AFC U-23選手権でカタールとの最終戦を終えてピッチから引き上げる日本選手たち(2020年1月15日、写真:アフロ)


(後藤 健生:サッカージャーナリスト)

 取材旅行でタイのバンコクに行ってきた。

 タイを訪れるのは2016年9月のロシア・ワールドカップ最終予選の時以来。最終予選初戦でアラブ首長国連邦(UAE)に敗れた直後、日本代表がアウェーのバンコクで2対0でタイを破った試合だった。

 その翌10月には70年以上にわたってタイに君臨してきたプーミポン・アドゥンヤデート国王(ラーマ9世)が崩御。在位期間の長さだけでなく、クーデタなどで政局が不安定化するたびに調停役を買って出て、タイにおける国王の地位と権威を大いに高めた名君だった。

 それから3年半が経過。ワーチラロンコン新国王(ラーマ10世)の時代となり、タイ政治は依然として軍主導の政権が続いているが、流通している紙幣の大半はすでに新国王の肖像のものに切り替わっていた。

 また、地下鉄(MRT)やスカイトレイン(BTS)の路線も延伸されていたし、スマホアプリを使って市内を縦横に走るバス路線を自由に乗りこなせるようになっていた。おかげでバンコク滞在は前回までより、ずいぶん楽なものだった。

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前例のないような惨敗

 バンコクを訪れた目的はサッカーの「AFC U-23選手権」だった。

 この大会はU-23(23歳以下)代表のアジア選手権で、2年に1度開催されているが、オリンピック開催年に開かれる大会はオリンピック・アジア予選を兼ねている。たとえば、2014年のこの大会では日本代表が決勝戦で韓国相手に逆転勝利して優勝。リオデジャネイロ・オリンピック出場権を獲得している。

 2020年の東京オリンピックでは、日本を除くこの大会の上位3チームにオリンピック出場権が与えられる(日本は「開催国」としてすでに出場が決まっている)。1月25日に行われた3位決定戦でオーストラリアがウズベキスタンを下し、サウジアラビア、韓国、オーストラリアの3カ国が東京オリンピック出場権を獲得した。

 さて、U-23日本代表はこの大会でなんとサウジアラビアとシリアに連敗して早々に敗退が決定。最終カタール戦は引き分けたものの、3試合を戦って1分2敗という、アジアレベルでの大会ではちょっと前例のないような惨敗を喫してしまった。

 これは“大失態”だ。もし開催国でなかったらオリンピック出場権を失うところだったのだから。

 もっとも、日本チームは「選手の能力の平均値」という意味では、対戦した3チーム(サウジアラビア、シリア、カタール)のいずれと比べても明らかに上回っていたし、おそらく大会全体を通じても韓国と並んで最高のレベルだった。ちょっとした接触プレーでもすぐに大げさに倒れて相手の反則をアピールしてゲームを止めてしまう中東勢に比べて、日本や韓国の選手はどんな悪質なファウルを受けても常に冷静さを失わずにボールを動かし続けるプロフェッショナルなチームだった。

 では、そんな優秀な選手たちを揃えながらなぜ敗れたのか。最大の原因はチームの完成度が低かったことだ

 完成度の高いチームなら相手ボールを奪った瞬間に前線の選手が動き出し、間髪を入れずにその走っている選手の前のスペースにパスが送り込まれてスムーズにボールが運ばれる。ボールを奪ってから相手陣内深くまでそのボールを運ぶルーティンが決まっているのが完成度の高いチームだ。

 だが、日本の場合は前でパスを受ける選手とパスを出す選手の意図がズレてしまうことがあまりに多かった。選手同士が互いに顔を見合わせて「さあ、どうするのだ?」と考えてからパスを出すのでタイミングが遅くなり、結局バックパスするしかなくなってしまう・・・。そんなことの繰り返しだった。

 無理もない。これまで一緒に試合を戦ったことのないような選手がたくさんいる、そんなメンバー構成だったからだ。

専門家の間でも高まる解任論

 2019年の1年間、森保一(もりやす・はじめ)監督(ワールドカップを目指す年齢制限なしのA代表とオリンピックを目指すU-23代表の兼任監督)はメンバーを固定してチーム作りを進めることよりも、新戦力を招集して選手層を厚くすることに専念してきた。ヨーロッパのクラブに所属する選手を招集できないとか、Jリーグの日程と重なるといった悪条件のせいでもあったが、それでも国内組を中心に完成度を高めておくことも可能だったのだ。「選手を固定しない」というのは明らかに森保監督の選択だった。

 もちろん、森保監督だってU-23選手権で優勝したかったろうし、チーム作りと選手の見極めのために、この大会では決勝までの6試合を戦うことがとても大事なことだった。3試合で終わってしまったのは大きな痛手となった。森保監督としては、「1月2日に集合してから1週間程度の事前合宿とグループリーグの3試合を戦う間にチームの完成度をある程度高めることが可能だ」と考えていたのだろうが、その見通しが甘かったようだ。

 こうした結果を受けて、森保監督の「解任」を求める声が高まっている。

 なにしろ記憶にないような“惨敗”だったのだ。ファン、サポーターの間に「監督を解任すべし」という感情が生じるのは当然のことだろう。そして、サッカー記者や評論家といった専門家たちの間でも同様に感情的な解任論が高まっている。

 専門家の間でそういう意見が出てくるのは、ファン、サポーターの間の感情に迎合的な意見を述べる人たちが多いからだし、代表や協会を批判したり、悲観論を述べたりする「辛口評論」をウリにしている人たちも多いからだ。

 過激な論説が飛び交うのはサッカー評論だけでなく、おそらくあらゆるジャンルのジャーナリズムに共通の事象なのだろうが、サッカー評論の世界では他の分野以上にフリーランス記者が多く、競争が激しい世界だけについつい過激な言説に走ってしまう人が多いのだ。

オリンピックを最終テストの場に

 しかし、筆者は「監督解任は最後の手段。まだ、その段階にはない」と考える。

 チームの完成度を高めることよりも選手層を厚くしようとしたのは、7月の東京オリンピックでメダル獲得を目指すために森保監督が計算づくで選択したことだった。1月のU-23選手権で勝てなくても仕方がないと、ある意味で割り切っていたはずだ(グループリーグ敗退は論外だったとしても)。

 従って、今の段階で監督を交代するよりも、森保監督にはオリンピックまでそのまま続けてもらえばいい。森保監督の方針が正しかったのか否かは、目標としているオリンピックで分かる。つまり、それが森保監督の最終的なテストの場になるわけだ。

 地元開催のオリンピックまでに完成度を高められなかったり、相手にリードを許したような場面で効果的な交代ができなかったりするようであれば、その時点で監督交代を決めればいい。

 日本代表の最終目標は「2022年のカタール・ワールドカップでのベスト8以上」だ。「監督更迭」というのは日本サッカー協会にとっては実に難しい判断となるが、今回は「東京オリンピック」という格好のテストの場があるのだ。「東京オリンピックでは最低銀メダル獲得」とか「グループリーグ突破=ベスト8」といった具体的なノルマを課して、森保監督の資質と能力を見極めるべきだろう。

筆者:後藤 健生