会見に出席した猪股正弁護士(左)ら(4月24日都内/弁護士JPニュース編集部)

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全国約170店舗をチェーン展開するスーパーホテル(大阪市西区)の「ベンチャー支配人制度」をめぐり、元支配人・副支配人の2人が同社に計3300万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁民事第5部(川崎直也裁判長)は4月15日、原告らの請求をいずれも棄却する判決を言い渡した。

判決は、同社の求人広告や説明会での説明が「事実と異なる」「著しく不適切」だったと明確に認定しながらも、契約締結の直前に正しい情報が提供されたとして、最終的な説明義務違反は否定。原告側弁護団は4月24日に記者会見を開き、同日付で東京高裁に控訴したと発表した。

なお、弁護士JPニュース編集部の取材に対し、スーパーホテルは「係争中につき、コメントは控えさせていただきます。引き続き誠実に対応してまいりたいと思います」と回答している。

「4年間で3000万円貯金」

ベンチャー支配人制度とは、スーパーホテルが業務委託契約を結んだ2人1組(ペア)に、ホテルの支配人・副支配人として住み込みで運営業務を行わせる仕組みである。同社は遅くとも2009年頃からインターネット上で募集を続け、2008年から2018年の間に約200~300組のペアと契約を締結してきた。

原告の2人は2018年4月頃、「4年間で得られる報酬は2人で4650万円以上」「4年間で3000万円貯金し、4年後に自分の夢を叶える人間がたくさん」などと記載された求人情報を閲覧。説明会に参加し、書類審査・面接を経て同年6月から約3か月間の研修を受けた後、同年9月にスーパーホテルJR上野入谷口店の運営を任された。

裁判所が認めた3つの「不適切な説明」

判決は、スーパーホテル側の初期段階の説明について、3つの問題があったと認定した。

第1に、契約期間。求人情報や説明会では「4年間」と強調されていたにもかかわらず、実際の当初契約期間は1年だった。裁判所は「当初契約期間が4年間である旨説明をし、これと異なる取扱いについて説明をしなかった」と認定している。

第2に、アルバイト補助金の扱い。4650万円の保証報酬とは別にアルバイト雇用のための補助金が支払われるかのような記載・説明がなされていたが、実際には保証報酬の中にアルバイト補助金が含まれていた。判決はこの点について「意図的に誤解を生じやすい内容によりされたものであって、著しく不適切なものといわざるを得ない」と断じた。

第3に、貯蓄可能額。「4年間で3000万円以上の貯蓄をした者が多数存在する」との記載について、裁判所は「貯金がされた事実を裏付ける客観的な証拠はない」と認定。原告側弁護団によると、証人尋問で同社の広告担当責任者は、根拠として挙げたのは過去3組のペアからの聞き取りのみで、広範なアンケート調査やシミュレーションは実施していなかったという。

「後戻りできない状態」は認められず

しかし、裁判所は、これらの問題があったと認めたにもかかわらず請求棄却。理由は、契約締結の約1か月前である2018年8月20日に契約書草稿と報酬内訳書面が交付され、正しい情報が提供されたためだとしている。

原告側はこの判断に強く反発。原告側代理人の猪股正弁護士は記者会見で、8月20日の時点では原告らがすでに仕事を辞め、住居を解約し、家財や自動車を処分した上で研修を受けている状態だったと説明。

原告のAさんは「戻れる住まいもなく、生活が立ちゆかなくなる“後戻りできない”状態に立ち至っていた」として、次のように述べた。

「契約書の内容を伝えられた段階では、仕事を失い、住まいも手放して後戻りができない状況になっていた。裁判所に十分理解いただけなかったことがとても残念です」

また、裁判では就業環境についても争点となった。原告側は、深夜に及ぶ長時間の就業を余儀なくされるものであったと主張。「60部屋規模のホテルをたった2人で運営するのは不可能で、アルバイト補助金として300万~400万円の人件費を渡してやりくりさせる構造だった」と指摘した。

しかし判決は、「アルバイトスタッフなどの代替人員を準備しない限り、その業務が深夜まで及ぶ可能性があることは、業務の性質上当然」として説明義務違反を否定した。

弁護団はこの判断を「決定的な誤り」とし、「正社員で雇用されている支配人・副支配人は夜の時間に休むことができている。それにもかかわらず、同じ仕事をしているのに『業務の性質』論で原告らを切り捨てるのは間違っている」と反論した。

なお、本件を巡っては、同じ原告2人がスーパーホテルを相手に「労働者性」を争う別の訴訟が東京高裁第10民事部に係属中。次回期日は5月26日に予定されている。