飲み会帰りに女を家に泊めた男。手を出さなかったことがきっかけで…
「海外で、挑戦したい」
日本にいる富裕層が、一度は考えることだろう。
そのなかでも憧れる人が多いのは、自由の街・ニューヨーク。
全米でも1位2位を争うほど物価の高い街だが、世界中から夢を持った志の高い人々が集まってくる。
エネルギー溢れるニューヨークにやってきた日本人の、さらなる“上”を目指すがゆえの挫折と、その先のストーリーとは?
現状に満足せず、チャレンジする人の前には必ず道が拓けるのだ―。

Vol.8 コロンビア大学博士課程
モテない男・伸雄(30歳)の逆転劇
「え、冗談ですよね?この人が…?」
ニューヨークに遊びに来た大学の後輩が、言葉を失ったように僕と彼女を交互に見た。
いつもの反応に、僕の奥さんが笑った。
僕はいわゆる“モテ”とは対極の人間だ。
物心ついた時から高校まで、ずっと柔道をやっていた。
身長は170センチ弱で体重は85キロ。筋肉がついて肩幅も広く、足は短い。
小学生の頃についたあだ名は“ゴリラ”。
その上僕は父に似て口下手で、お世辞や冗談が大の苦手だ。
慕ってくれる男の後輩はいても、女の子と口を利いたのなんて数えられるほど。
さらに高校1年生の冬、交通事故に遭ってしまった。
幸い足の骨を折っただけだったが、負荷の強いスポーツはもうできないと医者に言われ、生きがいだった柔道の道が絶たれた。
国体の優勝だけを目指していた僕は、急に目標を失った。
― この先、どうやって生きよう…。
ぼーっとしながら、ネットサーフィンをする毎日。
そんな時、ある日本人の記事を読んだ。
彼女はスポーツでプロを目指し渡米したが怪我で断念。そこから電気工学やコンピューター科学を勉強し、数々の世界的トップ企業で活躍し、今は自身の会社を経営している。
僕も“運動をサポートするロボットを作りたい”と、それから勉強にのめり込んだ。
1年の浪人を経て第一志望の東工大に合格した。
大学生になった僕は、青春を謳歌することなく、一心不乱に勉強に明け暮れた。
いや、実際はただモテなかっただけ。
新歓コンパでは、自己紹介からドモってうまく話せず、いじられても面白く返せず、浮いてしまった。
結局どのサークルに入ることもなく勉強をするしかなかった、というのが実のところ。
「つまんないやつだな、もっと遊べよ。一生結婚できないぞ」
研究室の先輩からも冗談混じりにそう言われた。
でも僕には、アメリカで感覚神経におけるAIの研究をする、という目標があったため、それほど辛くはなかった。
そして国際学会で知り合ったコロンビア大学の教授に直接コンタクトを取り、博士課程の時にニューヨークにやって来た。

「Excellent job, Nobu!」
研究生活は楽しかった。口下手な僕でも研究成果が出れば、周りは僕を認めてくれた。
けれども、恋愛の方はさっぱりだ。
有名大学の博士号という肩書では、恋愛における僕の戦闘力は変わらない。
ある日、同じ研究室の友人に声をかけられた。
「今週末知り合いがパーティーをやるから行こうぜ」
断ろうとすると、女性研究員のクロエが割って入った。
「たまには人間とも付き合いなさいよ。新しいことしなきゃ、研究のアイデアも浮かばないわよ」
渋々、クイーンズで開かれるそのパーティーに行くことにした。
けれど、すぐに場違いだと悟る。
大豪邸にある緑で囲まれた大きなプールサイドで、DJがお洒落なバックミュージックを流し、モデルのような男女たちが、水着でシャンパンやビールを片手にそれぞれおしゃべりやダンスを楽しんでいた。

