「ホーホケキョ」でおなじみのウグイス、ハワイではなんと鳴く?東北地方では方言が出ることも…
春夏秋冬、季節が変わるなかで、生きものたちはそれぞれの体の仕組みを活かして生活をしているそうです。そこで今回は、ベストセラー『ゾウの時間 ネズミの時間』の著者であり、「歌う生物学者」としても知られる本川達雄さんの著書『すごい生きもの春夏秋冬』より一部を抜粋して、誰かに話したくなる生物学の知識をお届けします。
【書影】生き残り戦略は千差万別!誰かに話したくなる生物学エッセイ。本川達雄『すごい生きもの春夏秋冬』
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ウグイスは春告鳥
七十二候(しちじゅうにこう)の立春の節気の第一候が「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」、第二候が「黄鶯けんかん(うぐいすなく)」。「けんかん(「けん」は目へんに見、「かん」は目へんに完)」は鳴き声が良いという意味。旧暦の2月中旬がこの候だから、新暦なら春3月に当たる。七十二候とは中国由来の季節を表すやり方で1年を二十四節気に分け、それをさらに三つに分けて、計72の期間(候)にする。
我が家は多摩の丘陵地にあり、向かいはかなり広い竹藪です。そこでウグイスがさかんに鳴く。ウグイスは竹藪に好んで巣をかけるんですね。ウグイスは春告鳥とも言います。
うぐひすの谷よりいづる声なくは春くることを誰か知らまし 大江千里
ホーホケキョはウグイスのさえずり、歌ですね。うたっているのは雄です。ホーホケキョは「どうか僕のところに来てちょうだい」という雌に対するラブコール。それに加えて「ここは俺の縄張りだから、他の雄は来るな!」という宣言でもあります。さえずる時、ウグイスは縄張りの中央にある高い木や突き出た岩の上にとまり、特別な姿勢をとります。腰を落として胸を張る。そして高らかにさえずる。さえずるのは繁殖期間だけです。
ウグイスは春夏と山に住んで子育てをし、寒くなると低地や暖かい地方に移ります。そしてまた春になると山に戻ってくるのですが、雄は、雌よりも数日早く戻ってきて、自分の縄張りを設定します。縄張りに適した場所は限られていますから、当然、雄同士の間で喧嘩がおきます。喧嘩と言っても儀式化されたものです。翼を広げ、毛を逆立てて威嚇したり、立ち上がって蹴り合ったりします。そうするうちに、どちらかが気合い負けして引き下がる。勝った方が縄張りを獲得します。ウグイスは、地面に笹が生えている林が好きで、雄はそこに直径200メートルほどの縄張りを持ちます。そして少し遅れて山へと戻ってきた雌を迎え入れます。
ほとんどの小鳥は一夫一婦制ですが、ウグイスは一夫多妻。亭主関白なんですね。巣作りから子育てまですべてを雌まかせにして、繁殖期が終わる9月の末まで雄はさえずり続け、さらなる雌を得ようとします。
雌の方は大変です。一人で巣を作り、完成したら交尾し、1日1個ずつ、全部で5個の卵を産みます。約2週間、雌一人で卵を抱き続け、ヒナがかえったら、また約2週間、巣立ちするまで雌一人で餌を取ってきてヒナに与え、引き続きさらに3週間ほど、雌はヒナに餌を与え面倒をみ続けます。そこまで約2ヶ月、雌だけで子育てをする。それが済むと雌は二度目の繁殖を行います。
ウグイスの巣はヘビなどに襲われる危険がきわめて高く、ある調査では7割の巣がやられたそうです。そうなったら、そんな危険な場所はダメだというので、雌は別の雄の縄張りに移っていき、そちらでカップルになります。安全な縄張りを確保できない雄などさっさと見捨ててしまうんですね。
鳥の雌は面食い
ところで「小鳥のさえずり」とは言いますが「おおとりのさえずり」とは言いません。さえずるのは小鳥。皆、スズメ目に属するものです。スズメ目は大きなグループです。鳥は全部で約1万種いますが、その6割がスズメ目。ですから、ふだん目にする「小鳥」はほとんどがこれです。スズメ、ウグイス、ヒバリ、ホオジロ、カナリアなど、きれいな声で鳴くものたちです。ですが、ガーガー、ギャーギャー言うカラスやオナガもスズメ目に入ります。
小鳥の歌は種ごとに違います。ウグイスは「法法華経」、「東京特許許可局」はホトトギス。
歌のレパートリーは、鳥ごとに1曲だけと決まっているわけではありません。たとえばオオルリ。青い美しい鳥ですが、鳴き声も美しく、「ヒー・ツーチン・ツーチン・ツチ」とうたったり、「ヒーヒヒヒヒヒヒ」とやったりします。シジュウカラだと「ツピーツピー」や「ジュクジュクジュク」。
こんな実験をした人がいます。シジュウカラの縄張りの中にスピーカーを設置して、他の雄のシジュウカラの歌を流す。すると縄張りの主は飛んできて、スピーカーの周りをばたばた飛び回ります。次に、その縄張りの主を捕らえて軟禁してしまう。するとその縄張りはすぐに他所から来た雄に乗っ取られるのですが、スピーカーから雄の歌を流しておくと乗っ取られません。こんなふうに歌は他の雄に対して絶大な効果をもちます。
じゃあ雌に対しての効果はどうかというと、歌を流しても雌がスピーカーのところまで来ることはありません。でも近くまでは来ます。歌を聞いた雌は、雄の姿の見えるところまでは近寄ってくる。でも、さらに近づくかどうかは目で見て判断しているようです。鳥の雌は面食いなんですね。鳥は一般に雄が派手できれいに着飾っています。
ホーホケキョ――これは日本の鳥語、ではハワイ語は?
