FAST RPA「コボット」はRPA業界を変えるのか - ディップ株式会社 AI・RPA事業部 事業部長 三浦日出樹氏に聞く

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「バイトル」「はたらこねっと」など求人情報サイトを運営するディップ株式会社(以下、ディップ)がRPA(Robotic Process Automation)事業に参入した。なぜ、ディップが今RPAなのか、AI・RPA事業部 事業部長 三浦日出樹氏に話を伺った。

■RPAが広がらない理由
RPAとは、コンピュータ上で動作するプログラム(ロボット)を使ってデータ入力など定型の作業を自動化する技術全般を指す。

日本ではここ2、3年で急速に広まった言葉だが、背景には働き方改革や労働人口減少による労働力不足といった課題がある。AIよりも身近に実現できるとして注目されてきたが、しかし実際は思った以上に敷居は高いようだ。三浦氏は、現在のRPAの課題を次のようにとらえる。

三浦日出樹氏
「我々が課題としてとらえているのは、初期導入のハードルがかなり高いこと。大手のコンサルティング会社が入る場合、詳細な業務分析に数週間かかり、次にそれに伴ってどう改善していくか、その中でRPAをどうやるかを検討する。この間、最低2ヶ月、3ヶ月はかかります。自ずとコストもかかり、中小企業の場合、そこでもう無理という話になる。
 もう1つ大きな問題として、ITリテラシーの問題があります。IT企業以外の職種では社内に情報システム部がなかったり、担当の方がいたとしても総務と兼務しているなど、自社での運用は難しい。
 『RPAはExcelマクロの延長線』的なPRがされていますが、実際はある程度プログラミングの構造、変数の考えといった知識やスキルがあって初めて使えるものなので。そのため中小企業の場合、トップダウンで無理やり入れても、まともに動いていないケースが多い。あるいは、派遣会社からRPAのオペレーターを入れて常駐させる。結局、派遣社員がやっていた仕事をRPA化して、RPAのオペレーターを雇っている。だから広がらないのです」

いわゆるRPA開発サービスを行う企業はロボットの導入支援、そしてシナリオ作り(ロボットに、何を、いつ、どうさせるのか)をサポートする。導入以降の運用は自社で行い、ライセンス料を得る形だ。シナリオ作りには相応のスキルが必要になるということだ。

また、エラーの対処という問題もある。RPAは何かのシステムであったり、いずれかのウェブサイトにアクセスしに行ったりする。たとえば、先方のサイトのデザインがちょっとでも変わった瞬間、ロボットは止まってしまう。止まった場合、何が原因で止まったのか、問題を特定し、シナリオを修正しなければならない。つまりシナリオの作り方を覚えた程度の人ではロボットのログを確認したとしても、そこから修正するという作業はほぼ難しいと三浦氏は説明する。

RPAが期待されながらも思うように普及していない理由には、もちろん個々の企業のさまざまな事情があるだろうが、導入および運用のコストは大きな要因と言える。そうでなくともロボットの質は作り手によって大きな差が出るからだ。コストダウンの目的で導入しても、きちんと設計されていない、あるいは使う側のリテラシー不足などがあれば、想定通りに運用できない。結果、逆にコストがかさんでしまう。そうなれば、本末転倒だ。


■テンプレート的に必要な機能を選ぶ「コボット」
ディップがリリースしたRPAロボット「コボット」は、派遣会社向け基幹システムと連携することで、初期導入と運用の壁を取り払う仕掛けになっている。


「コボット」と派遣会社向け基幹システム「スタッフナビゲーター」の連携


従来のRPA開発支援はそれぞれの業務に合わせて制作し、あとは自社で拡張していく形である。これに対しディップの場合、事前にどの派遣会社でも発生する手作業の業務フローを洗い出して、それ用にロボットを作って納品するというアプローチだ。

