マンチェスター・ユナイテッドがプレミアリーグで優勝。スポーツニュースは、それをおめでたい話として伝えた。名門チームに移籍して、いきなりリーグ優勝を経験したのだから無理もない。

「よくやった」。

 香川に対する感想はこれが妥当になる。

 欧州の「メジャー国」の国内リーグで、優勝経験した日本人は、他にローマ時代の中田英のみ。香川は、その中田英より出場機会で若干上回った。日本人選手の出世頭であることは言うまでもない。

 だが、正直言えば、その割に感激は湧いてこない。少なくとも、サクセスストーリーを見せられた気はしない。出場機会が当初の予想より少なかったわけではない。合格ラインは十分にクリアしていたが、その評価の基準はあくまでもマンU内、プレミアリーグ内に限った話だ。世界的な話ではない。 

「世界で2番目に好きなクラブ」。バルサについてそうした言い方をする人は多い。2番目とは、日頃から応援している地元クラブの次に、という意味になるが、その言い方に基づけば、世界で3番目に来るのはマンUだろう。とりわけ日本における人気は絶大なものがある。しかし、いまのマンUは、少なくとも実力的には、世界で3番目とは言い難い。

 プレミアリーグは制したものの、世界性という視点に立つと、マンUのレベルは一頃より明らかに後退している。プレミアリーグのレベルもしかり。この2、3年の間に急降下した。 現在、準決勝が行われているチャンピオンズリーグを見れば一目瞭然。マンCとチェルシーはグループリーグで、アーセナルとマンUも、決勝トーナメント1回戦でそれぞれ敗れている。

 つい何年か前まで、チャンピオンズリーグは、プレミアの4強にバルサを加えた5チームの争いだった。プレミア勢はどのチームも優勝候補だった。プレミアこそが、欧州で最もレベルの高い国内リーグであり、マンUはその中心的な存在だった。

 昨季末ぐらいまでは、そのイメージは残っていた。マンUとプレミアは、欧州サッカー界をリードする存在としてイメージ化されていた。

 それが完全に崩壊してしまったのが現在の姿だ。マンUがチャンピオンズリーグの準決勝が行われる前に、早々と国内リーグで優勝を飾るということは、マンUが強さを証明したというより、国内リーグのレベルダウンを表したものと言い表すこともできる。その優勝にかつてのような重みを感じることはできない。それはとてもローカルな話題に見える。

 イングランドが、UEFAカントリーランキング(リーグランキング)の首位の座をスペインに明け渡したのは昨季末。それからおよそ1年経ったいま、2位の座をドイツに奪われることがほぼ決定的になっている。

 昨年の今頃、香川は、マンUは人気、実力両面でドルトムントを大きく上回る存在だと思っていたはずだ。実際、その移籍はステップアップに見えた。ところがいまの状況はさにあらず、だ。マンUのレベルがチャンピオンズリーグベスト4のレベルに達していないことは明白になっている。少なくとも現在マンUのレベルが、ドルトムントより上にあるようには見えない。両チームを、チャンピオンズリーグにおけるレアル・マドリー戦を通して比較してみると違いは一目瞭然になる。

 香川にとって、これはとても皮肉。まるで面白くない話だ。4つ星クラブから5つ星のクラブに移籍したと思っていたら、それと同時に、両者の星の数は入れ替わっていた。自分が去った途端、ドルトムントはレベルを上げた。チャンピオンズリーグ決勝進出を濃厚にしている。

 アジア人としてその決勝の舞台に立ったのはパク・チソンひとり。香川がマンU入りした理由には、そのことも絡んでいたと思う。第二のパク・チソン目指していたはずだ。
 
 動いてしまったばっかりに、香川はそのチャンスを逃すことになった。欧州の趨勢が読めていなかったということになる。

 香川を16億円といわれる移籍金(違約金)でマンUに売り、そのお金で、足りない戦力を整備したドルトムントは商売上手。したたかに見える。

 香川のマンUへの移籍は、はたして栄転だったのか。マンUが早々と優勝を決めたことで、たとえばプレミアリーグの放映権を持つNHKは、それを大変喜ばしい話として伝えているが、チャンピオンズリーグ的な欧州サイズでものを見れば、それがいかに視野の狭い滑稽な話であるかが浮き彫りになる。放映権を持つコンテンツだけをしきりに宣伝し、放映権のないチャンピオンズリーグは「チャ」の字も出さない。報道の姿勢として間違っているのではないかと僕は思う。