東京の大学に通うあなたの娘は風俗で働いているかもしれない。真面目な女子大生が学費と生活費のためにピンサロ嬢になるまで

風俗嬢や売春的な行為をする女性の取材を続けてきた中村淳彦氏。この度その長年の取材をまとめた著書『貧困女子の世界』(宝島社)を上梓した。本記事では第二章「女子大生の貧困世界」の中から、女子大生が風俗で働いてしまうメカニズムを解き明かしたパートを一部抜粋、再構成してお届けする。

戦後の日本で戦争未亡人の売春が大流行したように、売春的な行為には貧しさが前提にある。社会が安定しているときに行われる売春は、過剰な消費や男に騙されたというような自己責任的な理由が増える。

逆に社会が不安定なときは、就業する女性や学生が生活のために従事する傾向がある。今の状況は圧倒的に後者である。今、風俗嬢に女子学生があまりに多い。仮にリアルなデータがとれれば衝撃的な結果となるはずだ。

男女関係なく、学生は親の協力や給付がなければ一勢に困窮状態となる。困窮する学生は空腹で飢えるわけでも、汚い服を着ているわけでも、スマホを持っていないわけでもない。その苦しさは可視化されない。

見えないので親の協力がある恵まれた学生や、大学関係者は身近な隣人の過酷な現実を理解できない。もうひとつ、風俗嬢は社会からの差別や偏見が強い職業なので閉鎖性が強いことも理由だ。誰もが人に隠しながら働いている。隠れて姿を見せない。

緊急事態宣言中の2021年2月、風俗関係者や現役学生、エンタメに強い担当編者などさまざまな協力の下で女子大生風俗嬢たちに会ってきた。今、日本でなにが起こっているのか?彼女たちの語りから見えてくるはずだ。

画像はイメージです

深刻な貧困状態にある女子大生

2020年3月9日の夕刻。永田町の議員会館。ある衆議院議員の先生に“大学生の貧困”の現状報告に行った。東京六大学在学中の現役女子大生を同道し現状をそのまま語ってもらった。筆者はエンタメ出身のライターで国会議員と接するような立場ではないが、この数年、日本の行きすぎた貧困化と階層化がきっかけとなって社会状況が変わっている。その変化からこのような状況になった。

我々エンタメ系のライターや編集者は貧困層や社会底辺の知見に関しては、長年の蓄積がある。これまで議員などに対しては、ブランディングが成功した社会活動家や大手新聞の記者など、“上流”同士で情報交換がなされてきた。だが、平成時代の壮絶な日本の貧困化で情報が追いつかなくなったのか、筆者は底辺の人々の実情や生活、動向に関して、この階層から聞かれることがここ数年で増えてきた。

現在、日本は勤労世代(20~64歳)の単身女性の3人に1人、シングルマザーの50%以上、子供の7人に1人が貧困状態にあるといわれている。なかでも深刻な状態に陥っているのが現役大学生だ。大学の制度変化や高齢者優遇の潮流、親世代の無理解などの事情が重なって、10年ほど前から一般女子学生が続々と風俗や売春へ、男子学生は犯罪に加担する仕事を余儀なくされている。もはや風俗や水商売の現場は、現役女子大生まみれだ。正直、異常なことになっている。

現役女子大生だらけのピンサロ

永田町の議員会館に一緒に行った三宅亜梨子さん(仮名・21歳)は、東京六大学文系学部の3年生。九州出身で大学近くのワンルームマンションに一人暮らし。大学で真面目に勉強しながら、夕方以降は中央線沿線にあるピンクサロンでアルバイトをする。ピンクサロンとは男性客を口淫によって〝抜く〟、古くからある店舗型性風俗の形態だ。報酬が安く不衛生なこともあって、性風俗のなかでは底辺的な存在といえる。

「ピンサロで働き始めたのは大学2年の夏休みからです。どう考えても大学生を続けるためには、もうそれしかないって判断でした。○○駅近くのピンサロで30分8000円の店、時給2000円。基本時給に指名料や歩合給がつきます。

