リタイア後に住みやすい町、日本一決定戦【2】
定年後、どんな街に暮らすのが幸せか──。そこには医療、地域コミュニティ、交通利便性などが大きくかかわってくるものだ。東西の不動産のプロたちにお勧めの町を聞いてみた。
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※第1回はこちら(http://president.jp/articles/-/13005)
■都心部での狙い目は湾岸エリア
具体的なエリアの住みやすさは、「住環境」「遊び」「医療」「食」「快適さ」「安心」の6つのキーワードで判断するといいでしょう(図2参照)。現役世代なら、ほかに「職場」からの近さと、子どもの「学校」を考慮しますが、リタイア後の住む場所選びなら、この2つは重視しなくてもいい。
まず最初の「住環境」は、居住快適性の高い住宅を予算内で買える、または借りて住めるかどうかという視点で判断します。都心に近くて生活利便性の高いところは、物件の価格も高くなります。ただ、東京の都心部のマンションは、極端に古かったり耐震構造に問題がある物件でないかぎり、ある程度の価格で売却することが可能です。ある程度の資産価値が見込めるなら、最終的に一人になったときに自宅を売却してケア施設に入るという選択もできます。一方、地方圏の不動産は価値が落ちやすく、いざというときに売れない可能性があります。そうした市場性を考慮すると、都心部のマンションを買う選択肢は道理にかなっているといえます。
賃貸の場合はどうでしょうか。都心部は家賃が高いので、年金生活ではとても住めないとあきらめている人は多いかもしれません。ただ、都心部には公的な賃貸住宅のストックが豊富にあり、リーズナブルな家賃で借りることもできます。
とくに湾岸エリアは公的な賃貸住宅が多く狙い目です。また、自治体によっては高齢者への家賃補助を行っているところもあります。こうした制度をうまく活用すれば、年金生活者だからといって都心部を選択肢から外す必要はありません。
次のキーワード「遊び」は、余暇の時間を楽しく過ごせるかどうかという視点で判断します。リタイア後はたっぷり時間があるので、この視点は大切です。アクティブに動き回りたいなら交通利便性のチェックは欠かせないし、晴耕雨読で静かに暮らしたいなら、緑に囲まれた住環境を優先させてもいい。ここは趣味や嗜好によって判断が分かれるところです。
老後の住む場所選びでとくに重視したいのが、3つめの「医療」です。現役時代と違い、年齢を重ねれば体が弱ってきて、病院のお世話になる機会はどうしても増えてきます。また普段は元気でも、怪我して救急に担ぎ込まれたり、重篤な病気になって長期入院を余儀なくされたとき、近くに病院がないのは困ります。老後の安心という意味で、医療施設の充実度は欠かせない条件といえるでしょう。
医療充実度の目安になるのは、人口当たりの医師数です。医師数で見ると、病院が多い都心部だけでなく、大学病院のある栃木県壬生町(東日本3位)や山梨県中央市(同5位)なども上位に入ってきます(図3参照)。
ただ、最近は地域医療を支えていた基幹病院の経営が悪化し、廃業したり医師を雇えなくなるケースが相次いでいます。そうしたリスクを考えると、やはり複数の総合病院があるエリアのほうが安心できます。東京都でいうと、総合病院は千代田区(同1位)、文京区(同2位)、新宿区(同6位)、港区(同7位)といった都心部に集中していて、都下は少ない。医療という視点で見ても、やはり都心部のほうが住みやすいといえそうです。
■神奈川県藤沢市の人気が高まる理由
4つめの「食」では、食料品店や飲食店が生活圏に豊富にあるかどうかをチェックします。いずれ車の運転が難しくなることを考えると、徒歩圏内に食料品店があることは欠かせない条件です。また毎日夫婦だけの食事をつくるのは意外に面倒なので、リタイア後は外食の機会が増えます。このとき駅前はチェーン店ばかりで、いつも似たようなメニューというのは寂しい。商店街が発展していて、食の自由度があるエリアがおすすめです。
