大型スーパーの不振が叫ばれて久しい昨今ですが、そんな逆風を跳ね返しているのが、現在ローソン傘下のスーパー「成城石井」です。その高級感のある品揃えと、駅ビル・駅ナカにある便利さが評判の同店は、いかにして世田谷・成城学園前から全国へと展開していったのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、現地に直接足を運んで取材を重ね、その人気の秘密について詳しく紹介しています。

成城石井は「高級スーパーではない、高品質なスーパーです」

成城石井(本社・横浜市西区、原昭彦社長)は1927年創業の老舗食品スーパーながら、商品のSNSでの人気は流通業界トップクラス。おしゃれで、おいしくて、幸せになれる商品が揃った店というイメージが浸透して、常に話題を提供している。伝統があって、かつ新しいという稀有な企業文化を有している。

現在、同社はローソン傘下にあるが、ローソンの2019年2月期第3四半期決算によれば、営業総収入630億6,000万円(前年同期比6.0%増)、セグメント利益は48億5,000万円(同7.5%増)となっており、スーパー不振と言われる状況下、逆風を跳ね返し客足は好調だ。

今の消費者は価格に敏感、1円の値上げにも目を光らせているように見える。ところが成城石井の商品は、全般に決して安くはないにもかかわらず、買うに値する価値があると消費者に強く支持されている。店舗数は首都圏を中心に近畿、中部、仙台にも広がり、166店を数える。

成城店(創業店)外観

「弊社は世田谷区の成城学園前という、大学の先生や映画関係者、会社の経営者、経済人が集まる上質な住宅街で、果物などを売る食料品店として発祥しています。一昨年、90周年を祝いました。土地柄、目も舌も肥えた、ちょっとやそっとのことでは納得していだだけないお客様のニーズにお応えしてきたので、今日のような独特の品揃えにつながったのです」

と、成城石井の強さの背景を語るのは、成城石井執行役員コーポレートコミュニケーション室・五十嵐隆室長。

確かに、成城の土地柄を抜きにして、同社の高品質の品揃えはあり得なかっただろう。もう1つの理由としては、76年にスーパー化されて以来、小田急沿線の地場スーパーである小田急OXとの競合を回避しなければならなかった。そうした事情で鍛えられ、独自性のある商品を開拓して、成城石井なら間違いないと考える良質な太い顧客を獲得してきたのだ。

スーパーマーケット化した1976年当時の成城店

五十嵐氏によれば、「品質の確かなものをお求めやすい価格で販売しているので、高品質なスーパーです。よく間違えられますが、高級スーパーではないです」と断言する。

たとえば、ワインは直輸入を行っており、同じ銘柄が他のスーパーや酒屋より、安いケースもしばしばある。今後、日本とEUとの間で締結されたEPA(経済連携協定)によって、益々ヨーロッパからの輸入品を安く売ることが可能になる。成城石井に追い風が吹いている。

トレンドに先立って商品開発するのも得意である。

先般SNSで話題になった東南アジア、マレーシアのスイーツ「モーモーチャーチャー」は、成城石井でなければまず売っていない商品だ。2015年3月に発売して以来、月に3万個を売り上げるという、ヒットとなった。変った語感の商品名だが、「ごちゃ混ぜ」を意味するらしい。

モーモーチャーチャー

商品は2層になっており、ココナッツブラマンジェの上に、サツマイモの甘露煮、ヒヨコ豆、赤エンドウ豆のかのこ、羽二重餅が乗っており、混ぜ合わせて食べる。ヨーグルトのようななめらかなとろみがあり、ミルクのように甘くてしょっぱいユニークな食感がある。

成城石井「駅ナカスーパーの元祖」説、6割が「駅」にアリ

成城石井の店舗の立地の特徴として、顧客の動線を意識した店舗開発が挙げられる。

1997年に開店したアトレ恵比寿店(エキナカ)

駅ビル、駅ナカに多く、場合によっては改札口の中にまで店舗があり、買物に行く時間のない顧客にとって身近なスーパーになっている。駅ビル、駅ナカの比率は、なんと全体の6割を占めている。1997年から進出しており、“駅ナカスーパーの元祖”との説もある。