コロナ前だったら1日2万円くらいは稼げて、今はその4割減くらい。仕事内容はお客1人につき30分で15分しゃべって15分でプレイとか。5分だけでパッと抜いちゃってバイバイとかもありますし、いろいろ。ウチの店は若い女の子売りで有名店みたいで、マジで若い女の子しかいないですね」

議員先生が知りたいのは、現役女子大生の過酷な状況だろう。筆者も三宅さんとは会ったばかりで、個人的な事情はわからない。議員や秘書の方がどんな質問でも投げることができる雰囲気をつくり、解説しながら、筆者はいつもどおり「どうして風俗嬢をしているのか?」をテーマに話を聞き進めた。

この日は緊急事態宣言発令の前、まだ都内の風俗店は何事もなく営業していた。

「店の女の子は女子大生だらけ。女子大生しかいないです。仕組みを最近知ったのですが、店はガールズバーのダミー求人で学生を集めるんです。応募の敷居を低くして、実際の対面の面接でピンサロに誘導する。私もきっかけはそれでした。

大学2年のときにお金に困って、ガールズバーの時給1500円の仕事に応募しました。普通のバイトよりは稼げるかなって。面接に行ってみたらガールズバーはキツいし、お金にならないって話をされて、アフターとか同伴、枕もあるって。大変っていう説明をされて、実は……みたいな」

不衛生で割に合わないピンサロは、若い風俗経験者からの応募はない。虚偽の広告など、かなり強引な手口でなにも知らない素人女性を集めている。具体的にはフロアレディなど、水商売のイメージが強い求人広告で応募のあった女性を面接でピンサロに誘導する。お金に困ってて、無知で若い、しかも素人という地方出身の現役女子大生は格好のターゲットとなっている。

ピンサロは東京の各地にあるが、中央線沿線は女子大生、巣鴨は東北出身の素人女性がターゲットなど、店や地域によって得意な属性がある。そうして風俗経験のない一般女性たちが続々とピンサロ嬢になる。ピンクサロンが素人女子だらけ、なのは本当なのだ。

彼女が勤めるピンサロはそれなりに有名店で、多摩地区にあるほぼすべての大学に在学する女子大生が在籍している。そして、そのほとんどが地方出身者で真面目に学生生活を送っているという。

「ガールズバーの面接で出てきた人には、『お客さんって枕目当てで来ている、そこをサービスにしちゃったほうが手っ取り早い』って理由でピンサロを勧められた。じゃあ、とりあえず体入(体験入店)だけ行ってみます、となって入店した感じです。それが去年の7月。それまでは普通に昼のバイトを転々として、2年の夏に限界がきちゃいました。もっと手っ取り早くお金が欲しいと思いました」

「上野公園のハトのほうがいいものを食べている」

三宅さんの収入と支出の内訳を簡単に見てみよう。多摩地区の住宅地にあるオートロックマンションは家賃6万5000円。光熱費2万円、携帯代8000円、食費4万円がかかる。固定費だけで13万円弱だ。これにサークル、交遊、洋服、書籍、交通費などを含めると、月の生活費は20万円近くになる。第二種奨学金、月12万円をフルで借りていて、学費を引いた残りを生活費にあてている。

これまでさまざまな時給で仕事をしてきたが、授業とサークル以外のすべての時間を効率よく使って働いても、せいぜい月8万円にしかならない。全然、お金が足りない。大学2年の夏休み、水商売しかないと面接に行って誘導されるままピンサロ嬢になってしまった。現役大学生の一般的な、かつ典型的なパターンだといえる。

「夜をすれば生きていけるんじゃないかって。大学1年、2年の前期は支払いに追われて、本当にギリギリでした。生活費を削って、食費も限界まで削って、家賃とか光熱費の支払いにあてた。ご飯も上野公園のハトのほうがいいものを食べている、みたいな。学費は奨学金で払っていて、親からの給付はほとんどないです。ゼロに近くて、そういう子は同級生にもたくさんいます。みんな経済的に追いつめられています」

