【佐藤 太志】吉野家公認「日本一牛丼がうまい店」が豊洲にあった…噂の有楽町超え?半世紀つづく《肉盛り実技グラチャン》の全貌

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2026年1月22日、平日の昼時「吉野家 有楽町店」の店内に充満していた、異様な緊張感に気付いた客は何人いただろうか。

厨房は普段と変わらないように見えた。おたまを手に、鍋の前に立つ調理担当者。だが、彼らは1人あたり15分程度と短い間隔で入れ替わっており、午前11時から約2時間半の間に7人もが牛丼を調理していた。スタッフはいつもより多く、キッチン内や座席後ろの空いたスペースに立ち、またはカウンター席で一般客に交じり、調理担当者の動作一つ一つに目を光らせ、味をチェックする吉野家の社員もいた。

実はこの時間、同店では、吉野家の全従業員の中で「最もうまい牛丼を提供できる達人」を決める闘いが繰り広げられていた。その名も「肉盛り実技グランドチャンピオン大会」。どんな大会なのか、吉野家に取材し、優勝者にも話を聞いた。

吉野家1300店舗、従業員2万人の頂点を目指して

吉野家社内で開催されている「肉盛り実技グランドチャンピオン大会」の初回はなんと1977年。約50年の歴史があるという。出場資格があるのは全国に約1300ある吉野家で働く全従業員であり、その数は約2万人。

「アルバイトの方も出場可能です。自ら志願するスタッフ以外に、他薦を受けての出場者もいます」と吉野家企画本部、広報担当の茶木翔太氏は言う。

2025年度の「肉盛り実技グランドチャンピオン大会」は、まず2025年4月から7月にかけて予選が開催された。近隣の数十店舗からなる各エリアを勝ち上がった成績上位者は、より広域な地区をまとめる営業部の代表を決める8月の戦いへと進んだ。

10月末には、北海道と東北、関東一部を含む「北日本」、店舗数が多いため2つのブロックに分かれた「関東1」と「関東2」、「関西」、愛知・名古屋市を中心にした「中日本」、「九州」、「沖縄」という、合計7地区で代表を決める戦いが繰り広げられた。

各地区でトップに立った7人が、2026年1月の全国決戦に臨んだ。決戦出場者数など年によって細かな変遷はあったそうだが、大まかに地区予選、地方大会、全国決戦がある勝ち上がりのシステムは高校野球のイメージに近い。

1位になれば『グランドチャンピオン』の称号が与えられるわけではなく、厳格なチャンピオンの評価基準を満たした場合のみ。そのため、最優秀出場者が基準の点数に到達せず、グランドチャンピオンが空座だった年もあるという。

チャンピオンは「この道25年超のベテラン」

「全国決戦まで進むのは、何度も大会にチャレンジしている従業員がほとんど。20代の若い方や女性もいます。私も予選に初めて出場したのは15年ほど前。ようやく優勝できました」

そう答えたのが、2025年度「肉盛り実技グランドチャンピオン大会」の全国決戦に出場した7人の中から栄誉を手にした物部泰治氏だ。吉野家には2000年に入社し、この道25年超のベテラン。現在は豊洲店の店長を務めている。

審査項目は予選から全国決戦まで統一されており、従業員にはすべて公開されているという。牛丼の具である「煮肉」の味わい、盛り付けのスピードや美しさ、客への目配りや気配りが基本になる。

「おたまの持ち方や肉鍋との距離、煮付けの工程、たれ味の管理、盛り付けの動作など、約70以上の審査項目に対して厳しい審査があります」(前出・広報担当・茶木氏)

吉野家では牛丼に使う肉を、赤身と脂身の割合が「6:4」の牛バラ肉を熟成解凍後に、独自のスライサーを使って厚さ1.3mmにスライスし、ふんわりとほぐした状態でバットに入れて包装。一定の温度を保ったまま配送車で各店に出荷されている。

店舗では包装された生の状態の肉を玉ねぎとともに、肉鍋に投入。社内でも少数の人しかレシピを知らない秘伝のたれを合わせて調理する。鉄製の肉鍋は吉野家オリジナルの調理器具だ。肉鍋は手前が盛り付け、奥側が煮込みと2層に仕切られ、この大きな鍋の対流を利用して、煮ながら盛り付ける。

マニュアル通りでも「牛丼の味わい」に違いが

吉野家はチェーンであり、調理工程にはマニュアルが存在し、ベストな手順や量、調理温度などが厳しく決められている。どの店でも同じクオリティの牛丼の提供を目指しているのは間違いないが、調理や客からの注文のタイミングなどさまざまな条件により、一人一人の客の口に入る牛丼の味わいは微妙に変化すると言っていいだろう。

「マニュアルの調理法が理想であり、忠実に作ることが大前提です。お客さまのオーダーに対して提供スピードが求められる中で、並行して牛丼の具である『煮肉』の調理を進める必要があります」と物部氏。

チャンピオンが作る「吉野家で最もうまい牛丼」とはどんなものなのか? 実食も交えてその味わいに迫った。

【後編記事】吉野家2万人の頂点「日本一の豊洲店店長」が明かす牛丼“うまさの極意”…「肉の食感もタレも違う!」食べ比べてわかった』へつづく。

【つづきを読む】吉野家2万人の頂点「日本一の豊洲店店長」が明かす牛丼”うまさの極意”…「肉の食感もタレも違う!」食べ比べてわかった