『東京ラブストーリー』でも『ひとつ屋根の下』でもない…元フジの演出家が「ロンバケ」を「最高の月9」とする「納得の理由」

写真拡大 (全4枚)

連載前回記事はこちら【演出家が明かす、モンスターヒットドラマ『ひとつ屋根の下』主題歌に『サボテンの花』が選ばれた経緯】

「最高の月9」と言える理由

「あの第1話の、瀬名がスーパーボールをキャッチする場面ではCGは一切使っておらず、ワンカットで撮影しています。スタッフが事前にボールを50個くらい「瀬名マン」に持ち込んで、実際に3階の窓から落として跳ね返ったボールを捕れるか、僕自身が試したんですよ。一回も成功しませんでしたが(苦笑)。

ただし、3階の高さまで跳ね返ってくることは分かった。なので、あとは撮影当日、木村拓哉がキャッチできることに賭けたんです」

月9ドラマ『ロングバケーション』('96年)で演出をつとめた永山耕三氏は、そう述懐する。

当時23歳の木村拓哉が、若きピアニスト・瀬名秀俊役で連続ドラマ初主演を果たした通称「ロンバケ」。平均視聴率は約30%、最終回の視聴率は36・7%、瞬間最高視聴率は43・8%を記録した、まさにテレビ史に残るヒットドラマだ。

『東京ラブストーリー』('91年)や『ひとつ屋根の下』('93年)を次々とヒットさせてきた永山氏だが、「ロンバケ」こそ「最高の月9」だと自ら認定している。

「キャスト、脚本、音楽、そしてロケーション、そのすべてが最高のものでした。それらの関係性とバランスが、あれほど整ったドラマは後にも先にもありません」

ドラマづくりにおける「再現性」

本連載はドラマ黄金時代の制作秘話を明かしてきたが、「国民的ドラマはどう生まれたか」をつぶさに書くことで、低迷する日本ドラマが再び盛り上がるヒントになってほしい―という狙いもある。つまり、ドラマづくりにおける「再現性」を解き明かすことも目的のひとつなのだが、この「最高の月9」においては偶然の産物といえる面が多い。

永山氏が言う。

「『ロンバケ』がなぜ生まれたか……。きっかけは会社の人事異動なんです。僕のパートナーが、大多から亀ちゃんに替わったことで生まれたのが、このドラマでした」

それまで『東京ラブストーリー』『ひとつ屋根の下』などのヒットを飛ばしていた永山・大多のタッグだったが、福山雅治主演の『いつかまた逢える』('95年7月〜9月)を最後に、プロデューサーの大多亮がドラマ制作部から編成部へ異動。副部長に就く昇格人事だった。

替わって永山氏と組むことになったのが、亀山千広だった。年次は永山氏の一つ上だが、永山氏は「亀ちゃん」と呼ぶ。のちに'13年、フジテレビ社長に就任するプロデューサーである。永山氏に、亀山はこう切り出したという。

「とにかくベタベタなラブストーリーで王道のドラマを作りたい、と。そこで木村拓哉主演、北川悦吏子脚本という組み合わせが決まったんです」

北川悦吏子は、恋愛を会話劇で美しく見せる脚本家で、トレンディドラマの名手だ。『素顔のままで』('92年)や『愛していると言ってくれ』('95年、TBS)を手がけ、'93年の『あすなろ白書』では、若き木村拓哉が大ブレイクするきっかけをつくっている。

「ミスチルの桜井くんのイメージで」

'95年晩秋。北川から「こういう話を思いついたの」と、永山氏に連絡が入る。

売れないモデルと、売れないストリートミュージシャンの話。結婚式当日に花婿に逃げられたモデルが、ストリートミュージシャンと出会って同居をはじめる―。

「主人公は『ミスチルの桜井くんみたいなイメージ』と言われましたね」(永山氏)

当時人気絶頂だったバンド、Mr.Childrenのボーカル・桜井和寿のような男性を想定していた北川に、永山氏は異論をぶつけた。

「ストリートミュージシャンが主役ということは、劇中で歌を作って、それを歌わないといけない。現実的に『曲』と『歌い手』と『芝居』の3つすべてで合格点を出すのは、難易度が高い。だから、北川さんに主役の役柄は変えてほしいと伝えました。

クラシックのピアニストはどうですか? と、演出家の感覚で提案したところ、北川さんも乗ってきた」

こうして「ひょんなことから同居することになった性格の合わない男女が、最後に恋に落ちる話」を、イケメンだが繊細なピアニストと、あけすけな売れないモデルで描くことが決まった。

「北川さんが提案してきたタイトルが『ロングバケーション』。ドラマのタイトルって、脚本家といつも揉めるんですけど(笑)。これも議論になりましたね。正直、スタイリッシュすぎるし、説明不足でどんな話かわからないなと思ったんです。

なので、ドラマの早い段階で『長いお休み』の意味を説明することを条件にタイトルが決まりました」(永山氏)

実際に第2話で瀬名が「うまくいかない時期も、人生に必要な「長いお休み」なんだ」という会話をしている。

【後編を読む】最高の月9「ロングバケーション」で木村拓哉の恋人役が「山口智子」になった「フジテレビの裏事情」

「週刊現代」2026年5月25日号より

永山耕三(ながやま・こうぞう)/'56年、東京都生まれ。大学卒業後フジテレビに入社。NY勤務を経て、『東京ラブストーリー』『ロングバケーション』『ラブジェネレーション』など数々のドラマを手掛ける。映画『東京フレンズ The Movie』『バックダンサーズ!』(ともに'06年)では監督を務めた

【つづきを読む】最高の月9「ロングバケーション」で木村拓哉の恋人役が「山口智子」になった「フジテレビの裏事情」