事前のヒアリングは約100社、このヒアリングを行ったことで、その結果超大手の派遣会社は例外として、使っている基幹システムはほぼ大手4、5社に絞られること、各社ほぼ同じ決まった業務を行っていることがわかった。そこで、派遣会社向け基幹システムの大手とアライアンスを組んで、業務を洗い出した。

コボットの機能は、準備中も含めて「応募」「時間外対応」「アラート」「出稿」「マッチング」「タイムカード」の6つ。そのうち、属性別の対応および派遣管理システム登録までを自動化する「応募」、抵触日など派遣管理業務のアラートを自動化する「アラート」がすでにリリースされている。


コボットの機能


三浦日出樹氏
「通常は、人がクライアントの現場へ行って導入しますが、我々はロボットさえダウンロードしてもらえれば、リモートで注文を受けた業務を作り込んでロボットに送ります。導入もリモート、そして24時間365日で監視しています。1分に1回、ロボットの稼働確認の信号を採っているので、1分以上信号が来なければ、ロボットが止まっているということがわかる。少なくとも、1分でロボット停止を感知できます。ログも採っているので、原因も推定できる。『何かウェブサイトが変わっていませんか』と問い合わせて、修正もリモートで行う。そういう情報やノウハウが各社から集まってくるので、他社で起こった停止原因をもとに推定し、スムーズな対応を行うこともできます。事前にできたテンプレートを横展開することで非常に安く、高品質なものを提供できる。そこまでしないと、RPAが中小企業まで広がらないと考えています」


すでに10社に導入されており、月に130、140時間の削減ができている会社もあると言う。11月には100社以上に導入する見通しだ。

初期導入のコンサルや運用で利益を出すというビジネスモデルではなく、ロボットと上に乗る業務(保守もコミで)をセットにして月額で提供する。いわゆるSaaS、月額固定の契約でサービスを提供するサブスクリプション形式になっている。


■人材派遣業界が抱える課題
派遣会社に特化したのは、すでに何千社という顧客がいることから開発での協力が得やすい、リーチしやすい、といった理由もあるが、派遣業界を取り巻く状況にも大きな理由にある。

三浦日出樹氏
「人手不足なので求人案件はあります。一方、応募が獲得しづらい。そうなったとき、派遣会社がやるべき仕事は、応募があれば面接会をすぐに設定し、案件を紹介することです。しかし、それをすべき人が他の業務をやっていて、対応に手が回っていない。
 今、求人サイトなどで広告費を払っても人が集まりづらいから広告費を削る企業もあるといいます。逆に広告費を削ったら、さらに応募は減少します。広告費を削るのではなく、バックオフィスの業務を減らす方向にしたほうがいいんじゃないですかと」

応募者の問い合わせに迅速に対応することは必須だが、面接日の調整は煩雑なやり取りになる。また、応募する側の状況の変化もある。応募や問い合わせはメールやチャットが好まれ、時間も日中より夜が中心になる。応募者の取り合いになってきている今、応募者を朝まで待たせていたら、他に取られてしまうのは明白だ。大手はいいとしても、中小でこうした状況を許容するのは厳しいだろう。

「応募コボット」では、決まった日時をRPAで基幹システムに入れる。こうした仕組みで、電話対応が難しい夜の対応も可能にしているわけだ。

三浦日出樹氏
「今、応募対応をコールセンターに委託するということをやられている会社もありますが、それでも夜は対応しないわけです。何百件も溜まった応募を朝一から電話をする。いま、テスト的に我々が入れているチャットボットでは6割くらいがそこで完結します。次の日に電話する量は10分の4になる。大手は困っていないんです。(逆に)中小は本当に人がいない。ディップが営業を行っている中小企業のお客様は本当に人手不足で困っている。チャットボットで企業側が何時なら電話対応ができるか、応募者がいつなら来れるかなどのやり取りをして、決まったことを担当者に伝えるだけでもラクになります。相手の日程がわかった上で話が始められるので」




事業部全体で約60名、うち約35名が開発。テキスト認識やチャットボット開発は、それらのスキルを持ったスタートアップ企業(ディップの出資先でもある)と組んで進めているという。「自社でものを作っているだけではなく、出資している会社といかに連携を取って商品開発していくかというのも大きなミッションの1つ」(三浦日出樹氏)