父親は50代前半、地方自治体の公務員だ。地方では中流以上の家庭である。バブル世代の父親は、現在の若者たちの深刻な貧困を知らない。進学で上京するとき、「俺も学生時代は苦労した。お前を甘やかさない」と釘くぎを刺して東京に送りだした。甘やかさないとは学費は奨学金、生活費は自分でアルバイトをして稼げ、ということだった。

「父親は娘の学費を出すのは甘やかすって感覚ですね。どうしてもお金が足りないときは、仕方なくお金を出してくれるみたいな。お金はいつもないけど、ないことはいいにくいし、いえません。上京してすぐにスーツ屋さん、雑貨屋、歯科助手みたいなこともやったかな。どこも時給は1000円とか1100円とか。それなりに忙しく働いて月8万円くらい稼いで、いつもギリギリで、ご飯は納豆と味噌汁だけみたいな。家賃、携帯代、Wi-Fi代もかかって、電気代がすごく高い。求人を見てガールズバーがぱっと目につきました」

53歳の父親はバブル世代だ。当時の大学生は恵まれていた。文系大学生は遊び、サークル活動とバイトに明け暮れ、ほとんど勉強しなくても卒業できて大企業から内定が出た。貧困家庭出身で経済的に苦労する学生は「苦学生」と呼ばれ、社会は頑張る学生を応援して、バイトと勉強を両立する意識の高い若者として美談となっていた。

当時の昭和型苦学生は新聞奨学生に代表される肉体労働で、親も社会も学生を応援する空気があった。三宅さんの父親は高校を卒業して上京、中堅大学に進学した。学生時代はお金がなく、授業はさぼりがち、飲食店や引っ越し手伝いなどのバイトに明け暮れた。なんとか卒業して、学生時代の苦労を美談としてたまに娘に語っている。

現在は、学生が従事する労働集約型のサービス業は末端の非正規労働者を最低賃金で働かせている。そのようなシステムができてから、学生は生活に必要なお金が労働集約型の非正規労働では稼げない。大学で勉強したい学生ほど、必然的に高単価の付加価値の高い非正規労働に流れることになり、女子大生は風俗嬢まみれになってしまった。

恵まれた親世代は、現在の大学生を取り巻く環境の変化をなにも知らない。三宅さんの父親が「娘は甘やかさない」という自分の世代の価値観を家庭に持ち込んだことで、娘はピンサロ嬢になってしまった。

文/中村淳彦 写真/shutterstock

貧困女子の世界

中村淳彦

2023/6/6

880円

288ページ

ISBN:

978-4-299-04392-4

貧困「底なし沼」

会社員 女子大生 シングルマザー 風俗嬢……

「カラダを売れなくなったら死ぬしかない」

一度堕ちたら抜けられない

「貧困スパイラル」

「大学生なので風俗で働くのは仕方ないです」

「上野公園のハトのほうがいいものを食べている」

衝撃のドキュメント!

恋愛経験のない処女が風俗勤務し、女子大生がソープランドの個室でオンライン授業を受け、シングルマザーが「パパ活」で生活費を稼ぐ――止まらない国民の貧困化。最大の「被害者」は若者と女性だ。停滞する賃金、上がり続ける税金と学費。女子大生は風俗で働くことを半ば強制され、単身中年女性はカラダを売っても生活できない状況まで追い込まれた。「貧困女子」という言葉が一般化しておよそ10年。本書は彼女たちの告白に耳を傾け続けてきた著者による記録の集大成である。

停滞する賃金、止まらないインフレ、そして世代間格差――。働いても働いても貧困から脱出できない若年層の女性たち。彼女たちのリアルな現実は、主要メディアではほとんど報道されることはない。未成年売春、ホス狂い、風俗、虐待、奨学金……過酷な境遇にある女性たちの生き様を『東京貧困女子。』などの著書があるノンフィクションライター・中村淳彦氏が活写する。