薄利多売なら5%でも大健闘…「本当に財務が強い会社」を見抜ける“決算書の一つの項目”
ビジネスの現場や投資の判断において、決算書から「企業の本当の強さ」を読み解くスキルはますます重要になっている。損益計算書(PL)に並ぶいくつもの「利益」の数字。これらは単なる業績の記録ではなく、その企業のビジネスモデルや経営体質を雄弁に物語っている。本記事では、西山茂氏の著書『会計クイズで学ぶ財務分析&ファイナンス 決算書の読み方を「資本コスト時代」にアップデートする』(日経BP)より、業界ごとに全く異なる営業利益率の適正水準を整理したうえで、企業の財務健全性を一発で見極める手法を解説する。
営業利益率は「10%以上」が良好な水準とされているが…
PLのコストや利益を「売上高に対する比率(%)」で見ていくことで、その企業、その業界のコスト構造や利益構造が見えてくる。
売上高に対する売上総利益の割合である売上高総利益率は、日本では比較的多くの業界で20〜30%程度のことが多い。例えば、自動車の完成車メーカーの一般的な総利益率は20%程度である。また、小売業の場合も20〜30%程度のことが多い。
[図表1]主な業種の利益や費用の水準 出典:『会計クイズで学ぶ財務分析&ファイナンス決算書の読み方を「資本コスト時代」にアップデートする』(日経BP)より抜粋
ただ、中には総利益率が70〜90%に達する業界もある。具体的には、新薬の開発をベースにする製薬企業、化粧品業界の企業、ソフトウエア業界の企業などである。実際に製薬業界や化粧品業界は総利益率が70〜80%程度となっていることが多い。ITやソフトウエアの業界は総利益率が80〜90%に達することもある。
このように、業界によって売上高総利益率には違いがある。
本業の収益力を測定する「売上高営業利益率」の重要性
売上高営業利益率は、まさに本業の収益力を表すものであり重要である。日本では、一般に売上高営業利益率が10%程度あると収益力が高い会社と評価されるようである。
ただ、業界によって営業利益率の水準には違いがあるので、同業の優良企業の営業利益率と比較をしながら評価をすることが望ましい。
例えば、スーパーマーケットやディスカウンターが順調に事業を行っている時の営業利益率は通常5%前後である。これから考えると、安値大量販売、あるいはどこでも作っている・売っているようなものを安く売るような事業の場合は、5%程度でも一定の評価をすることができる。
また売上高総利益率が低めの事業の場合は、販売管理費の比率が低く、一方で売上高総利益率が高い製薬業界や化粧品業界の場合は、研究開発費や広告宣伝費、あるいは販売促進費を多く使うために販売管理費が多くなる傾向がある。
例えば製薬業界の企業は一般に売上高の15〜25%を研究開発費に投入している。IT業界も一般に研究開発費率が高く、海外企業であるがグーグルを傘下に持つアルファベットやマイクロソフトなどは、売上高の10〜15%程度を使っている。
化粧品業界の企業は広告宣伝をはじめとして販売促進にコストをかけている。この結果、営業利益率は売上高総利益率ほど違いがない傾向がある。
また、B to Bの事業を行っている企業は、一般に特定の顧客企業に大量に販売することになるため、販売管理費の効率が高くなり、また広告宣伝費なども少なく済むため、B to Cの事業を行う企業に比較して、売上高に対する販売管理費の比率が低くなる傾向が強い。
営業利益率と経常利益率の違いからわかる、財務の強さ・弱さ
経常利益率は営業利益率に連動し、営業利益率とそれほど違わない場合が多い。これは、経常利益の段階で含まれてくる、主に財務に関係する営業外収益や営業外費用が、通常はあまり大きな金額とはならない場合が多いからである。
ただ、営業利益率に比較して経常利益率がかなり低くなっている場合は、一般に借入金や社債に関係する支払利息などの営業外費用が大きい可能性が高いので、借り入れなどが多く財務が弱い会社である可能性が高い。
一方で、営業利益率に比較して経常利益率が高くなっている場合は、預金の金利や株式の配当などが多い一方で借りた資金の金利などが少ない可能性が高く、預金などが多く、借り入れが少ない財務が強い企業である可能性が高い。