時間外の対応、飲食店のアルバイトの面接設定はすでに始まっている。SMSでチャットボットがリンクを送って、そこで面接日を決めて、チャットボットが決まったことを店長に送るという形だ。こうした、人がやれない時間帯のニーズは思ったより高いという感覚だと三浦日出樹氏は言う。RPAは基本的に人がやっていることの置き換えだが、そもそも夜間は誰もやっていなかったわけで、ロボットを入れればその分プラスになる。

三浦日出樹氏
「ただ、人は絶対にいるわけです。でも、伝票入力は別に人じゃなくていいよねということ。人とRPA、AIが一緒になって労働力を提供していくんだと。ディップは、労働力=人ということでサービスを提供してきましたが、労働力を総合的に提供していく会社に事業拡大してくんだというところの第1弾が『コボット』です」


■RPAの先に見ているもの
三浦日出樹氏が見ている未来はまだ先まである。RPAは3年後にはもう当たり前にプリインスールされた状態になるだろうと言う。そうなると、今のRPAの価値(=コストダウン)だけでは、もっと安い競合他社が現れたら乗り換えられてしまう。そうなったとき、付加価値をどこに持たせるのかが課題になる。

三浦日出樹氏
「人材派遣で一番大事なのは、『どの仕事とマッチングをすればこの人のパフォーマンスが出せて契約期間が長くなるか』『顧客の満足度が上がるか』です。それをできるのは「手配師」と呼ばれるベテランの社員です。そう言えばこの人に似た人はこういった求人案件でマッチングしたな、みたいな感覚でマッチングしたデータが溜まっていく。そうすると、新しい応募が来ても、こういう人ならおそらくこういう仕事が向いている、となる。自動マッチングに近い感覚ですね。効率が上がれば売り上げは増えるわけですから。そこまで人が情報を集めるのは大変ですが、RPAでデータを集めることで、そのサービスの付加価値が出せれば、価格競争になったとしてもひっくり返ることはないわけです」

人の作業をいかにコストダウンするかがRPA、それが今のフェーズだ。しかし次のフェーズでは、効率化の精度を上げるAIをやろうということになる。そのためには、今から計画して準備しておく必要がある。今は、AI向けのデータがない、データがあったとしても整理されていない状態だ。ある意味、データをどう補完するかという段階でもある。継続期間、時給の変化、評価などのデータをRPAが集めて、AIに入れて自動マッチングまで持っていく。すると、人がやるよりもマッチング率が一気に上がる。

三浦日出樹氏
「今はロボットを作りやすいし、業務を特定することでAIの精度はすごく上がります。人のマッチングでもターゲットの属性によって違うので。業界を決めて、そこのデータを深堀りしていけばいくほど、飛躍的にAIの精度は上がる。個別にRPAをやるというのはそれぞれの会社でもできますが、将来を見据えると業界特化型のこういったサービスは中小企業にとって魅力だと思います」

個人情報をマスクした状態で「こういう属性の人はこう」というデータを集める。数があればあるほどその精度はあがる。大手であれば自社で莫大なデータが収集できるが、中小ではそうはいかない。しかし、中小であってもディップを通して各社のデータを集めて活用できるようになれば、それは大きな価値となる。

特定の業界特有のプラットフォームにおいて、RPAを介在させることでデータを集めることがそう難しくないというのはすでに見えている。「コボット」に1000社、2000社と企業のデータが入ってくれば、業界のAI化は大きく推進できる。そこまでやらないと事業の付加価値にはならないと三浦氏は言う。

今後は、順次、「コボット」の機能の実装を進め、さらに他の業界向けにも出していく予定だ。人材派遣業界と同じように、あまりIT化が進んでいない、また同じ情報を複数サイトに展開するようなところ、たとえば不動産などを視野に入れている。


執筆 大内孝子