「路面店であっても、駅から歩いて5分以内につくるとか、街道沿いに設置して車の利便性が高いといったように、考えて出してきました。駅によって、お客様の特性も違いますのでフレキシブルに品揃えも変えます」(五十嵐氏)。

店ごとの商品のセレクトの仕方も独特なノウハウがあり、まずは同社のお勧めの品を並べてみる。そこで顧客の反応を見て、売れる、売れないを判断して即座に入れ替える。その街、その駅に適した商品を並べられる柔軟性と経験値を持っている。

文で書くと簡単なことのように思えてしまうが、なかなかできることではない。誰でもできるならそもそもスーパー不振など起こらないのだ。

ワインに絶対的な自信を持つ成城石井だが、近くに強力な酒屋がある場合には、あえてお酒を置かない店もある。ビルにダクトが引けるかどうかで、内製の惣菜を行うかどうかも選択ができる。店づくりに対して、こうでなければ出店しないというフォーマットを有しておらず、変幻自在、どこにでも出せる強みがある。各部門で専門店のレベルを目指しているため、お酒、惣菜、お菓子、グロサリーなど、どこで切り分けても高いパフォーマンスを示せると、五十嵐氏は胸を張る。

店舗の面積も、最小なら7.4坪から最大は200坪まで、さまざまな規模の店がある。

7.4坪のセレクト名古屋駅太閣口店は、キヨスクほどの大きさに2,600ものアイテムが品揃えされており、大型のスーパーでも3000〜4000アイテムがあれば平均的と言われるところからも、コンパクトで充実した内容となっている。

最大の店はグローサラントと呼ばれるレストラン併設型の店舗で、京王線調布駅ビルにあるトリエ京王調布店。

トリエ京王調布店。グローサラントを提案

2013年に「Le Bar a Vin 52」というワインバーを出店し、今は東京都と神奈川県に計6店あるが、成城石井の商品に触れてもらって、気に入ればスーパーで買ってもらうという提案を行っていた。

Le Bar a Vin 52(ワインバー)内観

トリエ京王調布店ではさらに進んで、レストランではお店で販売している食材によってメニューの9割を調達。ハンバーガーをレストランで売ったところ、他店ではほとんど売れないバンズが、トリエ調布店に限っては1ヶ月で600セット(1セット3食分)が出るヒット商品になる、相乗効果が表れている。実際に食べてみた人からの反響は絶大だ。

グローサラントのレストランで提供されているハンバーガー「フレッシュアボカドチーズバーガー」

高速道路のサービスエリアや、デパ地下にグロサリーストアとして出店してほしいという要請も多い。サービスエリアだと当然お酒は置けないが、最近は一般道からも買物で入れるようになっており、地域の顧客を集めることもできる。デパ地下では、生鮮の専門店が別途出ているので、特に地方で、販売不振の店から切り替わって入居するケースが増えた。

大きなバックヤードなんていらない。必要な分だけその日に届く仕組みづくり

このように変幻自在に出店できるのは、バックの物流、倉庫がしっかり構築されているからだ。

成城石井は直輸入を手掛けてきたため、商品を売り切る体質が染みついている。その体質を基盤に、商品を保管する物流センターから、コンビニのように商品を店舗に小分けして送る仕組みができているのだ。2012年に3ヶ所に分散していた物流センターを、神奈川県寒川町に集約して、より効果を発揮するようになった。

寒川の物流センター

通常のスーパーなら、段ボールのまま商品が店舗に送られるので、どうしても店舗の側で大きなバックヤードを持たなければならなくなる。そうなると、駅ナカのような家賃の高い条件では採算が合わず出店できないのである。要は在庫を収納するスペースに、家賃はかけられない。