絶対に馴染めないと思い、豪華な料理とお酒を適当につまみ、さっさと帰ろうと外へ出た。
するとそこに、ぐったりとするブロンドの女性を男性が抱えながら、ストリートに停めてある車に乗せようとしていた。
― カップルか…?
気にせず通り過ぎようとしたが、何かがおかしい。
女性の意識が朦朧としているのに、男性は心配している様子がない。
女性も、彼から離れようと抵抗しているように見える。
― 嫌な予感がする…。
僕は意を決して声をかけた。
「どうしました?彼女の友人なんですけど…」
声をかけると、男は明らかに動揺した。
「酔ったこの子を助けようと思って…」
うろたえる男の横で、女性が僕に目を合わせ、口を動かした。
音は出ていなかったが「Help me…」と言っているのがわかった。
「僕が彼女を病院まで連れて行きますね」
半ば強引に彼女を引き取ろうとすると、男は「おいっ」と制止しようとした。
だが柔道で鍛えた僕の体幹はそう簡単には揺るがず、男は舌打ちをして諦めた。
「大丈夫?病院に行きますか?」
僕の問いかけに、彼女は首を振る。彼女の医療保険では救急医療はカバーされず、高額な請求額を恐れたようだ。
見たところ、急性アルコール中毒のような症状も出ておらず、水を飲んで休ませれば回復しそうだった。
「家の住所は?」
彼女に聞いても答えない。
とりあえずUberを呼んで、僕の家へと向かう。途中で、唯一の女友達であるクロエに連絡した。
「今すぐ僕の家に来てくれないか?」
切羽詰まった様子に驚いた彼女は、すぐに僕の家へ来てくれた。
ハーレム地区にある2ベッドルーム。ルームメイトが旅行でいなかったため、男性の家に女性を1人で連れてくるなどできない、と彼女を呼んだのだ。
「本当に真面目ね。明日のランチは奢ってよ」
クロエは呆れながら、ソファでさっさと寝てしまった。
僕は女性の体調が気になり、ベッドから少し離れた場所に椅子を置いて見守った。
次の日の朝、いつ寝落ちしてしまったのか、気がつくと2人はすでに起きて、コーヒーを飲みながら談笑している。

起きてきた僕を見て、クロエが言った。
「アイヴィ、彼があなたを助けてくれたのよ」
「ノブね!昨日は本当にありがとう!」
アイヴィは、朝陽のような眩しい笑顔で僕にハグをした。
彼女の話では、パーティーで例の男性と知り合ったが、強いお酒を飲まされたのか、途中から記憶がなくなったらしい。
「昨日のノブの慌てぶりったら。『僕だけじゃ不安がるだろう』って私を呼んだの」
「2人ともありがとう!こんなに誠実にしてもらったの、初めてよ」
そこから、僕はアイヴィと会うようになった。
彼女はモデルやアルバイトをしながら、弁護士になるための勉強をしている。
北欧出身だという彼女は、綺麗なブロンドヘアに青い目を持つ美しい女性だった。そんな彼女がなぜ僕と会ってくれるのか、不思議だった。
「人として見てくれたのはノブだけ。あなたみたいな誠実で真面目な男性は初めて。みんな私の見た目にしか興味がないの。どうせ皮を剥がせばみんな骨と内臓だけよ」
いつも女性に相手にされなかったから、いつしか女性を異性として見なくなっていた。それが彼女には心地よかったようだ。
「友達にあなたを彼氏って言っていい?」
急にそんなふうに言われ、飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになった。
そうして僕たちは付き合うことになったのだ。
周りからは“美女と野獣”と揶揄された。
でも僕らは幸せな日々を過ごした。天真爛漫でお喋りで明るい彼女といると、僕も少しずつだが変わった。
付き合って3年目。現地のスタートアップに就職した僕はついに、彼女へのプロポーズを決意した。
自宅に来た彼女に手料理を振る舞い、僕はひざまずいて「Will you marry me?」と聞いた。

すると彼女はショックを受けた顔をして「Oh, no…」と慌てた。
そして「Hold on…」と言ってスマホに何かを打ち込んでいる。
その時、これまで言われてきた言葉が脳裏に蘇った。
― どうせ物珍しさからだよ。
彼女と釣り合わない僕への陰口。
急に不安になった。真剣なのは僕だけだったのかと。
一瞬の間が永遠のように感じる。
彼女は「フー」と一息つくと、僕の目を見て言った。
「ヨロシクオネガイシマス」
片言の日本語でそう言った彼女の目には、涙が溜まっていた。
彼女は口下手な僕はプロポーズをしないだろうと、自分が日本語でプロポーズをする練習をしていたらしい。
それなのに突然言われ、なんと答えたらいいのかと焦ったのだった。
「本物の愛を見つけても、残念ながら僕の見た目は野獣のままだ」
僕が初めて冗談を言うと、彼女は「どうせ中は骨と内臓だけだから」と笑った。
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