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■オークションで購入するメリットとは?

いま、日本は空前のアート・ブームといえるだろう。昨年はルネサンス3大巨匠といわれるラファエロ、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチの展覧会が開かれ、中でも「ラファエロ」は一級の聖母子像が来日したこともあって、およそ3カ月の会期で50万人超を動員。ほかにも印象派や現代美術といった日本で人気が高い分野の展覧会には多くの観客が押し寄せ、入館1時間待ちといった盛況ぶりももはや珍しくなくなった。

そうしたバックグラウンドがあってか、ここ数年はアートを観賞するだけでなく、売買する日本人も増えつつあるという。世界で最も歴史のあるオークション会社の日本法人、サザビーズジャパン代表取締役社長の石坂泰章氏は次のように話す。

「一昔前でしたら日本人はこぞって印象派絵画を収集していましたが、最近は現代美術のコレクターも増えています。また時計や宝飾品の分野も元気がいい。一方の出品では、中国美術が多く見られます。中国はいま美術ブームですが、文化大革命などの影響により、中国本土には美術品がほとんど残っていません。日本、特に関西には上質な中国美術が多く残っていて、書画のオークションでは3分の1が日本からの出品ということもあります」

現在、個人がアートの売買を行うにはいくつかの方法がある。まずは作品販売を目的としたコマーシャル・ギャラリーを通じて売買する方法。ギャラリーごとに取り扱う作品に特徴があるので、自分の好みが分かっていれば話は早い。ただし、作品の買い取りまで行っているギャラリーはごくわずかだ。

次にアートフェアで購入する方法。アートフェアとは世界中のギャラリーが見本市会場に集まり作品を展示・販売するフェアのこと。個人で参加するには一般公開日に入場料を支払って入場するしかないが、ギャラリーと親しくなると招待状が送られてくることもある。フェアでは個人が作品を販売することはできず、ギャラリーを通す必要がある。そのほか、アーティスト個人から直接購入するのもひとつの手段だ。

世界的に認められた正当な価格でアートの売買を行いたいとなれば、オークションを利用するのがベストだろう。初期登録には身分証明書や銀行照会などの提出が必要だが意外にハードルは低い。しかしながら日本ではまだまだなじみが薄く、出品・落札方法をはじめスケジュールやお金のことなど不安を覚える部分もある。そこで前出の石坂氏に出品や入札の方法をはじめ、オークションのいろはを伺った。

■200万円の腕時計は出品できる?

「サザビーズでは絵画をはじめ時計、宝飾品、地図、書籍など70以上の分野の作品を扱っていますが、出品する場合も入札する場合も、東京オフィスのスタッフとよく相談することをお勧めします」

石坂氏の言葉通り、オークションはスタッフとの連携が必須だ。作品を出品したい場合は、オークション開催日のおよそ3カ月前からスタッフとの付き合いが始まる。まずは作品がオークションに出品できるものかどうかの査定が行われる。作品のカラー写真、作家名、作品名、証明書の写しなどを送ると、1〜2週間後には審査結果が送られてくる。原則として査定は無料だ。

では、いったいどの程度の作品なら出品できるのか。サザビーズでは作品が本物であることを前提に、「国際的に市場性のある作家の作品のみ」取り扱うとし、市場価格の目安は50〜200万円が下限だという。出品が決定すると作品をオークション開催地に送る必要があるため、その輸送費や手数料などを含めて出品の可否を決めている。

例えば、落札予想価格が100万円程度の現代美術を出品しても、輸送費などを差し引くと出品者にはほとんどお金が入らないのでお勧めできないが、同額の腕時計や宝飾品ならば輸送費が比較的安くすむので出品者にもメリットが出る。腕時計の場合、製造年やコンディションにもよるが、小売価格が300〜500万円程度のものであれば50万円以上での落札が予想されるため、出品が可能だという。

また宝飾品の場合は、ブランドバリューやデザインに要した費用を含まずに、純粋に宝石や貴石の価値のみが市場価格となる。おおよそ小売販売価格の3〜5割程度が市場価格の目安になるという。

そのほかの出品条件としては、生き物でないこと、紙幣通貨を用いた作品でないこと、ナチスなど独裁者の所蔵物・略奪品でないことなどがある。

■オークションにもマーケティングが必要!?

