通信技術の歴史資料館「KDDI MUSEUM」オープン! 無線通信技術から海底ケーブルまで、通信業界の裏側を探訪する

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●通信技術の資料館「KDDI MUSEUM」がオープン
KDDIは12月1日、日本の国際通信の歴史に関する企業ミュージアム「KDDI MUSEUM」の一般公開を開始しました。
KDDI MUSEUMは東京都多摩市にあり、西洋および日本のさまざまな美術品を展示するギャラリー「KDDI ART GALLERY」も併設されています。

新型コロナウイルス感染症対策などもあり、両施設ともに完全予約制となっています。
KDDI MUSEUMは専用ウェブサイトから、KDDI ART GALLERYは電話及びメールでの予約となっています。

みなさんは日本の電話や通信の歴史を学んだことがあるでしょうか。
KDDI MUSEUMは、明治以降の近代日本(一部幕末もあり)における通信の歴史を90分程度のツアー形式で観覧できる施設です。

本施設の基となったのは、かつて栃木県小山市にあったKDDI国際通信資料館です。
同館は施設の老朽化によって2013年に休館しましたが、貴重な資料や遺産の公開と新たな通信技術の啓蒙を目的に、改めてKDDI MUSEUMが造られました。


日本の通信の歴史を訪ねる


KDDIは、前身となった企業の1つに国際通信事業を手掛けたDDIがあります。
そのためKDDI MUSEUMでは、国際通信の歴史に関連したものが多く展示されています。

古くは江戸時代にペリーが幕府へ献上したモールス信号機から、世界初の大西洋横断海底通信ケーブルの実物展示など、歴史的資料としても非常に希少性の高いものが多数あります。

また、明治時代の通信の様子をプロジェクションマッピング技術で再現したコーナーや、モールス信号を実際に試してみるコーナーなどもあります。
ツアーガイドの解説とともに、理解度を深めつつ周遊できる点が大きな特徴です。


19世紀に海底通信ケーブルが存在していたこと自体、多くの人には驚きだ



プロジェクションマッピングによって明治時代の通信施設を再現。手前の椅子には誰も座っていないが、まるでそこに人がいるかのような臨場感で当時の通信の仕組みを知ることができる



明治時代のモールス信号機を再現した装置で実際にモールス信号を試すことができる



●通信の裏側の世界を覗く
施設内は大きく4つのエリアに分かれています。

・A ZONE
日本の国際通信の成り立ちや海底通信、無線通信への発展、そして衛星通信による宇宙への挑戦などを時系列で紹介

・B ZONE
1985年の通信自由化以降の第二電電(DDI)による通信事業参入を中心に、現在のKDDIに至るまでの沿革や、携帯電話の歴史を振り返る「通信おもいでタイムライン」などを展示

・C ZONE
auブランドの携帯電話およびスマートフォン、約500種類を展示したau Galleryやauの歴史、AR技術を用いた都市開発アトラクションなどを展示し、通信の未来について学べる

・D ZONE
2020年代を代表する通信技術である5Gを、VRゲームや体感型アトラクションで知ることができる


auブランドの携帯電話やスマートフォンを一覧できる圧巻のウォールギャラリー



携帯電話の歴史もイラスト付きで楽しく思い出させてくれる



1980年代の携帯電話「ショルダーフォン」に実際に触れられる施設は滅多にない


前述した日本の通信事業の成り立ちや無線通信技術の歴史などは、A ZONEに含まれています。
その中でも特に深い感銘を受けるのは、やはり海底ケーブル通信に関するコーナーでしょう。


21世紀の社会と世界経済は、この海底ケーブル通信に支えられていると言っても過言ではない


私たちが普段スマートフォンで何気なく見ている海外の情報は、電波だけで海外と繋がっているわけではありません。スマートフォンはアンテナ基地局を経由し、有線(光回線)によって海外と繋がっています。

