エストロゲンホルモンレベルチャート(Akarat Phasura/stock.adobe.com)

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40代後半に低下し始める卵巣機能。平均50.5歳くらいで閉経すると、数年のうちに卵巣は働かなくなり、卵巣から分泌されていたエストロゲンは急速に低下します。実は男性でも血中のホルモンを測定してみると、生涯を通してわずかながらエストロゲンが分泌されています。その値は閉経後の女性より多いのです。

【グラフ】更年期障害と老年期障害の違いは…

驚くべきことに、閉経後の女性のエストロゲンは男性より低くなっており、お婆さんはお爺さんよりもっとお爺さんなのです。そういえば年老いた御夫婦は大抵お婆さんが元気で主導権を握りお爺さんを仕切っていますよね。西洋にはこんな諺があるそうです。「若い時の妻は恋人、中年の妻は戦友、老年の妻は乳母」。

ホルモンの話に戻ります。閉経前後の急速なエストロゲン減少によって引き起こされるのが更年期障害です。けれどほとんどの場合ホットフラッシュなどの症状は数年で治まります。しかしその後の長い人生で卵巣が再び働くことは二度となく、エストロゲンなしで生きていかねばなりません。エストロゲンがなくなると骨粗鬆症になりやすい、関節痛や腰痛に悩む、高コレステロール血症などのメタボ疾患になりやすい、肌の張りがなくなり、毛髪が細くなるなど様々な問題がおこってきます。

あまり語られることはありませんが、多くの人が悩んでいるのが、閉経後のエストロゲン不足による、膣、外陰部、膀胱の粘膜の萎縮や機能の低下です。膣粘膜が薄くなり、抵抗力がなくなるため膣炎を起こしやすくなり、帯下が増えたり出血したりします。外陰部の粘膜も弱くなり、性交時や排尿時に痛みを感じます。頻尿になったり、尿がすっきり出にくくなるのは膀胱機能の衰えです。こうした悩みはぜひ婦人科で相談してみて下さい。

Bさんは54歳、離婚して現在は独身です。51歳で閉経しましたが、更年期障害もあまりなく元気に過ごしていました。最近少し年下の男性との出会いがあり、真剣にお付き合いをするようになりました。ところがセックスをしようとするとあまりに痛みが大きく、行為は苦痛以外の何物でもありません。

彼女は愛する彼のために何とかしたいと悩んでいました。私は彼女にエストロゲンパッチと黄体ホルモンの周期投与を勧めました。この方法だと毎月月経が来ますが、彼女にとってそれは問題ではありませんでした。効果は2カ月ほどで現れて問題なくセックスができるようになりました。

Kさんは72歳です。最近頻尿になり、1日の排尿回数が10回を超え(8回までが正常です)、夜間に3回くらい起きてトイレに行かねばならないようになりました。

外陰部に痛みがあり、尿や石鹼がしみるようになりました。彼女の尿はきれいなので膀胱炎ではありません。外陰部の皮膚はとても萎縮していて皮下出血がありました。彼女には月経が来るようなホルモン剤はお勧めできません。エストロゲンの中でも最も作用の弱いエストリオールというホルモンがあり、膣や外陰部の粘膜の老化に有効です。エストリオールには内服剤と膣錠がありますが、彼女には膣錠を処方しました。頻尿についてはエストリオールだけでは無理なので別途薬が必要でした。これで外陰部痛はなくなり、排尿回数も減少しました。

「以前は夜中に3回は起きていましたが最近は1回になりました。それでも1回は起きてトイレに行くんですよ」と彼女は言います。「70代で1回起きるのは普通ですよ。そのくらい我慢してくださいよ」と私は言いました。 

◆川口 惠子 神戸大学医学部卒、神戸大学医学部大学院卒、医学博士。神鋼病院産婦人科部長を経て平成13年より川口レディースクリニック院長。趣味はコンピューターグラフィックスと英会話。いずれも才能も情熱もないため全く上達せず。