老後の生活に意外に大きな影響を与えるキーワードが「快適さ」です。
伝統的に地域コミュニティが成熟したエリア(図4参照)は、お祭りなどの行事が盛んだったり、NPOの見守りサービスがあったりして、老後も快適に暮らせる条件が整っています。ただ、こういった地域は外からやってきた人を寄せつけないところもあり、必ずしも住みやすいとはいえません。たとえば、関西圏で5位に入っている京都市はなかなかいい物件の情報が外に出てこないし、住めたとしても外からきた人が溶け込むことはそう簡単ではない。私個人の印象ですが、リタイアしてすぐ4〜5年暮らすのはよくても、外からきた人が骨をうずめる場所ではない気がします。
下町も一般的に地域コミュニティが発達していますが、そのコミュニティに溶け込めるかどうかは、社交性などの個人の性格が強く影響します。コミュニケーション力に自信がない人は、無理に地域コミュニティの発達したところを選ばなくてもいいのではないでしょうか。
最後の「安心」には2つの意味があります。まず「防災」という意味での安心です。地盤が緩かったり木造建築が密集している地域は防災上、高評価できません。またリタイア後は、「防犯」の観点も重要です。高齢者はひったくりなどの被害に遭いやすいため、治安のよさを重視したほうがいい。東京都では地域や犯罪種別ごとに犯罪発生率を公表しているので、参考にするといいでしょう。
以上の6つのキーワードをバランスよく満たしている町が、最大公約数的に住みやすい町といえます。もちろんすべての要素を均等に満たす必要はありません。自分の好みやライフスタイルに合わせて、特定のキーワードを重視してもいい。いずれにしても自分なりの方針を決めてから住む場所探しをしたほうが、後悔は少ないはずです。
これまでお話ししたことを踏まえて、私がリタイア後に住みやすいと考える町をいくつか推薦しましょう(図5参照)。
首都圏でまずおすすめしたいのは、東京都文京区です。前述した通り、文京区は総合病院が多く、医療の充実度では都内屈指。医療だけでなく教育施設が多いせいか、治安がよく、地域コミュニティも排他的な印象はありません。
新興住宅地なら神奈川県川崎市の武蔵小杉に注目しています。武蔵小杉は再開発によりタワーマンションが次々に建っています。町としての発展はこれからですが、それは同時に地域コミュニティも発展途上であることを示しています。すでに成熟した地域と違い、発展中なので気後れすることなく外から入っていける点は魅力です。
都心からやや離れて暮らしたいなら、神奈川県藤沢市も見逃せません。いま藤沢市は工場跡地を利用したスマートシティ構想を進めています。スマートシティ自体が住みやすさにつながりますが、それ以上に、こうした町ぐるみの仕掛けで人口が増える効果が大きい。人が流入してくれば店が増えて生活利便性が高まるし、行政の財政基盤が強化されて行政サービスの質もよくなります。もともと温暖で過ごしやすいこともあり、今後ますます人気が高まるでしょう。
関西圏でいうと、兵庫県芦屋市近辺は外せません。伝統的に関西は東京と違って職住近接ではなく、良好な住宅地が都心から離れています。その中でも芦屋市は医療機関や行政サービスが充実していて、昔から人気が高い。とくに山側はグレードが高いので、経済的に余裕のある人は選択肢に入れてもいいでしょう。
関西の新興住宅地として注目したいのは、奈良県生駒市を中心とした近鉄けいはんな線沿線です。生駒は大阪市内へのアクセスがよく、それでいて地価が比較的安いため、いま続々とファミリーが家を建てています。
意外なところでは、滋賀県の大津市も注目しています。大津は京都・大阪はもちろん、名古屋にも約1時間で行ける交通の便が魅力です。
いま紹介した町は、現役世代にとっても住みやすい町ばかり。リタイア後の暮らしを見据えていまから移り住むのも、悪くない選択かもしれません。
(東京カンテイ上席主任研究員 中山登志朗 構成=村上 敬)
