「新型軍国主義」の怪、加速する中国「認知戦」、対中抑止戦略は日本の孤立招く?

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中国外務省は15日、王毅外相が13日にモンゴルのバトツェツェグ外相とウランバートルで会談し「ファシズムや軍国主義を非難することで一致した」と発表した。日本を念頭に置いた発言とみられている。中国は昨年11月の台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁に反発を強め、今年1月に共産党機関紙、人民日報が日本を「新型軍国主義」と批判するキャンペーンを始めた。これに対し、小泉進次郎防衛相は5月、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で「平和国家の歩みは虚偽の主張によって揺らぐことはない」と反論。「核兵器と戦略爆撃機を大量に保有する国が、そのいずれも持たない日本を『新型軍国主義』と呼ぶのはおかしい」と述べた。

「新型軍国主義」の主張に戸惑う日本人は少なくないだろう。客観的な状況を見ても、現代日本を軍国主義やファシストと定義するのは困難に見える。三省堂の「コンサイス20世紀思想事典」によれば、軍国主義とは「権力が集中している一方で、反対意見を許さない政治体制」や「好戦的・英雄主義的・精神主義的な価値観を強調し、社会に浸透させようとする文化・教育」によって特徴づけられる。また、岩波書店の「哲学・思想事典」によれば、ファシズムとは「立憲主義と議会政治を否認して一党独裁体制の確立を志向」し「独裁者への個人崇拝」を求めるという。

こうした定義に基づけば、現代中国の方がよほどそれに近いと感じる人も多いはずだ。冒頭の王毅外相発言は、人民解放軍が市民に発砲した天安門事件37周年の直後だったことは象徴的だ。

習近平国家主席は8日、北朝鮮の平壌で開かれた金正恩朝鮮労働党総書記との夕食会で「軍国主義復活」への反対を表明。ロシアとも「日本軍国主義」に対する共同戦線を張り、対日キャンペーンにはミャンマーやパキスタンなど一部の国も同調している。一方、フィリピンのテオドロ国防相は5月、中国の「新型軍国主義」の主張について「不公平」であり「歴史の不適切な利用だ」と批判。シンガポールのウォン首相も昨年11月、「日本は東南アジアで最も信頼される大国だ。安全保障分野を含めて日本がこの地域でより大きな役割を果たすことを望んでいる」と発言、中国の主張に同調しない姿勢を明確にしている。

米ブルームバーグ通信は12日に配信した論評で「より多くの国々が強い日本を脅威ではなく、中国の行動や米国の信頼喪失への対抗軸とみなしている」と指摘。「中国は今後も過去の軍国主義の亡霊を呼び起こし続けるだろう。しかしアジアでは多くの国々が、そうした怪談をかなり前から信じなくなっている」と述べた。論評を書いたガロウド・リーディー(Gearoid Reidy)記者は自身のSNSで「新型軍国主義」を「中国の新たな攻撃的表現」とした上で「中国は日本の過去を言い募るが、アジア諸国が懸念しているのは現在の中国だ」と述べている。

「新型軍国主義」の主張を中国政府が展開している背景には何があるのか。中国のハイブリッド戦争に関する専門家のツェファン・リー(Sze-fung Lee)氏は、米シンクタンク「ジェームズタウン財団」サイトへの寄稿(5月29日付)で、新型軍国主義をはじめとする一連の対日批判を「認知戦(cognitive warfare)」の一環と説明する。ツェ氏によると、中国は高市政権に対して政治、経済、軍事各方面での圧力を強めているが、これまでのところ、日本の首相の「首を切り落とす」といった外交的威嚇や日本近海での軍事演習、レアアースの輸出規制などは大きな効果を上げていない。

