デキる人たちが就寝前の「熟考の時間」にやっていること
■二律背反の意見は、どちらが正しいの?
現在のように大勢の人が大きな不安にとらわれた状況になると、専門家を名乗る人が次々登場し、さまざまな違う説を滔々と語り、ネットには正反対の情報が流され、わたしたちの感情はすっかり翻弄されてしまいます。
「直感」や「心の声」にしたがって行動することの大切さを語る人がいます。
その一方で、「よく考えよう」とも言います。
……いったいどちらが正しいの?
先回りして答えを明かすと、「どちらも正しい」のです。

■「ポスト・イット」は失敗作だった!
一例を挙げましょう。本を読むときのしおり代わりに、また、職場の仲間に簡単なメッセージを残すツールとして、みなさんも「ポスト・イット」を使ったことがあると思います。
類似製品は数多ありますが、元祖ポスト・イットを開発したのはアメリカのスリーエム社です。同社はもともと強力な接着剤を研究、開発し、業績を伸ばしてきたメーカーでした。ところが、たまたま新製品の試作過程で、さまざまなものにくっつくけれど、すぐにはがれてしまう粘着力の弱い試作品ができあがったのだといいます。
接着剤としては失敗作。しかし、試作にたずさわった研究者は「弱い接着力が、なにかの役に立つかもしれない……」という心の声に耳を傾けました。
ただし、具体的な用途は思い浮かびません。そこで、社内の同僚たちに見本を配り、使いみちを探りました。すぐにボツにしてしまわず、熟考する時間を取ったわけです。
■直感、熟考、直感、熟考の繰り返しでOK
5年後、研究者の同僚が、教会で賛美歌集からしおりが落ちるのを見たとき、「あの接着剤を使えば、落ちないしおりがつくれるかもしれない」とふたたび直感が働きました。
そこからポスト・イットが製品化されるまで3年。直感、熟考、直感、熟考のくり返しで、世界的なヒット商品が生まれたのです。
接着剤としての失敗作を直感的に「なにかに使えるかも」ととらえた研究者も、賛美歌集からしおりが落ちるのを見て使いみちを思いついた同僚も、直感が働く前段階で、思考を寝かせて、じっくり発酵させていたのです。取るに足らないアイデアが、やがて素晴らしい形になるまで。

■人間の脳は「ファスト&スロー」でできている
心理学者のカーネマンは、この「直感」と「熟考」のしくみを「ファスト&スロー」と名づけて説明しています。
カーネマンによると、人間の脳は直感的な「速い(ファスト)思考(システム1)」と論理的な「遅い(スロー)思考(システム2)」の両輪で成り立っているといいます。
直感に頼りすぎると、ロジックがおろそかになり、「自信過剰」におちいります。逆にロジックばかりに意識を向けていると、結局行動を起こすことができず、タイミングを逸することになってしまいます。
■脳がクリエイティブになる方法
考えるな、動け。
急いては事を仕損じる。
いったん寝かしたほうがいいアイデアが出る。
直感と熟考に関しては、両極端なアドバイスが当たり前のように流布されていますが、冒頭で述べたように、どちらか一方のやり方が正解なのではありません。
みなさんも経験があると思いますが、シャワーを浴びているとき、外を散歩しているときに突然、いいアイデアがひらめくことがあります。それは直感のようであって、じつは仕事や雑務から離れ、無心になっているあいだ、無意識のうちに熟考した結果です。
これは脳科学で「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と呼ばれる脳のしくみです。DMNは特になにもせず、ぼーっと無心になっているときに脳内で働いている回路。この回路が動いていると、脳内で眠っていたまったく別々の情報やアイデアの断片が、意外なつながりを持ちだすのです。まさに、脳がクリエイティブになれる瞬間。
■「無心になれる1人の時間」をつくりましょう
1人の時間こそが、脳に栄養を与え、アイデアをつくり出すのです。
だから、私があなたにアドバイスできることがあるとすれば、「いま」という混乱の時期だからこそ、「無心になれる時間をあえてつくるように心がけましょう」ということ。

私たちは好むと好まざるとにかかわらず、圧倒的な情報量を浴びる毎日を生きています。アメリカで行われた生産性に関する調査によると、一般的なオフィスワーカーの業務の8割以上をSNS、チャット、メール、会議などに参加する仕事が占めているそうです。
そして、オフィスから離れてもスマホやテレビから流れ込む情報にさらされ、じっくり思考する時間を取れていない人が増えています。まして、現在のように答えのわからない感染症が世界を覆う状況になっていればなおのことですよね。
■「自分ミーティング(MTG)」のすすめ
実際に、意思決定が速い仕事のできる人、いいアイデアを生むのが上手な人たちは1日のどこかに、意識的に思考をじっくり整える「熟考の時間」をつくっています。

あなたが上手に取り入れるためにおすすめなのが、「自分ミーティング(MTG)」の時間を設定すること。1日のスケジュールの終わりに、1人で熟考する時間をつくる。そして、その日のテーマは、心のおもむくままに決めます。
あわただしい日々の中、つい先のばしにしていたこと。決断をしなければいけないこと。時間が空いたいまだから、新しく始められそうなプロジェクト。普段よりも長めの入浴。帰宅途中の散歩。好きな音楽を聞きながらのストレッチ。
そんなささいな瞬間でOK。外部から入ってくる情報をシャットアウトして、1人静かに自分と向き合う時間をつくることを習慣化してください。それだけで脳内がすーっと楽になりますよ、きっと。
※本稿は、中島輝『1分自己肯定感』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
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中島 輝心理カウンセラー
作家。著書に『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』など多数。
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(心理カウンセラー 中島 輝)
