難癖をつけて成績を改変…恐るべき「クレーマー生徒」が「五色百人一首」に熱中して奇跡の変容を遂げるまで
荒れた中学生を良い方向に変容させるのは難しい。その子が「障がい」を抱えていたらなおさらである。しかし、公立中学校で国語教師として勤務する長谷川博之氏は、「集団生活をものともしない」厄介な生徒を、見事「100点」をとるまでに成長させた。そのカギとなったのが「五色百人一首」であった。果たして彼はこの“古風な”教材をどう用いて生徒にはたらきかけたのか。プロの仕事の凄味がわかる特別記事をお贈りする。
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百人一首で生徒の新たな一面を引っ張り出す
数年前、担当した学年に、弱視で知的な遅れをもつ生徒がいた。
入学時から、行動が荒れており、集団生活をものともしない態度であった。障がいがあることを理由に、面倒なことから逃げる、学習をさぼる、注意されれば反抗するという悪い習慣を身につけてしまっていた。小学生高学年の時には、担任が成績「1」をつけると、執拗に文句を言い、もっと悪いことをするぞと詰め寄り、「2」に変えさせたこともあったという。
入学後、何人もの職員が彼にきちんと学習させようとした。しかし、目的が果たされることはなかった。1年経ち2年経ち、中学生活最後の1年が始まっても、面倒なことはやらない、その日の気分によって授業にも取り組まないという状態が続いていた。
そんな彼が唯一熱中した教材。それが、五色百人一首だった。彼が最後の最後に書いた作文を紹介しよう。
長谷川先生の授業はとてもつかれる。理由は、どんどん問題が出てきて、休んでいるひまがないからだ。でも、とてもためになる。俺は小学生の時より、国語が好きになった。
百人一首なんか、むずかしい。覚えるのが苦手な俺にはとてもむずかしかった。
でも勝てるとテレビゲームよりも喜びがある。頭のいい人に勝てると二倍うれしかった。
(以下略)
最初から彼が百人一首に熱中したわけではない。1回戦で負けて、すねて、やる気をなくし、投げやりな態度を取ることが何十回もあった。札には見向きもしないでそっぽを向いている日もあった。
もちろん、家で覚えてくることもなかった。何度か下敷き(歌が印刷されている)を貸してみても、反応は鈍かった。
予防の一手を打ち続ける
彼が熱中して取り組むようになったのは、私自身がセミナーで向山洋一氏の読み方を学び、意識するようになってからだった。たとえば、苦手な子の手元にある札を見取って、それを読んでやるというものだ。
また、彼が勝負の合間にある札の裏を見たら、次の瞬間にその札を読んでやることもした。
あるいは、前の年の子どもが考えた「うかりける」と「はげしかれとは」で「うっかりはげ」、「ももしきや」「なほあまりある」で「ももひきなお」(奈央という名の女子がいた)など、覚えるコツを教えたりもした。とにかく彼を巻き込もう、熱中させようと策を考え、実行し続けた。
事実、彼は国語の授業でしか見せない姿を見せるようになった。周りが驚いていた。それを可能にしたのが五色百人一首だったのである。
「スキルも『全部百点』をめざしがんばれた」
前述の作文にはこうも書かれている。彼の変容は、百人一首から始まったのだった。
「なんでてめえなんかに負けるんだよ! くそやろう!」
今年担当している子どもたちの中に、負けるとこう口にする女子がいる。小学校時代から失敗体験ばかり積んできてセルフエスティーム(自尊感情)が下がっている。そのうえまた「失敗」をする。
自分を責めるのはもう疲れた。だから、目の前の攻撃し易い他人を攻撃するのである。
叱責を意図的に減らすのが大事
「やりたくねえ!」「めんどくせえ!」「くそやろう!」このような言葉に教師が激昂して、激しく追及する。そのような場面がある。だが、これは逆効果だ。なぜなら、追い詰められた子どものセルフエスティームは、さらに下がるからだ。
私は、その子たちはその言葉を「何者かに言わされているのだ」と考えるようにしている。よって、腹を立てることもない。腹を立てるより、そういった不適応行動を減らすために何をしようかと考えた方が得である。
そして、初期の段階では、「そのように思うのは自由だ。それでも、口にしてはいけないよな」と教える。
それでも言ってしまうのが子どもだ。その子を見ていて、暴言を吐きそうになった瞬間に、
「A子さん、さっきより一枚多く取れたね! 進歩しているよ!」
と笑顔で明るく声をかければいい。興味の転導性を逆手に取るのだ。
たとえばこのように、叱責せざるを得ない場面を意図的に減らしていく。予め防止の一手を打っておく。こうすることで、子どもたちのセルフエスティーム(自尊感情)を下げることなく、逆に褒めて育てていくことができるのである。
もっと言うならば、日常的に叱責や注意が必要な場面を減らしていくからこそ、ここぞという時の指導が「効く」のである。
*初出『教育トークライン』2011年4月号。数カ所に最低限の加筆修正を行った。
【後編を読む】「やる気なし」の中学生が身を乗り出して熱中! ADHD傾向がある生徒A君を「五色百人一首」の虜にした教師のスゴ技
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