by Vic Harkness

1986年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故の影響により、原子力発電所から半径30km以内は立ち入り禁止区域に指定されています。そんなチェルノブイリの立ち入り禁止区域が、ロシアのウクライナ侵攻によって一時ロシア軍に占領されたことで、区域内に生息する野生動物の行動が変化していたことが明らかになりました。

Changes in wildlife activity patterns in response to war in Ukraine | Science

https://www.science.org/doi/10.1126/science.aed1493

Wildlife inside Chernobyl exclusion zone acted differently during Russia's invasion, camera traps reveal | Live Science

https://www.livescience.com/animals/wildlife-inside-chernobyl-exclusion-zone-acted-differently-during-russias-invasion-camera-traps-reveal

チェルノブイリ原子力発電所事故によって周辺地域に大量の放射性物質が拡散したことを受け、ウクライナとベラルーシにまたがる立ち入り禁止区域が設定されました。立ち入り禁止区域の面積はウクライナ側だけでも2600km2に及び、広範囲にわたり人間の立ち入りが制限されたことで事実上の「自然保護区」となり、生態系の回復や動物の行動を研究する科学者にとって自然の実験室となっています。

放射能汚染で人影が消えたチェルノブイリ原発周辺は事実上の「自然保護区」になって野生のオオカミが繁殖している - GIGAZINE



ところが2022年2月に勃発したロシアのウクライナ侵攻により、ロシア軍が2022年2月24日から一時的にチェルノブイリの立ち入り禁止区域を占領しました。ロシア軍による占領は同年4月1日に終了しましたが、事実上の自然保護区だった地域に軍用車両の往来や部隊の移動、銃声、その他の戦時中の動乱が生じました。

ドイツ・フライブルク大学の博士課程学生だったスヴィトラーナ・クドレンコ氏らの研究チームは、ロシア軍による占領が立ち入り禁止区域の野生動物に与えた影響を調査するため、2020年〜2022年にかけて立ち入り禁止区域内で稼働していたカメラトラップのデータを分析しました。

通常、紛争地帯に研究者が立ち入ることは危険であるため、武力紛争が生態系に及ぼす影響を調査することは困難でした。しかし、今回はロシア軍の侵攻以前から野生動物を観察するためのカメラが仕掛けられており、ロシア軍の撤退後にウクライナ軍の支援を受けて立ち入ることができたそうで、継続的に稼働していた31のカメラトラップのデータを回収できたとのこと。

以下の画像で、緑色の枠で囲われた部分がウクライナ側のチェルノブイリの立ち入り禁止区域で、薄茶色の点が2021年に稼働していたカメラトラップ、黒い点がロシア軍の占領期を含む2022年に稼働していたカメラトラップの位置を示しています。



研究チームは2022年のロシア軍による占領期と、ウクライナ侵攻が始まる1年前に撮影された写真や映像を分析し、ロシア軍の侵攻および占領によって野生動物の行動がどのように変化したのかを調べました。

その結果、ノロジカ・アカシカ・ヘラジカ・アカギツネといった哺乳類の活動は、ロシア軍の占領期間中に低下していることが判明。活動量の低下は特に夜間が顕著だったとのことです。

以下のグラフは、アカシカ(Red deer)とアカギツネ(Red fox)の活動量を「pre-occupation(占領前、1月19日〜23日)」「occupation(占領中、2月24日〜3月31日)」「post-occupation(占領後、4月1日〜5月6日)」の期間で比較したもので、オレンジ色が日中にカメラで撮影された頻度を、紫色が夜間にカメラで撮影された頻度を示しています。「2021」のデータは「占領前」が2021年1月19〜23日、「占領中」が2021年2月24〜3月31日、「占領後」が2021年4月1日〜5月6日のデータとなっています。グラフを見ると、アカシカとアカギツネの活動量は2022年の占領前および占領後は前年と同等かそれ以上でしたが、占領中は特に夜間の活動量が減っていることがわかります。



今回の研究結果は、人間による紛争の影響が生態系全体に波及する可能性を示唆しています。クドレンコ氏は、「今回の侵略が野生生物にどのような影響を与えたかを分析する機会が、そもそも起こらなければよかったのにと思います。現在の国家間の紛争は、遠隔操作されることが多い多種多様な戦争行為のため、野生生物にとって非常に有害です」「私たちの研究は、特に保全上重要な地域において、武力紛争が野生生物や環境全般に与える影響に焦点を当てた研究および保全戦略を策定・実施する必要性を強調しています」と述べました。