次にどこのオークションに出品するか、落札予想価格(エスティメート)をいくらに設定するかを決める。じつはこの作業が落札価格を左右する重要なプロセスだという。

「意外に思われるかもしれませんが、オークションにはマーケティングが欠かせません。サザビーズでは、ロンドン、ニューヨーク、香港、それからパリやジュネーブでもオークションを開催していますが、それぞれの地域で嗜好が異なるからです。時計を例に挙げると、ヨーロッパでは歴史的なものに価値を見出す人が多く、香港ではやや派手なものや新しいモデルの人気が高い。また、経済や社会の情勢によっても嗜好は多少変化します。いつ、どこに出品するかは、オークション結果を左右する重要なファクターなのです」

さらにエスティメートの設定も重要だ。エスティメートは各分野のスペシャリストと共に作品のコンディション、過去の落札価格などから決定する。出品者からすればなるべく高値で売却したいのは当然だが、エスティメートをいたずらに釣り上げると入札者が増えず、結果的に落札価格が上がりにくい。石坂氏いわく「実際に売れるだろう価格よりもやや低めに設定しておく」のがベストだという。参加者が集まりやすく、実際に入札がスタートすると白熱して価格が上がりやすいからだ。

また、出品者はエスティメートの下限以下の金額であれば、最低売却価格(リザーブ)を設定することができる。一般的に、オークションの入札はエスティメートの半額程度からスタートすることが多いが、リザーブを設定しておけばそれ以下の金額で落札されることはない。

例えばエスティメートが400〜700万円の場合、オークションは200〜250万円程度からスタートする。この時、リザーブを300万円に設定しておくと、落札金額が300万円に届かなかった場合は不落札となり、作品は出品者に返還される。逆に価格を問わずに売却したい場合は、最低売却価格を設けないノーリザーブとすることもできる。なお、エスティメートはカタログなどで公表されるが、リザーブは出品者とオークション会社以外に公表されることはない。

■まずはプレビューやデイセールから参加しよう

エスティメートやリザーブが決まったら、作品の現地への輸送、出品委託契約書の締結、その他の手続きを行い、あとはオークションの開催を待つことになる。オークションの開催地では、オークション当日の4日前くらいから下見会(プレビュー)が行われる。入札希望者はこのプレビューで実際に作品を下見し、修復状態などをチェックできる。出品者はプレビューでの作品への関心の度合いをもとに、エスティメートやリザーブを変更することも可能だ。

また、大規模なオークションになると、プレビューの前にハイライト作品を各国に巡回させ、コレクターらに披露するエキシビションが行われることもある。サザビーズの場合、日本に巡回するのは香港で開催されるオークションの作品が多い。高額品という条件付きだが、購入を真剣に検討している顧客には、作品を個別に運ぶこともあるという。

プレビューが終わるといよいよオークション当日を迎える。花形分野のオークションは2日間にわたって開催されることが多く、目玉となるのは初日の夜に開催されるイブニングセール。世界的な巨匠の作品や、億を超えるような高額品を中心に、だいたい60〜80点が出品される。イブニングセールに参加するにはいくつかの方法がある。オークション会場に出席して実際にパドルを挙げることができるのは、購入の意志があり預金残高をパスした人のみだが、そのほかにオークション会社の担当者を通じて電話やインターネット、ファックスで参加することも可能だ。

イブニングセールの翌日の日中には、比較的手ごろな価格の作品がそろうデイセールが行われる。1回に300〜400点ほどが出品され、中には数十万円程度の作品が出品されることもあるという。イブニングセールが完全指定席制であるのに対して、デイセールは基本的に一般人も自由に入場が可能。ただし、入札に使用するパドルを登録するには身分証明や預金証明が必要になる。

