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「執拗極まりない」。裁判官がそう表現した。ストーカー規制法違反の罪に問われた30代女性の刑事裁判の判決での一幕だ。

わずか1カ月足らずの間に送信されたメッセージは約8300通。電話は約3500回。連日鳴り続ける通知にさらされた被害男性の精神的苦痛は、想像に難くない。

大阪地裁は4月16日、被告人に対し拘禁刑10カ月、執行猶予3年(保護観察付き)の判決を言い渡した。

なぜ、ここまでの行為に及んだのか。そして裁判のあと、被害者の生活に平穏は戻るのか。法廷で明らかになった経緯を追う。(裁判ライター・普通)

●同棲直前に破局、そして翌日から異変

被告人は身柄を拘束されたまま出廷。緊張からか、表情は少し硬く、淡々とした口調で受け答えを続けた。その内面をうかがうのは容易ではなかった。

検察官の冒頭陳述などによると、被告人と被害男性は約1年半交際し、同棲のための住居契約まで済ませていた。ところが、同棲開始の数日前、被告人の精神の不安定さなどを理由に交際は突然解消された。

納得できなかった被告人は、男性宅に押しかけた。その後、第三者を交えて、新居にかかった費用の清算と「今後は連絡をとらない」という条件で示談が成立した。

しかし、その翌日以降もメッセージや着信が続いた。警察が複数回訪問しても応答はなく、被告人からの連絡だけが積み重なっていく。

起訴内容では、約1カ月でメッセージが8312件、着信が3595件とされている。検察官も、正確な回数の把握は困難とし、実際はさらに多い可能性を示唆した。

●看病、結婚の意思…かつては順調だった二人

被告人質問では、二人の関係の別の側面も明らかになった。

出会いはマッチングアプリ。約2カ月で交際に発展し、互いに結婚を意識していたという。

交際して数カ月後、被害男性が国指定難病を発症した際には、被告人が1カ月ほど自宅で看病した。しばらく病名もわからなかったため、情報を集め、深夜に必要なものを買いに走ることもあった。

その後、被害男性の体調は改善したが、被告人は家庭や職場のストレスも抱え、うつ病を発症。休職することになった。

それでも二人の関係は順調に続き、やがて同棲の話が進む。被告人の住居の更新時期に合わせ、新居が決まり、男性の親への挨拶も済ませていた。少なくとも表面上は順調だったようだ。

●「怖くて無理」別れの引き金になった夜

だが、その関係は突然終わりを迎えた。

弁護人:なぜですか?
被告人:その数日前、一緒に飲んでいた際に、私に希死念慮が出た姿を見て、被害男性が「怖くて無理」って。

弁護人:何をしたんですか?
被告人:タオルケットを首にかけて「死にたい」と言って、被害男性がそれを見て止めて。

弁護人:本当に自殺をしようとしたのですか?
被告人:本気ではないですが、死にたいと。

別れは対面ではなく、LINEで告げられた。

すでに被告人は新居に入居していた。二人で暮らすはずだった部屋で、年末年始を一人で過ごした。新たな住まいを探しながら、孤独だけが募っていった。

大量のメッセージについて「同棲解消で苦しんだ心境などを伝えたかった」と説明。現在は恋愛感情はなく、「二度と連絡を取らない」と誓約した。

一方、弁護人は最終弁論で、直前の交際解消という経緯を挙げて、被害男性にも相応の問題があったと主張した。

●届かなかった“拒絶のサイン”

検察官はこれに反論する。すでに示談が成立し、金銭問題も解決していたこと、さらに計1万回を超える連絡に一切返事がなかったことから、被害男性が連絡を取る気がないことはわかっていたなどとも指摘した。

被告人は短く肯定するのみで、当時の心情については多くを語らなかった。

家族についても詳しい説明はなく、社会復帰後に監督する人は「身内にはいない」と述べた。今後は一人暮らしを予定しているが、仕事もなく、生活の見通しは立っていない。

●落ち度はあったのか──裁判所の判断

判決は、拘禁刑10カ月(求刑同じ)、執行猶予3年(保護観察付き)。

連絡回数の多さについて、「同種事案の中でも非常に多く、執拗極まりない」と厳しく評価した。弁護側の「被害者にも落ち度がある」との主張については、交際解消の経緯から「そこまでの評価はできない」と退けた。

一方で、突如の環境変化による孤独や、うつ病の影響は被告人に有利な事情として考慮された。

ただし、精神的な特性を踏まえたうえで適切に支援・監督する人物が周囲にいないことから、「再犯防止のための保護観察が必要」と結論づけた。