2月に横浜FCフットボールアカデミーのテクニカルコーチに就任したリー氏。(C)SOCCER DIGEST

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 齋藤功佑(現・東京ヴェルディ)、前嶋洋太(現・アビスパ福岡)、斉藤光毅(現・スパルタ/オランダ)らを輩出してきた横浜FCの育成組織である横浜FCフットボールアカデミーは、より質の高い指導とサッカーに集中できる環境の整備に力を入れている。

 その取り組みのひとつとして今年2月、欧州で10年以上にわたって育成年代の指導に携わってきたリー・ヘイズ氏をテクニカルコーチとして招聘した。

 2010年にイングランドのブレントフォードで、パートタイムのテクニック・スキルコーチとして、プロクラブでの指導者キャリアをスタートさせ、その後はトッテナムやクイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)、ウェストハムのアカデミーコーチなどを歴任してきた人物である。

 QPRのアカデミーでは現在リバプールに在籍するMFハービー・エリオットや、クリスタルパレスで10番を背負うMFエベレチ・エゼのトレーニングにも関わっていたという。

 就任して半年、プロで活躍できる選手の育成に長けるイギリス出身の指導者は、日本の子どもたちの印象をこう語る。
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「テクニックに優れていて、止める・蹴るの基本技術がしっかりしていますし、一定以上のスタミナを有している子も多いです。ただ、身体の強さやスピードなど、大きく突出した能力を持っている子が多いイングランドに比べると、日本は一定レベルのテクニックを兼ね備えている子が多い印象です」

 さらに、イングランドの子どもたちのほうが優れている部分と強調したのが、クリエイティブさだ。

「例えばマーカーとボールを渡して、練習してくださいと伝えると、イングランドの子どもたちは自然と自分に必要なことを考えて始めますが、日本の子どもたちは、その“考える”ことが苦手なように感じます。もちろん日本にも素晴らしい創造力を持っている子はいるので、あくまで印象ですが」

 そこでリー氏は、イングランドでも実施していた「カオストレーニング」をチームに提案し、早速取り入れた。例えば縦方向と横方向で同時にゲーム形式のトレーニングを行ない、首を常に振って状況を確認しながら判断力を養うというものだ。

「世界で活躍しているような選手を目ざすためには、良いタイミングで良い決断をする、その積み重ねが必要です。クリエイティブさが求められますが楽しいと思いますよ」

 また、同アカデミーの教育ビジョンのひとつである「人間形成」にも賛同する。

「サッカーにおいても人間性の育成が大切です。自分のバックグラウンドを見ても、正直プロになる可能性が低かった子が、人間性を育んだことでプロになれたという事例もあります。自分はまだ少ししか日本語が話せないですけど、コミュニケーションを取りながら交流を深めています」
 
 日本の夏は連日30度を超え、厳しい暑さが続く。それでも汗を流しながら、「夏は好きなので、太陽が出ている時はすごくテンションが上がります」と笑顔を見せ、自身の経験をアカデミーに還元しているリー氏。今後は指導者の能力を向上させるための環境作りにも取り組みたいという。

「上手くいった部分、上手くいかなかった部分を、コーチ同士で腹を割って話すのは、お互いを高めるために必要な作業のひとつです。横浜FCでも月に1回、指導者一人ひとりに対してフィードバックの機会がありますが、良いコーチが生まれれば、それだけ良い選手も生まれる可能性が高まるはずなので、もっとやっていきたいですね」

 中長期的にはプロクラブのトップチームコーチを目ざしている。UEFA のA級コーチライセンス(プレミアリーグでコーチとしてベンチ入りができる)を持つ彼に、Jリーグのイメージを伺うと、こう答えてくれた。

「ゴールに向かっていくチームが多いプレミアリーグに対して、Jリーグはパスを繋いでゴールを目ざすチームが多いですね」
 
 前述したとおり、中長期的な目標はプロクラブのトップチームのコーチ。それに近づくため、横浜FCの試合時は毎回必ずノートを持参する。対戦相手も含めてポゼッション、ビルドアップ、プレスのかけ方などを分析しながら、もし自分が監督だったらどのようにチームをセットアップするかを考えているそうだ。ニッパツ三ツ沢球技場は自身の“勉強の場”にもなっている。

 一方で、直近の目標には「それぞれの年代のカテゴリーからステップアップしていく選手の育成」を掲げる。同アカデミーに所属する子どもたちが、プロでも活躍できるような選手として成長できるように全力を注ぐ考えだ。

 昨年3月にクラブのシニアフットボールエグゼクティブ・テクニカルアドバイザーに就任したリチャード・アレン氏とともに、イングランドの“選手育成のスペシャリスト”ふたりが参画する同アカデミーは、今後どのような発展を遂げていくか。引き続き注目していきたい。

取材・文●金子徹(サッカーダイジェスト編集部)