SHELLY

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古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第17回は山名宏和が担当します。

SHELLY

 今回、勝手に表彰させて頂くのはSHELLYさんである。

 SHELLYさんのレギュラー番組の中で、もっとも異色ともいえる番組、テレビ東京の経済番組『日経スペシャル 未来世紀ジパング〜沸騰現場の経済学〜』に僕も携わっている。

 現在は番組のメインMCを務めるSHELLYさんだが、スタート時はテレビ東京の男性アナウンサーと二人MC体制。番組の本筋である経済に関するまわしは男性アナが担当し、彼女はパネラーのトークをまわす、いわばバラエティー担当だった。

 そんな彼女の立場が一変したのは、男性アナが他の番組に移ったことがきっかけだった(よくよく考えると、これもかなりムチャな話。さすがテレビ東京!)

 この番組のMCは司会の腕に加えて知識もいる。というのも、スタジオで解説するのは「沸騰ナビゲーター」と名付けられた、おもに大学教授や新聞の解説委員である。彼らはテレビで喋ることが本業ではない。緊張で話がとっ散らかったり、飛んでしまったりすることもよくある。MCのサポートは欠かせない。そして適切なサポートをするためには、解説の内容を理解しておかなければいけない。

 そのため『ジパング』では、MC打ち合わせを別日に設けている。大きな特番ならばいざ知らず、レギュラー番組の場合、MC打ち合わせは普通、当日の収録前に行う。わざわざ別の日にやるというのは、それだけMCに頭に入れておいてほしいことがあるということである。

SHELLYは学習能力がスゴいんですよ」

海外取材中の危機にSHELLYは…

 プロデューサーがそう褒めていた。そして、その実例として、彼女がリポーターとして海外取材に行ったときの様子を話してくれた。

 ある国での取材中のことだ。いきなり警察だか軍人だかが来て、取材を止めるように言ってきた。一応許可をとってはあるのだが、国によってはしばしばこういう事態が起きる。

 下手な抵抗をするとこれまでに撮影したデータを没収される恐れもある。カメラマンはおとなしくカメラを下ろした。ただし、電源は切らず、カメラを回したままで。これは報道系の取材ではよくやる手だという。カメラを止めたふりをして、音声だけをとり続けるのだ。音声だけでも事態は伝わる。

 手慣れた記者なら、そのままリポートも続ける。とはいえ、普通にリポートをしていたらバレバレだ。だから、カメラマンや他のスタッフに話しているかのような自然な口ぶりで周囲の様子を伝える。日本語がわかる人が聞いたら多少は不自然な会話に聴こえるかもしれないが、ここは海外、相手には内容まではわからない。

 しかしそんな機転が利くのは、この手の取材経験のある記者や局アナぐらいだろう。バラエティー番組のロケしかやったことのないタレントなら、カメラを下ろしたところでリポートするのを止めてしまうはずだ。でも、SHELLYさんはリポートを続けたそうだ。記者と同じやり方で。

「たぶん、池上さんを見て、学んだんでしょうね」

 プロデューサーは、そう推測していた。

『ジパング』には池上彰さんも何度か出演し、そのリポートの様子が流れている。その中に同様の局面があったのだろう。誰からか教わるのではなく、彼女は番組を見て、自主学習したのだ。

 現在、テレビ業界に女性MCは数少ない。特に報道からバラエティーまで幅広いジャンルに対応できる人となると、さらに限られる。今後、女性MCとしてさらなる活躍をしてほしいとの期待をこめて、SHELLYさんには「未来の優秀メイン女性MC候補賞」を勝手に差し上げ、勝手に表彰します。

【プロフィール】
◎山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』『世界何だコレ!?ミステリー』といったバラエティー番組から、『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』といった経済番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく、放送作家として活動中。