【新刊】さくらももこさんが編集長を務めた雑誌『富士山』から旅ものを集めた『たびたび』など4冊
不安定な情勢が続くこの時代。だからこそ、本を読み、さまざまな考え方に触れることも重要なのでは? おすすめの新刊4冊を紹介します。
『ソニー神話を壊した男 出井伸之が創った未来』児玉博/小学館/2090円
社会の末端の人間(私のこと)に経営理念は判断できない。未来のことだから。でも本書を読んで思う。何が世界や社会を変えたのか、末端から時代を見てきた者として後の答え合わせはできると。その意味でサラリーマンの階段を上ってソニー社長(1995年就任)になった出井伸之さんの先見の明は凄い。大賀氏が出井氏を次期社長に指名する前、2人の間にあった確執に時々笑う。
『たびたび』さくらももこ/新潮社/1870円
さくらももこさんが編集長になって、企画から執筆まで手がけた伝説の雑誌『富士山』。その中の旅ものを収める。ミッフィーの生みの親に会いにオランダへ、新茶摘みで故郷の清水へ、中国茶の買い出しに香港へ、賀来千香子さんの仕事にかこつけ未踏の九州・福岡へ。どこでも美味しいものに目がなく、お酒も強かったんだろうなと思わせる。朝井リョウさんの解説には愛がこもる。
『本朝金瓶梅』林真理子/幻冬舎文庫/858円
『金瓶梅』とは『水滸伝』のスピンオフ作。濃密な性愛描写で知られ、これを本朝の江戸時代に移植する。美男で女好きの西門屋慶左衛門を巡り、本妻、夫殺しをして妾におさまった「おきん」、慶左衛門が入れ込む影のある女「おりん」などが艶笑・滑稽・暗黒譚を繰り広げる。風俗描写が出色。料理屋、芝居小屋、枕絵の絵師、女相撲、百物語など、お江戸の賑わいに連れて行かれる。
『日暮れのあと』小池真理子/文春文庫/792円
旅に連れて行く小さな文庫本に、これだけの"旅"が詰まっていたとは。算数障がいを持っていた叔母の在りし日、老骨董商の死に様を彼の息子に口止めされる家政婦、急死した夫の思いを伝えてくれた印刷業者、祖母と男孫のようなカップルになぜか救われた気がする童話作家(表題作)。幸も不幸もあった壮年期を過ぎ、訪れた日暮れ時。"手放す"という受容の静けさが胸に響く。
文/温水ゆかり
※女性セブン2026年5月21・28日号
