平井 卓也・デジタル改革担当大臣

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日本はデジタル先進国だと錯覚していた

 ―― 行政のデジタル化を推進する「デジタル庁」が9月に発足するわけですが、改めて、このデジタル庁発足の意義から聞かせてもらえますか。

 平井 わたしが昨年9月に担当大臣に就任してから1年も経たない間に500人を超える全く新しい省庁をつくると。そのための関連法案を6本も成立させ、これからシステム予算を一括計上する、システムを作り直す、これほどの重要な決定を短期間で行ったというのはなかなか大変なことだと思います。

 今回これだけのスピード感をもってデジタル庁を作るということは、要するに、今回の新型コロナウイルス感染症による混乱の中で明らかになったのは、われわれはデジタル先進国だと錯覚していたということ。今までのデジタル投資がほぼ役に立たなかったということで、デジタル化の遅れを挽回しようと考えています。

 ―― この500人の中で民間人の採用はどれくらいを予定しているのですか。

 平井 120人ぐらいだと思います。これまで責任ある立場でシステムを作った経験のある方を中心に採用しようと考えていまして、常勤、非常勤、兼業、副業もOKということで、多様な人材、多様な働き方を実現したいと考えています。

 やはり、昨年の今頃、特別定額給付金も国民の口座に10万円を振り込むだけで、あれだけの手間とコストがかかったわけです。ここは考え直さなければならないということで、今回6つの法案を通したことで、早速対応できることがあります。

 それは子育て世帯の生活支援のための給付金なんですが、今回の法律改正によって、申請が無くても口座に振り込むことができるようになりました。すでに児童手当等をもらっている方の口座は各自治体が知っているわけですから、これにマイナンバーで課税の情報を連携させることで、例えば、所得が低い子育て世帯の方々をこちらで選んで素早く給付のお知らせをすることもできる。こういうことは今までできませんでしたから、プッシュ型の給付ができるということで、国民の皆様のお役に立てることだと思います。

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デジタル化で距離と時間の問題を解決

 ―― ワクチン接種にしても、予約は自治体によってバラバラで、国と自治体、あるいは自治体同士、そして国と民間の連携がうまく取れていないという課題が見えてきました。デジタル庁の設置によって、こうした問題は解消されるものですか。

 平井 デジタルの本来のメリットは「つながる」ということだと思いますが、そのメリットを国民にきちんと届けることができなかったのは、われわれとしても非常に悔しいことです。

 ですから、つながるデジタルをやりたいと思っていまして、まずはワクチンの接種履歴を一元的に管理する「ワクチン接種記録システム(VRS)」というものを突貫工事で作りました。

 このシステムは国が用意したクラウド環境に、自治体がそれぞれ情報を預けることができるというものです。今までは2~3カ月くらいかけて紙に記録をつけていたんですが、今回は国がフォーマットを作って、各自治体がすぐに情報をアップすることができるようになったので、政府のホームページを見てもらうと、毎日何人の方がワクチンを接種したのかのデータが一目で分かるようになっています。

 ―― これは画期的と言っていいんですか。

 平井 ええ。最近、海外への渡航をしやすくするためにワクチンパスポートという話がなされていますが、こうしたデータベースがあると、何のワクチンを何回接種したのかが自動的に分かるようになります。これはデジタル化の一番のメリットになるのではないでしょうか。

 ―― 国と地方の関係で考えますと、デジタルでつながることが地方経済の活性化につながるのか。そういうことは今後期待できますか。

 平井 デジタル化というのは、距離と時間の問題を解決します。距離と時間に制約されない活動ができるようになるので、例えば、先ほどデジタル庁の発足にあたり民間人材を採用すると言いました。これもエンジニアなど、デジタルワーキングをする方が生活費の安い地元で在宅勤務をすることができるなら、住む場所を問わずに仕事ができるようになります。

 今までは東京や大阪などの都市部に出てこないと仕事ができなかったのが、テレワークなどが一気に進むようになる、どこに住んで仕事をしても給料が同じわけです。そうすると、地方にいる人たちも都市部の一極集中を嘆く必要はなくなるし、人々の働き方が変わり、人生の選択肢も変わってくる。これは地方創生という意味でも、新しい日本の形になるのではないかと思います。

 ―― すでにコロナ禍で、都会から地方に移住した人たちも増えていますしね。

 平井 それに加え、各自治体もこれから連携を増やしていくので、どこか一つの自治体で良いアプリを開発したら、それを全国展開することもできる。これは明らかに自治体や地方のベンダーにとっては新しいビジネスチャンスだと思います。

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アナログの世界を豊かにするために

 ―― 世界では例えば、中国のように国を挙げてデジタル技術を開発している国もあるわけですね。民主主義国家である日本では、中国と同じようなことができないのも事実なんですが、今後のデジタル開発に関してはどのようなスタンスで臨むべきだと考えますか。

 平井 日本では2001年にIT基本法が施行され、今回の法案成立で「デジタル社会形成基本法」へ作り替えました。どんな社会を作るかということ、言うならば、デジタル化を進める上での憲法を新たに定めたわけです。

 その中で、われわれは誰一人取り残さないということを明文化しています。全ての国民にメリットのあるデジタル化を進めていくということで、例えば、障がいをお持ちの方であったり、高齢者であったり、デジタル機器を使えても、使えなくても、どのような方々であってもデジタルのメリットをきちんと感じてもらえるようにする。

 ―― 誰もがデジタルの恩恵を受けられる社会づくりということですか。

 平井 そうです。誰一人取り残さないようにするなどということは、米国や中国は絶対に言いません。彼らはどちらかというと、ある程度の格差は仕方ない、それでも一部の人たちがデジタル化のメリットを享受し、市場を牽引できるようにしようという考え方です。

 ですが、日本は困っている人がいたら助けていこうと。実は慶應義塾大学の村井純教授と一緒に作った『デジ道(どう)』という言葉があるんですが、これは武士道と一緒で、日本では、困っている人は放っておかない、デジタルを活用して、誰一人として取り残されない社会にするんだということです。

 ―― なるほど。デジタルの道ですね。

 平井 皆さんに覚えておいてほしいのは、デジタルは手段であって、目的ではないということです。デジタル化の目的は、われわれが生きている、この空間をより良いものにするということであり、人間をより幸せにするということです。

 ですから、矛盾しているかもしれませんが、最終的に目指しているのは、デジタルを意識しないデジタル社会なんですよ。知らない間にデジタル技術によって便利になり、幸せになっていく。これは先ほど申し上げた地方創生もそうですよね。

 人間というのはアナログな存在です。デジタルだけではお腹はいっぱいにならないし、幸せにもならない。嬉しいとか、悲しいという感情はアナログの世界ですから、アナログの世界を豊かにするためにデジタルテクノロジーをスマートに賢く使っていく。それがデジタル庁の進むべき方向だと考えています。

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