営業運転に投入予定のL0系(Saruno Hirobano/Wikimedia Commons)

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 2027年の開業を目指して品川駅―名古屋駅間で建設が進められている中央リニア新幹線は、静岡県の川勝平太知事が大井川の水資源減少問題で待ったをかけ工事が中断している。静岡県には周辺市町村も同調し、JR東海も主張を譲らない。そのため、話し合いは平行線をたどっている。静岡県がクビを縦に振らなければ、リニアの工事は進まず、工期はどんどん遅れる。

【画像】リニア中央新幹線の未着工区間

 リニア問題は静岡県とJR東海の対立ばかりが大きくクローズアップされているが、実は山梨県でも、駅の設置場所を巡って山梨県と甲府市で意見の相違が表面化している。

 山梨県のリニア駅は、甲府市大津町に設置することが内定していた。ところが、今年2月に新たに就任した長崎幸太郎県知事が、リニアの駅設置場所の見直しを言及。ここから、事態は大きく動き出した。

営業運転に投入予定のL0系(Saruno Hirobano/Wikimedia Commons)

 甲府市大津町に開設予定のリニア駅は、郊外に位置する。しかも、リニアは単独駅。ほかの鉄道路線への乗り換えはない。

 リニアで山梨県に足を運んでも、市の中心部まで行くにはリニア駅からバス・タクシーに乗り換えなければならない。その所要時間は約20分。リニア開通により山梨まで短時間で移動できるようになっても、リニア駅から市の中心部までが面倒になってしまえばリニアの効果は薄れてしまう。

 一方、甲府市大津町から4キロメートル西には、JR身延線の小井川駅がある。ここにリニアの駅を開設すれば、身延線を乗り継いで甲府駅へアクセスできる。バスよりも鉄道の方が、圧倒的に利便性が高いことは言うまでもない。長崎幸太郎県知事が見直しに言及した背景には、そうした事情がある。しかし、この問題がややこしいのは、小井川駅の所在地が甲府市ではないことだ。

 小井川駅は、甲府市に隣接する中央市にある。県都を自負する甲府市にとって、リニアの駅を人口がわずか3万人の中央市に奪われることは面白くない。そうした思いから、甲府市は今年7月から庁内で「どちらにリニア駅を開設した方が高い効果を得られるのか?」の検証を開始した。

 このほど、甲府市は結果を公表。甲府市の検証結果は、改めて大津町案に優位性があると結論づけている。

「今回、市は1:観光地へのアクセス利便性、2:企業誘致としての受け皿の可能性、3:移住先としての評価という3つの観点から検証を進めました。その結果、3の移住先としての評価は同等ですが、1と2は大津町設置案の方が大きな効果を得られることがわかりました」

 と話すのは、甲府市企画部リニア交通室リニア政策課の担当者だ。

 甲府市大津町にリニアの駅が開設された場合、リニアの駅から甲府の中心部へアクセスするにはバスを使わなければならない。交通利便性は明らかに小井川駅案が優勢のように見える。

「小井川駅の周辺は、地形的な問題からリニアの駅を併設することが難しいのです。そのため、小井川駅案は駅から500メートルほど東に離れた場所にリニア駅を開設する予定になっています。小井川駅案の場合だと、甲府駅まではリニア駅からバスで小井川駅まで行き、そして身延線に乗り継ぐことになります。そうした点を考慮し、大津町案の方がアクセスの利便性は高いと判断しています」

“大津町案にメリットが大きい”

 一方、甲府市が推す大津町案は、駅予定地の近隣に中央自動車道がある。2019年度内に大津町付近にはスマートインターチェンジが開設される予定で、甲府市はリニアの利用者が駅から高速道を使って市内や観光地へと移動すると想定している。

「大津町にリニア駅の開設が決まれば、周辺には駐車場が整備されるでしょう。市内中心部へアクセスするために、バスターミナルの建設も検討されるはずです。そうした整備が進むことを踏まえれば、大津町案に大きなメリットがあると考えます」(同)

 甲府市が導き出した大津町案という結論は、あくまでも庁内の検証結果に過ぎない。甲府市は「多額の費用をかけられない」との理由から、第三者委員会による検証は見送った。

 リニア駅を渇望している甲府市自身が検証をすれば、甲府市に有利な結論が出るのは自然な流れだ。大津市案に優位性があるという甲府市の結論を、額面通りに受け取ることはできない。しかし、“大津町案にメリットが大きい”と結論づけたのは、今回の庁内による検証が初めてではない。

「県内の自治体や関係団体で構成するリニア中央新幹線建設促進山梨県期成同盟会が、2011年に大津町案と小井川駅案とを比較・検証しています。その際も、大津町案に優位性があると結論が出されました。今回の検証は、8年が経過して社会情勢が変化しても『大津町案の方が良い』ことが再確認されたということです」(同)

 一方、小井川駅が立地する中央市は、どう受け止めているのか? 小井川駅案が採用されれば、リニア駅は中央市に開設される。リニア駅によって、中央市は人口増・地域活性化・観光需要の創出などが見込める・中央市にとって、ビッグチャンスになる。

「周辺市町村の間では、リニアの駅は甲府圏域に設置するという考え方で一致しています。その方針に中央市も賛同しています。中央市がどうこう言う問題ではなく、山梨県や甲府市の考えを素直に受け止めるだけです」(中央市リニア交通政策課)

 甲府市の検証に対して、山梨県は第三者委員会を設置。約1700万円の費用を投じて検証作業を進める。

 新山梨県知事の鶴の一声で浮上した山梨県のリニア駅設置場所問題。過去、新幹線駅の誘致を巡って、自治体が激しく争った例は多くある。その結果、自治体間や住民間で禍根が残った地域もある。その成り行きに、JR東海も気が気ではないだろう。

小川裕夫/フリーランスライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年12月3日 掲載