通常のスーパーは商品がなくなれば奥の倉庫から品出しして並べるが、成城石井の場合はその日必要な分だけ店に届くので、それを並べていけばいいということになる。

成城石井の倉庫は4つの温度帯を持っており、常温、定温・定湿、チルド、冷凍と分けられる。特に重要なのは、他の流通ではあまり聞かない定温・定湿である。

フランスからワインを直輸入する場合、船で輸送していると、赤道を通る時にどうしても鉄のコンテナの室温が上がって熟成が進んで味が変わってしまう。熟成し過ぎないように、リーファーという特殊な温度管理された冷凍・冷蔵貨物用のコンテナを使うのだが、日本も最近は夏に高温かつ多湿になることが多く、現地の品質そのままで提供するには定温・定湿庫が必要なのである。定温・定湿庫では最適なエイジングまでを行う。

定温・定湿ワイン倉庫

ワインばかりでなく、チョコレート、バターの含有量の高いクッキーなどにも使う。

定温・定湿庫が他になかったので、日立物流に依頼してわざわざ造ってもらったとのことだ。せっかくリーファーを使って輸入しても、日本に着いてからの保管が疎かになっていては、意味がないと言わざるを得ない。

ワインに関しては、ホテル、レストラン、他のスーパーへの卸売も行っており、一緒に買い付けてスケールメリットが出ることによって、良いワインをリーズナブルに販売できる体制が整った。

惣菜・弁当の人気の高さは「セントラルキッチン」にあり

成城石井にもう1つ特徴的なのは、自社でセントラルキッチンを持っていることだ。全店舗の惣菜、弁当の大半はセントラルキッチンで製造している。

セントラルキッチン(東京都町田市)

一般的にスーパー、コンビニのPB(プライベートブランド)商品は、惣菜、弁当にしても多くは委託された外部のメーカーが製造しているのに対して、差別化がなされている。

通常のスーパーでは惣菜、弁当の販売比率は1割ほどと言われるが、成城石井は店によって異なるが2〜3割を占めていて期待値が高い。年齢層では30代と50代のニーズが高く、20代と40代はむしろスイーツのほうが人気だそうだ。

しかも、成城石井のセントラルキッチンは、レストランで働いていた調理人が製造に携わっており、惣菜開発にあたっている。だから、普通のスーパーと違って、レストランに負けない味が出せるのである。工場というよりも大きな厨房といった雰囲気で、一部機械も使っているが、手づくりを基本としている。

前出のモーモーチャーチャーも、ハンバーガー用バンズも、それぞれその分野のプロが開発し、セントラルキッチンでつくる商品である。

「プレミアムチーズケーキ」は年間100万本弱と成城石井で最も売れる商品だが、これも名店「マキシム・ド・パリ」で修業していたパティシエによる、渾身の作である。

プレミアムチーズケーキ製造風景

最近では、トリュフの香りがするトリュフチョコレートの人気が高い。

ポテトサラダに使うジャガイモは、皮ごと蒸して、人の手を使って皮を剥いている。機械を使わないので、皮のすぐ下にある旨味が凝縮された部分を商品化することができる。原料が同じでも、成城石井ならより品質の良い惣菜を提供できるのだ。

4つの醤と四川山椒、国産豚肉を使った、四川風ピリ辛麻婆豆腐も本格的な味だと評価が高い。

「本当にレストランの厨房が大きくなったような感じで、驚くほど手作業でつくっていますよ」と五十嵐氏は重ねて強調した。

メーカーに委託してつくってもらう場合にも、たとえばごまドレッシングの場合には、ごま、油、醤油など、各原料にもっとこだわってスペックを上げてもらう。多くのスーパーでは、出回っている既成の商品のラベルを張り替えて、OEMのような形でPB化しているケースも多いのに対して、成城石井の場合は「オリジナル商品」と呼んで区別している。

牛乳も、通常は130℃とかの高温で2秒の殺菌を行うが、成城石井のは65℃で30分の低温殺菌を行っている。そのため手間はかかるが、牛乳が焦げたにおいから来るいわゆる牛乳臭さがなく、とても飲みやすい。また、低温殺菌牛乳では値段もリーズナブルだ。

成城石井は、世界のおいしさそのものを食卓に届けることにこだわり、物流やセントラルキッチンの充実、駅ビルへの出店と、他のスーパーがやらないこと、できないことに挑戦して結果を出している。

さらに店舗数が伸びた時に、第2の物流センター、セントラルキッチンをどうするのかという問題はあるが、当面は安定した成長が見込めるだろう。

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