ケチるとビジネス失敗? 中国における「接待」、どんなルールやマナーがある?

日本のビジネスシーンでも「接待」が効果を持つ場面がありますが、お隣の中国でも「食」は単に楽しむだけでなく、人間関係を構築したり、ビジネスを成功させたりする上で不可欠のようです。中国の接待文化について、ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。
面子を重んじる中国の国民性
Q.中国人は、飲食店で接待をすることはありますか。
青樹さん「中国人と接するときには、飲食店での接待は欠かせません。とりわけ『どのようなお店を選ぶか』が重要です。なぜならば、中国人は接待を受けた際に、接待する側が自分に対し、どのような評価をしているのかを一目で判断するからです。お店の格、高級店か中級店か、もしくは普通に行く店か、料理の値段や皿数、個室かどうか(個室の場合、自分の席をどこに設定しているか)などです。
これはビジネスだけでなく、友人同士や家族親戚の食事会でも同じです。ただ、中国は面子(メンツ)を重んじる国なので、ビジネスが関係すると、よりシビアになります。例えば、今後もこの相手と仕事を継続していいかどうかについても、接待時に判断するので恐ろしいです」
Q.接待時にやってはいけないことは。
青樹さん「とにかくケチってはダメです。ケチると、今後の人間関係やビジネスにも影響します。これは中国人同士の接待だけでなく、外国人が中国人を接待する際も同じです。よく私も日本人に、『中国から来たお客さんを接待するときは、その時、自分が手元不如意で次の日は即席ラーメンをすすることになろうとも、ケチってはいけない』と言います。
ケチると、人間関係や信頼関係が崩れてしまいます。相手には、『すごく無理してくれたんだな、ありがたいな』『自分のことを大切に思ってくれているんだな』と思わせなければ、接待の意味がありません」
Q.人間関係を維持するのが大変ですね。
青樹さん「食事の際の支払いの仕方で、人間関係が続くかどうか決まります。若い世代には必ずしも当てはまりませんが、中国人は基本的に割り勘をしません。数人で食事した際は、誰かがまとめて払い、他の人たちは自然に受け入れます。『ありがとう』とも言いません。ただ、その次に同じメンバーで食事に行くときは『次は俺が』となって誰かが支払います。
いつもおごられているばかりだと、自然にそのサークルからはずれてしまう。会計は人間関係の持続になり、結局は貸し借りゼロになります。
以前、ラジオ番組で『クールチャイナとは何か』という特集をしたことがあります。中国在住の日本人に、中国のどういうことがクールだと思うかを聞きました。すると、圧倒的多数の女性たちが『中国人男性は女性にお金を払わせない』。女性に支払わせることは、男性にとって面子がつぶれることだからです。
若い女性たちの中には、何日もお財布に触らないで過ごすことができる子もいるそうです。私は若くありませんが、女性の一人として男性たちにはよくごちそうになりました。帰国後に多くの男性が集まる席で食事をして、帰り際に『○○円ね』と言われたときは『ああ、日本に帰ってきたんだなあ』と(笑)」
料理は全部食べないのが正解
Q.中国では、接待時に食べきれない量の料理がテーブルに並べられると聞いたことがあります。なぜでしょうか。
青樹さん「料理が足りないと相手に失礼だからです。日本人は、出された料理は全部食べなければと思いますよね。中国では、出した料理をすべて食べきると、『足りなかったのだ』と判断されます。あらかじめ料理をたくさん並べるのはそのためです。
20年以上前ですが、こうした習慣は食品ロスが非常に多くなると中国政府が問題視しました。そこで、政府が飲食店でのテークアウトを推奨するようになり、現在は中国国内のほぼすべての飲食店で、残った料理を持ち帰ることができます。山のように料理を注文しても、余った場合は店がテークアウト用の容器に入れてくれます。例えば、火鍋店に行くと、肉や野菜類に至るまで、余ったものはすべて持ち帰ることができます。
日本のように安全性を追求した結果として食品ロスが増加することに比べたら、食べ残した料理をテークアウトできる中国の取り組みは、とてもよいと思います」
Q.青樹さんが中国の食文化で驚いたことは。
青樹さん「面白いコンセプトのレストランが多いことです。忘れられないのが『離婚レストラン』『文革レストラン』ですね。『離婚レストラン』は20年ほど前に登場しましたが、あまり長く続きませんでした。離婚する夫婦が最後の夕食会をするためのレストランです。メニューが工夫されていて、酸っぱい味や甘い味、苦い味や辛い味などさまざまな味付けの料理を用意していました。
つまり、『人生は楽あれば苦ありです、だから離婚も考え直しませんか』と提案し、『それでも駄目なら、今日は平和裏に食事して楽しく別れてくださいね』ということになります。
この店は有名な公園の湖のほとりにあったため、レストランに入店する際に目立ちすぎるのが欠点でした」
Q.「文革レストラン」とは。
青樹さん「文化大革命の時代の料理を再現するレストランです。あの時代は、都会人が教育の機会を奪われて、農村に追いやられました。農村で労働をしながら毛沢東思想を学ぶ革命でしたが、当時の農村で食べられていた貧しい料理が提供されます。約20年前に1回だけ連れられて行ったことがありますが、レストランとは思えないような貧しい造りの店でした。炒めた野草、トウモロコシのマントウ、中にはアリの炒めものもあって、私は無理でした(笑)
主な客は、自家用車を所有し、当時はまだ珍しかった携帯電話を持ったリッチなビジネスマンでした。今は豊かな生活を送っているけれども、貧しい時代の食事を食べながら、『昔を懐かしみつつ今の幸福をかみしめる』というものです。北京にもまだあります」
Q.発想が奇抜ですね。
青樹さん「ただ、この発想が中国人だと思いました。日本人はまず思いつきません。現在の中国で、短期間でもうけを出せるのは飲食業だといわれています。中国人は、お金もうけに頭を働かせる人たちなのでそうした姿勢がレストランに反映されていると思います。
そもそも、中国人は中華人民共和国建国以来、おなかいっぱい食べられることを目標に頑張ってきました。経済が発展し、おなかが満たされると、今度はよりおいしい料理を提供するレストラン、面白いレストランに興味が移ります。その結果、食にかけるお金が増え、中国国内では飲食代が高くなりました。彼らが日本に来て一番驚くのが、中国に比べ物価が安いことで、特にレストランの飲食代の安さに驚きます。
中国国内には他にも、清の時代の伝統的な様式の邸宅を模したレストラン、胡同(フートン)、つまり、路地の奥にあるレストランなど面白い店がたくさんあります。外国人が行っても楽しめると思いますよ」