「毒針で要人暗殺ねらった」韓国に潜入した北朝鮮工作員の現在
韓国で、北朝鮮による要人暗殺計画の実行役だった元工作員が再び法廷に立った。韓国紙・毎日新聞(電子版)によると、北朝鮮の偵察総局所属の南派工作員だった52歳の男が、出所後に保安観察法上の義務を繰り返し怠ったとして、韓国の裁判所から罰金100万ウォン(約10万円)の判決を受けた。
この男は、1997年に韓国へ亡命した元朝鮮労働党書記の黄長菀(ファン・ジャンヨプ)氏を暗殺するよう命じられ、2009年末に同僚工作員とともに脱北者を装って韓国に潜入した人物だった。
韓国当局の捜査によれば、2人は北朝鮮の人民武力部偵察総局に所属し、数年間にわたって特殊工作訓練を受けていた。韓国メディアは当時、「毒針」を含む暗殺技術の訓練を受けていたと報じており、黄氏の行動確認を経て暗殺を実行する計画だったとされる。2010年に国家情報院(NIS)の取り調べで正体が発覚し、国家保安法違反などで懲役10年の実刑判決が確定した。
黄氏は北朝鮮の主体思想を理論化した最高幹部の一人で、1997年に韓国へ亡命した。亡命後は北朝鮮の民主化や金正日体制の問題点を積極的に訴え、平壌にとって「最も危険な裏切り者」の一人とみなされていた。
この暗殺計画は未遂に終わったが、北朝鮮による「標的除去」が常に失敗してきたわけではない。
その代表例として知られるのが、故・李韓永(イ・ハニョン)氏の暗殺事件だ。李氏は金正日の内縁関係にあった成螵琳(ソン・ヘリム)氏の甥だった。1982年に韓国へ亡命した後、自らの体験をまとめた著書を出版し、金一族の私生活を赤裸々に暴いた。
(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇)
1997年2月、李氏は京畿道城南市の自宅近くで2人組の男に銃撃され、約10日後に死亡した。実行犯は逮捕されなかったが、韓国当局は北朝鮮工作員による犯行との見方を示した。海外メディアも、この事件を北朝鮮による代表的な暗殺事例の一つとして位置づけている。
北朝鮮による海外での標的排除は、その後も続いた。2017年には、マレーシアのクアラルンプール国際空港で金正恩総書記の異母兄、金正男氏が猛毒VXによって殺害された事件が世界を震撼させた。
今回の韓国での判決は、一見すると保安観察法違反という軽微な事案に見える。しかし、その被告はかつて「脱北者」を装って韓国社会に入り込み、毒針による要人暗殺を企図したとされる工作員だった。
北朝鮮の対南工作は、冷戦期の遺物ではない。標的となる人物が変わっても、「体制への脅威を国外で排除する」という発想そのものは、今なお完全には過去のものとなっていないことを、一連の事件は改めて示している。
