえすれば、関税なしで輸入は確実に実行される。
WTO(世界貿易機関)に約束した関税以上の関税を課したり、輸入枠を減少したりすることはWTOに違反するが、関税を下げたり輸入を増やしたりすることは、WTO上まったく問題はない。
■JAの高い概算金を是正させよ
方策5 独占禁止法の活用
次の対策は、JA農協による高い概算金の決定を独占禁止法違反として公正取引委員会に是正させることである。

現在、供給が増えているのにコメの値段が高止まりしているのは、JA農協が農家に高い概算金(玄米60キログラム当たり3万円)を払い、これにマージンを加えて卸売業者に高い相対価格(同3万7000円)で販売しているため、卸売業者がスーパーに販売する価格が下がらないためである。
■主食のコメを「不当に高くしすぎ」
独占禁止法では、カルテル(共同して生産したり、販売したりすることなどで競争を制限する行為)は、禁止されている。しかし、小規模事業者や消費者が協同組合を組織する場合には、独占禁止法の適用除外が認められ、カルテル行為は許されている。
あくまでも小規模事業者の救済である。これを農産物や農業資材の市場で半分以上のシェアをつJA農協に適用することは大きな問題なのであるが、ここでは問題の指摘にとどめる。

しかし、これらの組合であっても、ほかの事業者と共同して特定の事業者との取引を拒絶したり、共同行為からある事業者を不当に排除したりするような「不公正な取引方法を用いる場合」又は「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引上げることとなる場合」は、独占禁止法が適用される。
JA農協(に属する農業者)が100円のモノの価格をカルテルで120円程度に引き上げる場合には独占禁止法違反を問われないが、200円にすれば「不当に対価を引上げる」こととみなされて独占禁止法違反となる。
今回、JA農協は通常年では玄米60キログラム当たり1万2000円の概算金を3倍近い3万〜3万3000円に引き上げている。これは「不当に対価を引上げる」ことに該当する。この高い米価(概算金)以上の価格を農家に払えない他の流通業者は、コメの集荷事業から排除され、JA農協の独占を高めている。
■あとはやる気の問題だ
コメの減反(生産調整)も、減産して価格を高く維持するものである。これまでも、コメの需給均衡価格は8000円/60kgであるのに、減反(生産調整)政策によって、その倍近い1万5000円の米価を実現してきたことは「不当に対価を引上げる」場合に該当する。
農林水産省もJA農協もコメの減反を廃止すれば、米価は大幅に低下すると主張している。この主張を裏返すと、減反で米価を大幅に引き上げていることになる。公正取引委員会は、高い概算金だけでなく減反政策についても独占禁止法違反を指摘して是正させるべきである。
コメの値段を下げるために、やれることはたくさんある。鈴木農水相を始めとする農政トライアングルにやる気がないだけである。高市総理の任命責任が問われる。
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山下 一仁(やました・かずひと)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1955年岡山県生まれ。77年東京大学法学部卒業後、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、同局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員、2010年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。著書に『バターが買えない不都合な真実』(幻冬舎新書)、『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』『国民のための「食と農」の授業』(ともに日本経済新聞出版社)、『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(幻冬舎新書)、『食料安全保障の研究 襲い来る食料途絶にどう備える』(日本経済新聞出版)など多数。近刊に『コメ高騰の深層 JA農協の圧力に屈した減反の大罪』(宝島社新書)がある。
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(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 山下 一仁)
