安くて高品質な通信時代の裏で懸念される通信インフラへの不安! コストと品質から通信料金を考える

KDDIおよび沖縄セルラー電話が1月13日に発表した、データ通信容量20GB/月額2,480円の新料金プラン「povo」によって、大手移動体通信事業者(MNO)のメインブランドによる20GBプランが出揃いました。
この新料金プランとともに、各社のデータ通信使い放題プランも大幅な値下げが予定されており、今年3月以降、大多数の人々が通信料金値下げの恩恵を受けられることとなります。
通信料金の値下げは消費者としては非常に喜ばしいことである一方、インフラの維持や技術開発、災害対策への影響も懸念されるところです。
私たちの通信料金はどのように使われ、通信インフラはどのように維持されているのでしょうか。

通信が当たり前に繋がることの重要性を考える
●インフラとしての通信コストの高い日本
普段私たちは当たり前のようにスマートフォンでSNSを利用したり、通話をしたりしています。
しかし、そのためには膨大な通信設備とその保守・管理が行われています。
例えばNTTドコモの場合、
東京と大阪にそれぞれネットワークオペレーションセンターを持っており、日本全国の通信状態を24時間365日監視し、人々が常に問題なく通信できる環境を守っています。
通信障害は突発的に発生しているものだけではなく、常時どこかで必ず起きています。
それでも通信が途切れないのは、網の目のように張り巡らせた基地局および通信設備に迂回させ、どこからでも繋がるようにコントロールしているからです。
このような、既存設備に対する保守や災害対策だけでも、各社は毎年数十億〜100億円規模の投資を行い、私たちの通信と生活を守っているのです。

いつでもどこでも通話ができる。当たり前のことのようだが、その裏方には100万単位の設備とそれを保守するサービスがある

通信会社の強さと通信のありがたみは災害時にこそ現れる

通信基地局車とその設備。これだけでも導入および維持コストに数千万円かかる
通信の保守は国内だけの問題ではありません。
世界中の人々とインターネットで繋がっているのは、日本と海外が海底ケーブルで繋がっているからです。
無線通信万能の時代となった今でも、その基幹は有線なのです。
直径わずか2〜3cmの海底ケーブルが何千〜何万kmも途切れること無く海底に敷設され、それによって私たちは海外の情報を瞬時に手に入れているのです。
現在は衛星通信などもありますが、その通信速度は数M〜数十Mbps程度で、海底ケーブルには遥かに及びません。
陸続きで通信環境の構築が比較的容易なユーラシア大陸内陸部の国々と比較して、
日本はそもそも、圧倒的に通信コストが高い国なのです。

島国である日本は世界の全ての国と海底ケーブルで通信が繋がっている

直径数cm足らずのケーブルが数本破断しただけで日本は壊滅的な通信危機に陥る

海底ケーブルの敷設や保守を行うことはKDDIの重要な役割の1つ
●重要なのは料金よりも「通信品質」
そもそも、総務省が通信料金値下げの指針や要請の基準として示していた「データ通信容量20GB/月額3,000〜4,000円前後」という数字は、主に欧州(EU)各国の通信料金水準を基にしたものです。
総務省が通信料金基準の参考としたデータの1つに、ICT総研がまとめ2020年7月に公開した「スマートフォン料金と通信品質の海外比較に関する調査」があります。
この調査によれば、20GBプランの料金は
・イギリスやフランスで2,000〜3,000円
・ドイツで6,000円前後
・米国や韓国で8,000円前後
このようになっており、そこに当時の日本の通信料金(各社平均7,135円)が比較されて、「高い」、「4割程度下げる余地がある」とされたのです。

当時の日本の通信料金は欧州各国からすれば高めだが、米国や韓国よりは安い
しかし、ここで重要なのは通信品質です。
日本および各国の4G通信の接続率や通信速度を比較すると、日本は接続率で98.5%の1位、通信速度でも49.3Mbpsで2位です。
その内訳を見れば、接続率でも通信速度でも欧州各国は非常に低い数値に留まっており、通信品質がかなり悪いことが分かります。
つまり、日本や韓国は「通信コストは高いが、通信品質は高い」国なのです。

辛辣な言い方だが、欧州各国は一言で言えば「安かろう悪かろう」となる
日本は、地震や台風など甚大な被害を及ぼす自然災害が毎年のように多発する上、地続きの国が存在しない島国です。
この条件は、圧倒的なデメリットとして通信コストに跳ね返ります。
しかし、それでもMNO各社はデータ通信容量20GBで月額2,480円〜2,980円というプランを出してきました。
この意味と価値は計り知れません。
むしろ、その価格でインフラの維持や災害対策が可能なのか不安になるほどです。
日本の消費者は今春、世界でもトップクラスに安い通信料金と、トップクラスの通信品質を手に入れられるのです。

NTTドコモのみならず、日本の大手MNOの通信品質は世界に誇って良いレベルだ
●「安くて高品質」な日本の通信インフラを正しく選択しよう
通信各社の高すぎる利益率などを理由に総務省が通信料金の値下げを強く求めはじめて、今年で3年目になります。
紆余曲折に末に一応の決着を見た現在、その価格は世界水準と比較しても何ら遜色のないものとなり、そして通信品質は世界最高水準のままです。
それでも大手MNOは、通信品質の維持と保守と災害対策への投資を続け、さらに未来への投資である技術開発の手を緩めることはないでしょう。
私たちは、通信各社が強い決意と覚悟のもとに出した選択肢を確実に有効活用しなければいけません。
もはや「通信料金が高い」とは言えない時代が来たのです。
執筆 秋吉 健