ただし種によっては、歌の上手な雄がもてることもあるようです。ヨシキリは歌のレパートリーが非常に多いのですが、ヨーロッパのスゲヨシキリでは、持ち歌の多い雄ほどすぐにカップルになれるそうです。
小鳥は最初から歌がうまいわけではありません。ウグイスも最初は「ホ、ホケッ」とか「ケッ、キョ」とか、まことにヘタクソ。練習してだんだんうまくなっていきます。練習段階では、父親や、他のおとなの歌を聞く必要があります。ヒナを隔離して育てると、まともな歌をうたえません。でも、スピーカーから正常な歌を聞かせてやれば大丈夫です。

(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
こんな実験をした人がいます。キンカチョウのヒナをジュウシマツのつがいにあずける。すると、ジュウシマツは自分の子のように世話をします。そうして育ったキンカチョウは、育ての親であるジュウシマツの歌をうたうようになりました。
ただしこれは育ての親の歌しか聞けない特殊な場合であって、若鳥に自分の種の歌と他の種の歌と、両方を聞かせると、自分の種の歌を優先的に覚えます。
これらの結果から考えますとね、小鳥は生まれながらに自分の属する種のモデルソングを持っている。けれどもこのモデルは不完全で、仲間の歌を聞いて、モデルを手直ししていく。歌の先生について習う必要があるんですね。ただし学校の音楽の授業のように、先生のあとについてうたいながら覚えていくわけではなく、ただだまって先生の歌を聞いているだけ。そして聞いてから何週間か後に、やおらうたい始めます。うたい始めはへたくそなのですが、自分の歌を耳で聞いて、それと覚えたモデルとを比べ、じょじょに正しいものに修正していきます。
こんなふうに、小鳥はその場その場で先輩から歌を覚えて育つのですから、先生がなまった歌をうたうと、それが伝わっていき、歌に方言ができてきます。たとえば東北地方のウグイスは「ホーホケンキョン」と「ン」が入るようですね。
ハワイのウグイスは「ホーホピッ」と、そっけない歌をうたいます。このウグイスは今から80年程前に日本からハワイに持ち込まれ、それが野生化したものです。常夏の島ではウグイスの競争がゆるやかで、複雑な歌などうたわなくても縄張りが持てるから、歌が単純化したと考えられています。
鳥の歌は立派な文化
このように環境に応じて小鳥は歌を変えて伝えています。ある辞書によれば「学んで伝えていく行動の様式が文化」だとありますから、鳥の歌は立派な文化だと僕は思いますね。
小鳥は歌を学べますので、名人の歌を聞かせると、歌の上手に育ちます。そこで小鳥をヒナの時から飼い、名人の側に置いていい歌を聞かせる。こうして育て上げたものを持ち寄り、「鳴き合わせ会」を開いて、同好の士の間で成果のほどを競い合う。こんな遊びが江戸時代から戦前まで行われていました。現在では野鳥を捕まえるのは法律で禁止されていますから、もうなくなりましたが、ウグイスをはじめ、メジロ、ヒバリ、コマドリなどの鳴き合わせ会がありました。
ウグイスの場合、お寺を借りて会をやります。城下町にはお寺がずらっと並んだ寺町がありますね。そのお寺の一軒一軒に籠を一つずつ置き、聞き手は順繰りにお寺を巡っていきます。ウグイスは縄張りを持ちますから、こんなふうに鳥を離ればなれにして置く必要があるんです。
鳴き合わせ会ではウグイスの籠を、一回り大きな箱に入れます。箱は蒔絵をほどこしてあったりする豪華なもので、箱の壁の一部が薄くなっています。ウグイスが鳴くと、その声に共鳴して箱が震えます。ちょうどギターの胴の役目をするのがこの箱です。箱の中に入れると、ウグイスはより良い声で鳴くと言われています。いわばお風呂の中でうたっているようなもので、ウグイスも気持ちよくうたえるのかもしれません。こうして、お寺で「法法華経」と法華経を賛美する。まことに風雅な遊びでした。
※本稿は、『すごい生きもの春夏秋冬』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