「プレビューやデイセールは基本的に誰でも無料で入場できるので、出張先などで訪れてみるのもいいと思います。特にプレビューでは世界的な名品を実際に見ることができるので、一流の美術館と同じように楽しめると思いますよ」と石坂氏も勧める。

■出品・落札にかかるお金の話

作品の査定からオークション当日までは2〜3カ月を要するが、オークション自体は作品1点につき1分半程度で終了する。どこか儚さを感じるが、その一瞬で多い時は100億円が動くというから面白い世界だ。

オークションが終了すると代金の支払い、作品の受け渡しが行われる。まず落札者は、オークションの1週間後をめどに、落札代金をオークション会社に支払う。支払いが完了すると、およそ4〜6週間後に作品が手元に届けられる。一方の出品者には、オークション後35日目以降に、入札者からの入金を前提に、落札代金から出品手数料、経費等を差し引いた金額がオークション会社から支払われる。

ここで気になるのがオークション会社の手数料や各種経費だろう。サザビーズの場合、まず出品手数料は、どこの都市で開催されるオークションであっても、原則として最高で落札価格の10%と決められている。ただし、落札金額が一定の金額に満たなかった場合はミニマムチャージが発生する。

そのほかに出品者が負担する経費には、保険料、運送料、そしてカタログ掲載料などがある。おおまかな金額としては、保険料は落札価格の1.5%、運送料は絵画1枚の場合で15〜50万円と現地通関料500〜1000ドルが必要になる。また、カタログ掲載料は、1ページで1100ドル程度が目安となる。加えて、パリやミラノのオークションに出品した場合は、現地の付加価値税も出品者の負担となる。

次に落札した場合の手数料だが、こちらは落札金額や開催地によって料率が異なる。ニューヨーク開催のオークションを例に挙げると、落札価格が10万USドル以下の場合は25%、10万1USドル以上200万USドル以下の場合は20%、200万1USドル以上の場合は12%となっている。

そのほかに、出品する場合と同様に、作品の保険料や運送料が発生する。また日本に作品を輸入する場合は、日本での作品通関時に、関税および輸入消費税(落札手数料を含む作品価格に対して約8%)を支払う必要がある。さらに、ロンドン開催のオークションの場合、落札後にサザビーズ指定の発送業者以外の業者により作品を発送すると、落札価格の20%程度の現地付加価値税が発生する。

上記の支払いと作品の受け渡しが完了すれば、オークション取引も終了となる。

■ オークションを楽しむための秘訣とは?

さて、オークションの一連の流れはご理解いただけたと思うが、これからコレクションを始めたいと思っている人、オークションで作品を購入したいと考えている人はどんな点を注意すればいいのだろうか。最後に石坂氏に伺った。

「まずは自分の好みを知ることから始めてみてください。美術館で作品を見たら、この作品は好き、逆にこれは嫌い、という見方をして、それを繰り返していけば自然と自分の好みが分かってくるはずです。

2つ目は、好きこそものの上手なれじゃないですけど、購入する際はその分野を少し研究してみてください。すごくいい作品だと思っても、調べてみたら前の時代のあの作家の真似だったり、ほかにもっといい作品があったりする。分からないことがあれば、サザビーズのスペシャリストを活用してみてください。

最後に、可能な限りトップの質のものを選ぶこと。有名なクロード・モネの『睡蓮』はいくつかありますし、多作で知られるアンディ・ウォーホルも出来不出来がある。多くの作品がある中で後世に残るのは本当にいいものです。そしてそういう作品であれば作品の価値が落ちることも少ない。安い買い物ではないかもしれませんが、長い目で見れば結果的に満足できる買い物になるはずです」

世界共通の価格で作品を購入できる安心感がある一方で、出品や落札にはある種のゲーム的な興奮があるオークションの世界。そこには芸術の奥深い世界が広がり、逸品を求めるコレクターたちのドラマが垣間見える。オークションは本物の価値を知る大人のためのエンターテインメントだ。

(取材・文/デュウ 写真協力/サザビーズジャパン)