このように、営業利益率と経常利益率の違いから財務の強さ弱さをある程度確認することができる。
[図表2]損益計算書の注目ポイント 出典:『会計クイズで学ぶ財務分析&ファイナンス決算書の読み方を「資本コスト時代」にアップデートする』(日経BP)より抜粋
臨時・異常な損益をあぶり出す「税金等調整前当期純利益」
税金等調整前当期純利益は、臨時異常な出来事に関係する特別利益や特別損失をプラス、マイナスすることで計算される。一般的に、特別利益や特別損失はそれほど大きな金額とはならない場合が多いので、経常利益率と税金等調整前当期純利益率は連動し、それほど違いがない場合が多い。
ただ、違いがある場合には、どのような特別利益や特別損失が大きいのかを確認することが重要である。中でも特別損失が大きい場合は、その原因は確認したい。その原因が自然災害で、継続しているようであれば、場所の移転など根本的な対応も必要になる。
また、事業の見直しなどによる損失や、事業が不振であるために発生した減損損失などが原因である場合には、どの事業に関係するものか、その処理が終了しているのかも確認したい。
このように、特別損失が大きく、また継続している場合は、大きな課題があると考え、その内容や理由、また今後への影響などについて確認することが重要になる。
株主のリターンとROEに直結する最終利益「当期純利益」
法人税等を差し引いた当期純利益率は、株主の取り分である最終利益の率であり、最近重視されているROEのレベルにも深く関係する比率として重要である。
現在の日本の企業では、利益に対する税金の率は約30%である。ただ、企業や業界ごとに活用できる税金の優遇策が違ったり、海外で事業展開している企業は国ごとに税率が違うため、税金等調整前当期純利益に対する法人税等の比率は企業ごとに若干違っている。ただ通常は、30〜40%程度となっていることが多い。
PLから経営状況や課題を把握する際の「着眼点」
PLの売上高から営業利益までの状況を見ることで、事業の状況や動き、また課題が見えてくる。
まず、売上高、あるいは営業収益の大きさ、またその伸びは重要なポイントである。売上高の大きさは規模の大きさという意味で強みの1つになる可能性があり、また業界内のシェアにも関係する。
また、企業が成長しているかどうかは、売上高成長率をもとに見ていく場合が多い。同業他社とも比較しながら、特に売上高成長率が他社を下回っている場合には、その理由を確認し、適切な対応をしていくことが重要になる。
次に、利益率やコスト構造は、同じ業界のビジネスモデルが類似している企業同士であれば、通常は似ていることが多い。したがって、類似している優良企業と比較することで、どこに課題があるのか、どこに特徴があるのかといった面でのヒントを得ることができる。
まず、売上高総利益率が低い場合は、価格の設定が低すぎるか、あるいは原価が高すぎるかのどちらかの可能性がある。また、全体としての利益率を高め、販売管理費を「余裕を持って使える」ようにするためには、売上高総利益率を業界のトップクラスのレベルに高めることが重要である。そのためには、価格を適切なレベルに設定して維持し、商品や原材料の購入価格の引き下げや生産効率の向上によって売上原価をコントロールすることが重要になる。
高付加価値な業界ほど「コスト・在庫管理」が甘くなりやすい
また、売上高総利益率の違いは、販売管理費用の管理の厳しさや、棚卸資産の管理の厳しさのレベルにも関係してくる。
例えば、自動車業界のように売上高総利益率が低めの企業の場合は、最終的に一定の利益を確保するために、原価や販売管理費に関するコストの抑制が大きなテーマになる。
また、棚卸資産についても、売上高総利益率が低い企業、つまり原価率が高い企業の場合は、少しの棚卸資産を保有しただけでも大きな金額になる。そのため、棚卸資産を削減することの重要性がより高くなる。
一方で、製薬業界や化粧品業界といった売上高総利益率が高い企業の場合は、販売管理費をそれなりに使っても利益は出るので、研究開発費や広告宣伝費、販売促進費の効果が期待できるのであれば、ある程度使うことも選択肢になる。また、顧客のニーズにタイムリーにきめ細かく対応するために、いろいろな種類の棚卸資産をやや多めに保有することを検討する余地が出てくる。
