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まずはタミヤに聞いてみた

text:Kumiko Kato(加藤久美子)editor:Taro Ueno(上野太朗)

世界屈指の高品質プラスティックモデル(プラモデル)メーカーであるタミヤでは、箱絵(ボックスアート)についてどのような基準を設けているのだろうか。

株式会社タミヤの広報担当者に尋ねてみた。

タミヤのプラモデル    加藤博人

ーープラモデルの箱絵はどのような方が描いていますか?

「社外の専門のイラストレーターの方(複数)や、弊社デザイン部の社員が担当しています」

ーー箱絵に関してタミヤのポリシーは?

「自動車や航空機、船などすべてのジャンルで基本的には同じですが、商品の顔であるパッケージに使用する絵であることから、その模型のモチーフ(クルマや飛行機など)が魅力的にみえるイラストであることが前提となります」

「そのうえで、お客様が模型製作の際の資料としても役立つような描写をお願いしています」

「イラストの制作途中にも社内のデザイナーや商品の開発担当者による何度かのチェックを経て完成に至ります」

ーー箱絵イラストレーターに求められるスキルは?

「タミヤが作っているプラモデル、船やクルマ、飛行機などそれぞれの『実物』に対する知識や理解力は必須です」

「戦車はどのように汚れるのか? 飛行機のスケール感、距離によって色合いがどのように異なってくるのか? クルマもオートバイもみなそうですね」

「実物に対する知識が豊富にあり、さらに、写真や実機を見てそこからさまざまなことを読み取る力があると、よりリアリティのある説得力のある絵が描けると思います」

プラモデルの箱絵には背景や乗員として「人」が描かれる場合もある。背景や使用状況をリアルに描くことプラモデルの魅力度を上げることにもつながるのだ。

ーー「人」を描く上での注意点などはありますか?

「例えば戦車の横に人物(兵隊)が一緒に入っているイラストの場合、ドイツの戦車かアメリカの戦車かによって、横に立つ兵隊も変わります。人種による骨格や髪の色、身体の特徴も異なってきます。それらを理解して描けるスキルも重要です」

「戦車や戦闘機は実物を見るのが難しいですから、写真や歴史的な資料などから機械だけではなく、『乗員』についても読み取る能力が必要です」

実際描いているのは?

実際には、どんな人が箱絵を描いているのだろうか?

1972年からタミヤの箱絵をはじめ、さまざまなテクニカルイラストを描いてきた佐藤元信さんに話を伺った。メカニカルなイラストや構造図が得意分野で徹底して「手描き」にこだわっている。

佐藤元信さん    加藤博人

ーー手描きにこだわる理由は?

「筆で描いて線のカスレなどをわざと作るんです。同じ直線でも味わいが生まれます。均一な線でも切って反射してる感じにしたり」

「エンジンを直線で描く際も定規の溝引きにガラスを突っ込んでヒューッと。それでゆるい曲線は放射状に描く。紙や筆の特性も仕上がりに関わってきます」

「いまはパソコンで簡単に精密に描くことはできますけど味わいの部分はなかなか出せないでしょう」

戦車を描くために戦車に乗る

ーーそのテクニックはどこで?

「独学ですよ。学校や美大ではまったく教えてくれないですね。わたしは子どものころから少年雑誌を見ていて、そこに21世紀のクルマとか載っていたんですよ」

箱絵のデザイン    加藤博人

「大御所である小松崎茂さんの人の絵に憧れました。パソコンで描くのは効率よく早くきれいに描けるでしょうけど、味わいのある絵をわたしは描きつづけたいのです」

ーー戦車や戦闘機はどのように描いているのですか?

「自衛隊の演習場などで、10式や90式戦車に何度も乗せてもらいました。一般の人は見られない射撃装置なども見ましたよ。電源オフ時にハンドルで旋回ができることなどもね。重いと思ったらそれは凄く軽くてスムーズ」

「戦闘機は、F-2という三菱の戦闘機があるんですが、これもモックアップの段階で呼ばれたことがあります。そのモックアップでは操縦システムが遠いとか、肘が当たるとか、原寸大でわかるから問題点が見えてきます」

「実に細かいところだけど、そういう部分まで見て確認して読み取ってイラストや構造図に反映させています」

ところで、プラモデルの箱絵に写真(プラモデルの完成写真)を使っている場合もある。タミヤもごく少数ではあるが完成した写真を箱絵にしていたことがあった。

プラモデル初心者にとっては、資料としても使える完成写真の方が作りやすいといわれることもあるが、中身は同じプラモデルでも、やはりイラストの方が筆者は魅力的に感じる。

写真では伝えきれない魅力

絵だからこそ表現できることを佐藤さんはどのように感じているだろうか。

ーー写真では表現できない、絵ならではの魅力は?

左の写真はX-1単体。右のイラストは背後にB-29が描かれている。X-1がB-29から切り離されて(B-29の機体下部に吊り下げられた状態)投下され、チャック・イェーガー氏によって音速を超えた歴史上初めての航空機であることをイラストで説明している。    加藤博人

「F1マシンを例にすると、まずボディの素材であるFRPらしさを絵で表現します。そしてボディの1番きれいなライン、美しい光り方とはどのようなものかをイメージします」

「晴天時と曇天時では光り方も映り込みも変わるでしょう。F1マシンは快晴の時が一番かっこよく見えるんです。その状態を絵にしています」

「でもそれを写真にすると、必ず真っ黒な影になる部分が出てきます。どこを抑えて、どこを強調するか。どう描いたら一番魅力的に見えるのか」

「動くクルマや飛ぶ飛行機の姿などを見て、常にそこを考えています」

ーーセンスと経験が重要ですね。

「大事なことは、描く対象物を好きになることです。自分の好みの対象物じゃなくても、必ずアピールする部分があるはずです。そこを見抜くことが重要です」

「たとえば戦車には一般的にオリーブドラブ(暗くくすんだオリーブ色)という色が使われていますが、これも戦車の種類や国によって色が違います」

「そして、外装の色に少し青っぽい色を載せるんです。そうすると空が写り込んでいる感じに仕上がります」

「戦車が『外にある』という演出が光ってきますね。プラモデルの完成写真ではこの演出は難しいでしょう」

想像以上に深かった箱絵の世界。史実も一緒にビジュアルで理解できるのも「絵」の強味である。

コロナ禍によって、自宅にいる時間が増え、プラモデルの販売が好調という。

わが家にも大量のプラモデルの箱がある。箱絵を描いた人の思いやプラモメーカーのこだわりなどを考えながら、あらためて箱絵をじっくりと眺めてみたくなった。