渋谷で出合った「味わい、空間、器、人柄」の揃う 大人時間を満喫できる喫茶店

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2026年3月に発売した『おとなの週末』4月号で『渋谷 羽當』の取材と原稿を担当。誌面では文字数に制限があるため、魅力のすべてを書ききれませんでした。……そこで、webに移動。感じたこと、惹かれたこと、魅せられたことを余すところなく書かせていただきます!

渋谷の路地に佇む洒脱な茶亭

渋谷駅から歩いて、宮益坂の路地を少し入り『茶亭 羽當』には2枚の扉を開けて入ると、もう街の喧騒は一切感じない。風情ある一枚木の長いカウンターは店の奥まで続き、棚にはとにかく大量の瀟洒(しょうしゃ)なカップが何てことないように並んでいる。どっしりとした太い梁には、創業以来集められたデンマークのロイヤル・コペンハーゲンのイヤープレートも。

1989年創業のこの店は、サードウェーブコーヒーの代表格『ブルーボトルコーヒー』の創業者ジェームス・フリーマンが日本で好きなカフェに名前を挙げたことで一気にその名を国内外に知られるようになった。

周囲の評価とは裏腹に、立ち上げの時からこの店を支えてきたバリスタの寺島和則さんはとても控えめだ。「10代の頃からコーヒー屋一筋なんです。大したことじゃないんですけど」。そう言いながら大きなヤカンから小さなポットにお湯を移し替え、まずカップとソーサーを温める。ソーサーにもお湯を注ぐのは、曇りを取るためだという。

こだわりの詰まった空間が生む心地よいひととき

コーヒーはオリジナルブレンド1000円のほかエイジングコーヒーである五番街 楡1300円も人気だ

一般的には1杯あたり15gほど使用するコーヒー豆だが、羽當ではたっぷり25g使う。粗く挽くことで、雑味の部分は少なく、おいしいところだけ抽出するのだ。同じ豆でも、抽出のタイミングやお湯の温度を季節によって変えるという。「今の時期は豆が元気。素直な感じがしますね。」と静かにほほ笑みながら淹れてくれたコーヒーは、しっかり濃くてコクがあるのに、クリアな味わいだった。

カボチャプリン800円はぜひ試したい

コーヒーと合わせてぜひ頼みたいのが自家製スイーツの数々。なかでも開店当時からのメニューのシフォンケーキは、あくまでふんわり感を残しつつしっとりした絶妙な生地の塩梅に脱帽だ。分量や混ぜ方、混ぜるタイミングなど、細かく研究して生まれた逸品である。人気のカボチャプリンもそのなめらかさと完璧な甘みのバランスに驚き。どちらも、コーヒーのおいしさを引き出すように、生クリームの甘さは控えめにするなど工夫されている。

店の棚には器ファン垂涎のコレクションが

羽當はその磁器のコレクションでも器好き界隈のなかで知られている。創業時200〜300客あったというカップは今や700客。柿右衛門といった有田焼の有名どころから、マイセンなど世界中の名だたる窯のカップが棚にずらりと並ぶ。

「カップを仕入れるときには、これじゃなきゃいけない、っていうルールはないんです。このカップならお客様が喜ぶかな、という気持ちで仕入れます。」と寺島さん。お客様の雰囲気に合うものを選んでくれるので、どのカップにあたるかもお楽しみのひとつ。

季節やイベントを意識した器のセレクションも楽しい

この日私に寺島さんが選んでくれたカップはハンガリーの名窯、ヘレンドのシノワズリ。「家庭では普段使いしないものをこういうところで使ってもらいたいと思っています。」そう語る価値ある一つ一つのカップはこのお店にあってこそさりげないけれど、一回手元に置かれると彩りや存在感に圧倒された。

「喫茶」ではなく「茶亭」を冠する理由とは

無造作に活けられた花々には風情がある

店のなかの花々にも注目を。この日、大きな花瓶には丸くかわいらしい白い花が鈴なりに咲いた小手鞠に、黄色の野性的な山茱萸(サンシュユ)の花が舎利木(しゃりぼく)と言われる乾木とともに活けられていた。野にあるように活ける、投げ入れを意識しているという花は、花屋さんではなく、スタッフの人がそれぞれの個性を生かして活ける。

テーブルの上、レジの横、棚の上部とありとあらゆるところにさりげなくある花の数々はどこか日本的な雰囲気だ。「だから茶亭、と店名に付いているんですよ」と寺島さんはにっこりする。

入口の大きな甕にはたっぷり緑が活けられていた

創業時から大切にしてきたのは、茶道の気持ちなのだという。

「季節の花を活け、とっておきの茶器を使い、軒先に水をまいて…と、そんな風にお客様をお迎えしたいのです。なかなか毎日きちんとやるのは難しいところもあるんですが」そう語りながらカウンターで仕事をする寺島さんの迷いなく無駄がない動きは、確かに茶人のようでもある。

お湯の注がれる音、ふわりと漂うコーヒーの香り、こだわりのカップに生命力あふれる花。空間のすべてが羽當のおもてなしだ。時代を経て、さまざまな年代に愛される『茶亭 羽當』。ぜひ一度訪れてみてほしい。

『茶亭 羽當』@渋谷

[店名]『茶亭 羽當』

[住所]東京都渋谷区渋谷1-15-19 二葉ビル2階

[電話番号]03-3400-9088

[営業時間]11時〜23時(22時LO)

[休日]無休

[交通]JR山手線ほか渋谷駅東口から徒歩3分

撮影/西粼進也 取材/井上 優

【画像】渋谷の喧騒から離れてほっとひと息 700客もの陶器カップが揃う名喫茶(6枚)