AFC公式サイトより

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北朝鮮のクラブチーム「ネゴヒャン女子蹴球団」が17日、AFC女子チャンピオンズリーグ準決勝に出場するため韓国・水原を訪れる。北朝鮮スポーツチームの訪韓は2018年以来。サッカーに限れば2014年以来12年ぶりで、冷え込む南北関係の中でも大きな注目を集めている。

現在の北朝鮮女子サッカーは、世界トップクラスの実力を誇る。FIFAランキングでは過去に最高5位を記録し、現在も世界上位を維持している。特にU20女子ワールドカップでは通算3度の優勝を果たし、日本にとっても最大のライバルの一つとなっている。

その強さを支えているのは、国家主導の徹底した育成システムと、選手たちの極めて強い上昇志向だ。

「親孝行スポーツ」と呼ばれる背景

北朝鮮では、女子サッカーは単なるスポーツではない。地方出身の少女にとって、人生を大きく変える数少ない手段の一つとされている。

代表選手になれば、平壌の居住権や高級アパートの部屋、高級車、海外遠征の機会、食糧配給での優遇など、一般国民には容易に手に入らない待遇が与えられるという。国際大会で活躍すれば、「功勲体育人」「人民体育人」といった名誉称号を授与されることもある。

近年は国際大会の賞金も、以前のように国家管理されるのではなく、選手個人に支払われるケースが増えたとの証言もある。

そのため、北朝鮮では娘にサッカーを習わせたいと考える家庭も少なくない。地方では、学業で成功しても社会的上昇につながりにくいが、サッカーで国家代表入りすれば、家族が生活環境の厳しい地方から平壌へ移住できる可能性が生まれるからだ。北朝鮮でサッカーが「親孝行スポーツ」と呼ばれる背景には、こうした事情がある。

北朝鮮当局は、全国から有望選手を発掘する「ピラミッド型」の育成システムを構築している。地方の体育学校やサッカー学校で才能ある子どもをスカウトし、平壌国際サッカー学校などで集中的に育成する仕組みだ。

指導者には元代表選手らトップレベルの人材が配置され、国際大会で活躍するチェ・イルソン選手らも、こうした環境から育った。

北朝鮮では、女子サッカーは男子に比べ国際舞台で成果を上げやすく、効率的に国威発揚を図れる分野と位置づけられている。

朝4時から夜まで軍隊のような猛練習

一方、その強さの背景には過酷な練習環境もある。

かつてサッカー選手を目指した脱北女性は、韓国のテレビ番組で「選手たちは朝4時から夜まで練習漬けだった」と証言している。丸太を担いで山道を走り、芝のない砂利グラウンドで何度もスライディング練習を行うため、けがは日常茶飯事だったという。

試合では激しい闘争心が求められる。特に韓国戦では対抗意識が強く、ラフプレーや乱闘寸前の場面が問題になることも少なくない。

2019年、平壌で行われた南北戦後、韓国男子サッカー代表のソン・フンミンは「ラフプレーが多かった。無事に帰ってこられてよかった」と語り、大きな話題になった。

ただ、選手たちの生活が常に豊かなわけではない。脱北者証言によれば、自分に支給された食事を家族のために持ち帰り、自身は粥だけで空腹をしのぐ選手もいたという。

それでも少女たちはサッカーに人生を懸ける。韓国戦で勝利し、熱烈なサッカーファンとして知られる金正恩総書記の目に留まれば、自分と家族の将来が大きく変わる可能性があるからだ。

文/五味洋治 内外タイムス