角界を揺るがす伊勢ヶ濱部屋「分裂危機」(元横綱・照ノ富士の伊勢ヶ濱親方/時事通信フォト)

写真拡大

 5月場所が幕を開けたが、土俵外で注目を集めるのが所属力士32人を抱える角界最大勢力の伊勢ヶ濱部屋だ。元横綱・照ノ富士の伊勢ヶ濱親方による弟子への暴力問題に処分が下されたが、まだ大きな火種が残っていた。

【図解】角界の最大勢力「伊勢ヶ濱部屋」関係図

伊勢ヶ濱部屋の内部に火種がある

 初日を目前に、協会ナンバー4でコンプライアンス部長の佐渡ヶ嶽親方(元関脇・琴ノ若)が伊勢ヶ濱部屋の指導を視察した。若手親方が言う。

照ノ富士は完全に協会から睨まれている。5月2日の視察は"抜き打ち検査"のようなもので、過去に例がない。暴力問題を受け、5人の親方衆による"集団指導体制"が機能しているかのチェックだったようです」

 2月下旬に起きた伊勢ヶ濱親方による弟子の前頭・伯乃富士への暴力問題。4月に入って2階級降格と報酬減額の処分が下され、指導体制は部屋付きの楯山親方(元前頭・誉富士)、間垣親方(元前頭・石浦)、桐山親方(元関脇・宝富士)、宮城野親方(元横綱・旭富士)との集団指導体制となった。

 この動きが注目されるのは伊勢ヶ濱部屋の内部に火種があるからだ。

 元横綱・白鵬の白鵬翔氏(2025年6月に退職)がかつて率いた旧宮城野部屋の所属力士らの存在である。同部屋は弟子の暴力問題で2024年4月に一時閉鎖となり伊勢ヶ濱部屋に吸収された。

「協会の問題児と扱われた白鵬は部屋再興が見通せず退職したが、今回の問題でむしろ伊勢ヶ濱部屋がトラブルを起こす部屋と見られるようになり、結果的にそれが宮城野部屋再興につながるとの見方が出ているのです」(伊勢ヶ濱一門関係者)

 もともとの伊勢ヶ濱部屋所属と旧宮城野部屋の上位力士の数は拮抗している。タニマチとの酒席で女性への不適切な行為を咎められて親方に殴られた伯乃富士は旧宮城野部屋だ。

「幕内の人気力士・義ノ富士は2024年4月に伊勢ヶ濱部屋に入門したが、実際は宮城野部屋に入門予定だったのが直前に部屋が閉鎖された。旧宮城野部屋の花の富士は小学校から大学までの先輩。そうしたことを踏まえると伊勢ヶ濱・旧宮城野の勢力分布は幕内が2人ずつ、十両も2人ずつとなる」(同前)

 ただ、親方衆は集団指導体制の5人のうち旧宮城野部屋出身は間垣親方だけ。「照ノ富士が差配する構図は変わらない」(協会関係者)と見られたが、潮目が変わってきた。

モンゴル出身の盟友関係

 それが、旧宮城野部屋の炎鵬の存在だ。首の大ケガで序ノ口まで番付を落としたが、今場所は奇跡の十両復帰を果たした。

「炎鵬はこれで関取在位30場所となり、引退後に親方になるための資格要件を満たしたことが大きい。親方になるには年寄名跡も必要だが、かつて白鵬が持っていた『宮城野』がある。白鵬の退職後、『宮城野』は先代の伊勢ヶ濱親方である元横綱・旭富士が襲名したが、これは借株で旧宮城野部屋の力士から継承者が出てきたら譲渡する約束になっています。炎鵬が『宮城野』を手にして再興するシナリオに現実味が出てきた」(前出・伊勢ヶ濱一門関係者)

 呼応するように白鵬氏も動きを活発化させる。3月には自身が代表を務める企業がYouTubeチャンネルを開設した。

「早速、犬猿の仲とされた元横綱・朝青龍との対談を流すなど話題作りに必死。退職後、思ったほど注目を集められない焦りもあるかもしれない。部屋が再興されたら、弟子の確保は白鵬が先々代の宮城野親方(元前頭・竹葉山)とともに尽力して炎鵬を支えるという話です。モンゴルからの相撲留学生のスカウト網を活かし、宮城野部屋を介して協会への影響力を取り戻そうとするのでしょう」(前出・若手親方)

 協会内も関係性が複雑になってきた。別の協会関係者は「同じ伊勢ヶ濱一門の親方でも立場が分かれる」と指摘する。

「安治川親方(元関脇・安美錦)は照ノ富士の兄弟子だし、朝日山親方(元関脇・琴錦)も暴力問題の際に処分軽減に奔走するなど照ノ富士に近い。一方、一門の理事である浅香山親方(元大関・魁皇)は伊勢ヶ濱部屋を監視する立場だが、白鵬と照ノ富士の処分の違いに違和感を覚えているという。もうひとりの大島親方(元関脇・旭天鵬)は、白鵬も一目置くモンゴル出身力士の先駆者です」

 大島親方は他の一門で同郷の音羽山親方(元横綱・鶴竜)や高砂親方(元関脇・朝赤龍)とともに白鵬とは盟友関係とされ、退職後に白鵬氏が主催した相撲大会にも顔を見せるなどつながりが深い。

 部屋や一門に亀裂を走らせた騒動の行方からは、まだ目が離せない。

※週刊ポスト2026年5月22日号