想像してみてください。日本からアメリカまで、僅か直径2〜3cm程度の光ケーブルがずっと繋がっているのです。
その敷設距離は、長い区間で数万kmに達します。

日本の場合、東側に日本海溝などがあるため、海底の深さは8000m以上に達する場所すらあります。
1立方cmあたり約1トンもの水圧がかかる海底で、一切の損傷もなくケーブルが何千・何万kmも繋がって、はじめて世界と日本の通信は可能になります。

もちろん、現在では衛星通信も重要な一翼です。
しかし、人工衛星によるデータ通信容量は有線通信と比較して圧倒的に小さく、また用途が大きく異なります。
現在、世界と日本を繋ぐ通信の約99%が、この海底ケーブル通信によって支えられています。


海底通信ケーブルの実物に触れることもできる



世界初の商業通信衛星「インテルサットI号」の実物。この他にも多数の通信衛星やその模型が展示されている



海底ケーブルの建設については動画で視聴することができる


近年、海底ケーブル通信が危機的状況に陥ったことがありました。2011年に発生した東日本大震災です。
この震災によって海底通信ケーブルの一部が破断し、海外と通信ができなくなったのです。
この時KDDIは、約5ヶ月間・24時間体制で通信ケーブルの修復と回線の復旧に取り組みました。

私たちがスマートフォンを主軸とした便利で不自由のない快適なモバイル生活を送れるのは、こうした弛まぬ通信環境保全の賜物なのです。
もしあの時海底ケーブル通信の復旧が遅れていたり、復旧不可能な状況に陥っていたりしたならば、その後の日本の復興も大きく遅れていたことでしょう。


東日本大震災で日本は壊滅的な打撃を受けたが、通信の世界もまた破局的状況に追い込まれていた



日本を通信的孤立から救った海底ケーブル敷設船「KDDI ケーブルインフィニティ」



●温故知新のKDDI MUSEUM
2020年、通信業界(モバイル業界)は通信料金値下げを巡って大きく紛糾しました。
総務省による圧力に近い値下げ要請によって、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの各移動体通信事業者(MNO)は、通信容量20GBで月額3000〜4000円前後の料金プランを次々と発表し、2021年春よりスタートさせようとしています。

これまで、MNO各社の通信料金体系が分かりづらく、また高止まりしていたことは間違いありません。
そのため、モバイル市場では比較的通信料金の安いMNO各社のサブブランド(UQモバイルやワイモバイルなど)や、MNOから回線を借り受けて運営を行う仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスなどが大きな市場を形成するに至りました。

しかし、その高い通信料金には理由がないわけではないのです。
太平洋を何千kmも繋ぐ海底ケーブルやアンテナ基地局の保守と整備には、莫大なコストがかかります。
通信技術は日々進化しており、その開発競争にかかるコストもあります。

これまでMNO各社のメインブランドが通信料金を頑なに下げず、サブブランドやMVNOへとオフロードさせることで低廉な料金へと消費者を案内してきたのは、
こういった現代社会の根幹たる通信インフラを維持するという大義名分があったからでもあります。


通信事業の歴史は、困難との戦いの歴史でもあった


とはいえ、通信料金体系が分かりづらいままに放置され、多くの消費者が不満を引きずっていたことも間違いありません。

観覧ツアーの後半、KDDIの沿革を語る映像の中で、このような言葉が流れました。

「日本の電話料金を安くしたい」


その言葉は、現代に引き継がれているか


通信自由化によってDDIが参入した際、信念を表した言葉です。
実際、1985年に1分400円だった通話料は、通信自由化によって1998年には1分90円にまで下がりました。
まさに市場競争がもたらした恩恵であり、これによって日本の通信市場は大きく花開いたのです。

現在のモバイル業界へ目を移した時、電話料金や通信料金を安くしたいという想いはそこにあるでしょうか。
もしくは、その想いは消費者に届いているでしょうか。

KDDI MUSEUMでは、日本の通信事業が歩んできた長い歴史と苦難の数々を知ることができました。
一方で私たち消費者自身も、通信の仕組みやコストについて、今一度真剣に考えるべきであることを痛感させられました。

もし通信の仕組みに興味や疑問を持つことがありましたら、ぜひこの施設を訪問してみてください。


執筆 秋吉 健