ただ、一般に、売上高総利益率が高い業界では、売上原価や販売管理費といったコストの管理や棚卸資産の管理が甘くなる傾向もあるといわれている。したがって、このような業界でも一定の営業利益率を確保するための適度なコスト管理や一定の資産効率を確保するための適度な棚卸資産管理は重要になる。
総利益率は確保できているのに「営業利益率」が低い場合
売上高総利益率はある程度確保しているにもかかわらず営業利益率が低い場合は、販売管理費が多く、その使い方に問題がある可能性がある。
販売管理費の中には、研究開発費や販売促進費、また広告宣伝費のように、一定の金額でより多くの成果を生み出そうとする「効果」を重視するコストと、物流費などのように、一定のことをより少ない金額で行おうとする「効率」を重視するコストがある。
それぞれに区分した上で、十分に効果が出ているか、効率よく使われているかを確認し、必要に応じて対策を打つことが必要になる。
なお、販売管理費の内訳がわかる場合は、その違いから企業の特徴や方針が見えてくることもある。中でも、研究開発費と広告宣伝費は、海外の企業も含めその金額を公表している場合が多い。
研究開発費は製造業やIT業界などの企業にとって、また広告宣伝費はB to Cの企業にとって、いずれも将来へ向けた攻めのコストとして重要な費用である。それらの金額の大きさや売上高に対する比率を、競合企業と比較してみることも意味がある。
ちなみに、研究開発費の売上高に対する比率は、大手メーカーの平均は4〜5%程度であり、最も高い製薬業界は15〜25%程度、総合電機やIT業界の企業は5〜15%程度、自動車業界は3〜6%程度、食品業界は1〜3%程度となっていることが多い。
また広告宣伝費の売上高に対する比率は、B to Cの企業の場合、4〜5%程度となっていることが多い。
目指すべき理想は、営業利益を中心とした「大きなPL」
まず、売上高あるいは営業収益は、その大きさが企業として目標とする水準を確保し、さらに成長していることが望ましい。ただ、売上高規模や成長率は、市場全体や競合企業との比較が重要なので、市場全体や競合と比較して一定の規模が確保できており、成長率が遜色なく、また上回っていることが望ましい。
売上高総利益率、売上高営業利益率は、業界やビジネスモデルによって違ってくる。したがって、同業かつ類似したビジネスモデルを採用している企業の中で、収益力の高い企業と比較して遜色ない水準にあることが望ましい。
営業外損益は、バランスが取れていることが望ましい。なお営業外収益は、受取利息や受取配当金といった財務での収益を必要以上に高めると「財務的に余裕がありすぎる」状況になり、それが結果として本業をおろそかにすることにつながる可能性もある。したがって、財務的な収益は適度な水準になっていることが望ましい。
一方で営業外費用は、支払利息などが中心となるケースが多いが、安全性を考えて借入金を少なめにしたほうがよいという考え方と、株主の立場から考えて、金利による節税を考えると安い資金である借入金を適度に使うという考え方のバランスを考えながら、やはり適度な水準を維持していくことが望ましい。
特別損益については、基本的には少ないほうが望ましい。なお、特別利益は大きければ当期純利益が大きくなるので望ましいという考え方もあるが、あくまでも一時的な利益であり、基本的にはあまり期待しないことが望ましいと考えられる。一方で臨時異常な損失である特別損失は、当然ながらできるだけ発生しないことが望ましい。
法人税等については、税金のルールに従って適切に負担していることが望ましい。具体的には、実際の負担税率である実効税率が、法律で決められた税率である法定税率と比較して大きく違いがないようであれば問題ないと考えられる。
当期純利益は、当期純利益率が同業の優良企業と比較して遜色ないこと、またROEといった指標の目標水準から考えて十分な水準となっていることが望ましい。
[図表3]望ましいPLのパターン 出典:『会計クイズで学ぶ財務分析&ファイナンス決算書の読み方を「資本コスト時代」にアップデートする』(日経BP)より抜粋
西山 茂
早稲田大学大学院 経営管理研究科(ビジネススクール) 教授
公認会計士