一方、中国は日本の安全保障体制の「正常化」と憲法改正への環境整備を重大な挑戦と受け止めており、ツェ氏によれば「究極の目標」は「日本の安全保障の正常化に向けた政治的合意を粉砕すること」だという。ただ、実際の軍事行動などで日本の安全保障の正常化を阻止することは米国の介入を招くためできない。そのため中国は日本に対して「ハイブリッドな戦い」(軍事力に加え、サイバー攻撃、情報操作、経済的圧力、偽情報流布などを組み合わせた戦争の形態)を展開し、その「中核部分が認知戦」だとしている。「新型軍国主義」は認知戦における重要なスローガンといえるだろう。

認知戦には政治家への威嚇、世論操作も含まれる。中国は6月初め、台湾を訪問したニュージーランドの議員団の中国への入国を禁止する措置を取った。3月には日華議員懇談会(現・日本台湾友好議員連盟)の古屋圭司会長(自民党衆院議員)に対し、入国禁止や中国国内の資産凍結措置を科した。こうした措置は、個々の政治家に対し心理的圧力をかけ、委縮させる効果がある。国境を越えた抑圧(transnational repression)と位置付けられる。

また、世論操作においては、日本や米国の大手メディアが取り上げない社会問題を中国メディアが取材、少人数のデモをあたかも大規模な草の根運動のように報じたりする。ツェ氏によると、独立したニュースとしては日本の大手メディアが報じなかったある日本政府への抗議活動を、中国メディアの日本語版がセンセーショナルに取り上げ、それを日本国内のウェブメディアが日本人読者向けに転載するケースがあった。

各種世論調査によると、日本国内の対中感情は悪化したまま高止まりしている。このため、中国にとって目標達成のために効果的なのは、中国への同調者を増やすよりも「日本国内の対立や不満を増幅する」ことだという。ツェ氏は、中国側が「各種の制裁、法的圧力、サイバー攻撃、中傷キャンペーン」などを組み合わせた認知戦を展開し「日本のあらゆる分断を利用しようとするだろう」と予測する。

このような認知戦の影響を軽視できないのは、憲法改正など重大な問題の行方を左右しかねないためだ。例えば、5月初めの共同通信の世論調査結果によると、憲法9条改正の必要性は「ある」が50%で「ない」の48%と拮抗した。選挙などはちょっとした世論の風向きの変化により結果が変わりかねない。ツェ氏は、こうした認知戦に対し、日本政府のサイバー対策などがどれだけ対抗できるかは「未知数」としている。

一方、アジア諸国や米欧首脳の北京詣でが相次いでいるのも事実。韓国、インドネシア、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、モンゴルなどアジア諸国やフランス、ドイツ、英国など欧州の首脳は昨年末から今年5月にかけて訪中し、関係強化に動いている。

こうした変化の中で際立つのが、日中関係の冷え込みぶりだ。高市早苗首相の台湾有事「存立危機事態」発言以来、関係は悪化したままだ。習近平主席のロシアのプーチン大統領や金正恩・北朝鮮労働党総書記との会談でも、見え隠れしていたのは日本に対する厳しい姿勢だ。

高市政権の憲法9条改正方針、軍事費増大、武器輸出促進、安保法制のほか、対中抑止力強化一辺倒の戦略は、日本の“孤立”を招き、国益を損なう大きなリスクがある。

「独裁政治株式会社(Autocracy, Inc.)」の著者で、米歴史家のアン・アップルボーム(Anne Applebaum)氏は、民主主義諸国が主張する「政府の透明性」や「普遍的人権」「法の支配」などの言葉は「ロシアや中国のような権威主義国家にとって(体制変革につながるため)大変な脅威となってきた。彼らはこれにどうやってやりかえそうか、と長い間思案してきた」(2025年12月、米アマースト大での講演)と指摘する。日本政府が近年繰り返す「法の支配に基づく国際秩序」や「自由で開かれたインド太平洋」などの言葉は中国指導部にとって極めて耳障りだったに違いない。「新型軍国主義」はそれへの返答なのかもしれない。