東京都がパソナに委託した事業で働いていた複数の労働者が、3月31日で雇止めとなった問題。パソナが受託した1つの事業で起きた不正アクセス事案の影響が、別の受託事業に及んだ形だ。

【映像】30秒でわかる「パソナ雇止め」

 元をたどれば、これらの事業はすべて“都の事業”として行われているものだ。委託元である自治体は、委託先で起きた雇用の問題に責任はないのだろうか。

 ニュース番組『わたしとニュース』では、この雇止めにおける委託元の責任と非正規雇用の構造について、立教大学の上林陽治客員教授の見解を交えながら、マネジメントトレーニングを普及するEVeM VP of Impactの滝川麻衣子氏とともに深掘りした。

■「東京都の決定で“使い捨て”」問われる自治体の責任

 去年秋、不正アクセス事案により指名停止処分を受け、都から全ての事業を受託できなくなったパソナ。別の事業でパソナの契約社員として働いていたAさんは3月末で突然雇止めとなった。東京都が委託した公的な事業であるにも関わらず、それ自体が不安定な雇用を生み出しているのではないかと、Aさんは疑問を感じている。

「一言で言えば『とんだとばっちりを受けた』。尊い能力もみんな奪われてしまったと思っている」(雇止めにあったAさん、以下同)

「構造的にゆがんでいるのではないか。委託で民間のノウハウを使うといえば言葉はいいが、その機関で働いている人たちはほとんどが非正規雇用。公共の職業の需給の調整機関で利用者と向き合っている人たちが、東京都の決定によって『使い捨て』というか、いとも簡単に仕事場を失うのは非常に憤りを感じる」

 東京都の事業の最前線で働く人たちに起きた雇止め。しかし、都と直接の雇用関係にはなく、東京都は影響を受けた人数はわからないとしている。

 こうした中、自治体の責任はどこまであるのだろうか。自治体の事業における雇用問題に詳しい上林氏は次のように指摘する。

「パソナを指名停止にする判断は入札制度上あり得ることだが、指名停止によりどのような影響が出るのかまで考えるのが自治体の責任ではないか。『ビジネスと人権』といって、契約打ち切りになる事例等が発生するということは、わかった時点で調査に入らなければいけない。調査をした結果『これはまずい』と思ったら何らかの手立てを講じるのは発注元の責任になると思う」

 上林氏によると、日本ではまだ委託元の責任を法的に直接問う仕組みはないものの、自治体によっては条例や独自の指針を定め、委託先で働く人たちの状況についても責任を持つ動きが出てきているという。

「東京都は人権に配慮した公共調達という仕組みをすでに作っている。それに照らしてみても、今回の事案は『知らぬ存ぜぬでいいのですか』と言いたい」(上林氏)

■「公が搾取構造に加担している」財政スリム化の弊害

 雇用の問題だけでなく、サービスそのものへの影響も懸念される。

「3月31日まで(業務を)やっていて、次の日にまた来る人もいるかもしれなくて、今まで自分たちのサービスでよかったことがまた次も続けられる保証がないので。それも“利用者ファースト”と言えるのか」(Aさん)

 利用者から見れば、同じ都の事業でも、ある日を境に担当者やシステムが入れ替わることになる。

「この場合だと『都民に何らか支障が生じないか』ということまで思いをはせるべきだったと思う。ノウハウはどこに蓄積されているのかというと、働いている人に蓄積されている。今働いている人を、東京都が直接雇って実施することは十分可能だと思う。」(上林氏)

 今回雇止めがあった事業は、その後どうなったのか。Aさんが関わっていた事業は、別の事業者が受託して継続している。Aさんによると、パソナから雇止めになった複数の人が、次の事業者に雇用され、再び同じ事業で働き始めているという。

 「雇止めになったものの、次の働き先ができてよかった」と思えるかもしれないが、パソナから雇止めになった時点では、次の事業者に雇用されることが確約されているわけではない。面接を受けるなどのコストも発生し、無事採用されたとしても労働条件は同じとは限らず、業務自体も新しい事業者のやり方に合わせていく必要がある。

 滝川氏は次のように語る。「この方たちがいないと事業が回らないということ。その人たちに蓄積されているノウハウが必要なのだから。そうであれば、直接雇用すればいいだけだと思う」。

「しかし、財政が苦しい、コスト削減をしないといけないという流れをくんで、できるだけ人件費を抑えようと考え、結果的に非正規雇用の人を安い賃金で雇って労働力を搾取するという構造に東京都が加担していることが起きている。すごく皮肉なのは、本来であれば『公』は労働者の保護に回るべき立場。それが自らこの搾取構造に加担してしまっている。それをコスト削減とか、『小さな政府』『スリム化』という言葉を隠れ蓑にしている。自分たちがやっていることは結局何を引き起こしているのかを本当は直視すべき」(滝川氏)

■非正規雇用がもたらした「日本経済の負のスパイラル」

 さらに、これは当事者だけの問題ではないという。

「非正規雇用の人たちをそのまま雇い続けて、その労働力に依存することで日本に何が起きたかを考えるべき。この20年、30年、日本人の給与は上がっていない。なぜならば非正規雇用の人を増やしたからだ」

「まさに氷河期世代問題を思い出してほしいが、収入が減り、手取りが少ないと、結婚や出産を控えるようになる。それでまず少子化が引き起こる。そして、手取りが少なく経済力がないために、市場自体も節約志向になりシュリンクしていく。少子化でさらに市場は縮小傾向が加速し、経済が低迷してきた」

「非正規雇用を増やすことで、短期的には自治体のコスト削減、あるいは企業の利益確保になっているように見えるかもしれないが、回り回って経済の負のスパイラルを生み続けている。だから財政も悪化するし、企業もなかなか成長しない。結果またコスト削減、利益確保しないといけないとなると、非正規雇用に依存する構造から抜け出せないということが起きてきたのが2000年代以降。これを断ち切らないといつまでたっても日本は停滞している状況から抜け出せない」

■ビジネスと人権…委託元が責任を持つ「公契約条例」

 現実的には、自治体が直接雇用することが難しい場合もある。そうした場合でも、労働者の環境を最低限守ろうとするのが「公契約条例」だ。自治体が発注する公共事業や業務委託で、適正な労働条件等を受注者に求めるもので、昨今、導入する自治体が少しずつ増加している。

 例えば千葉県野田市では、委託事業者が変更した場合、新たな事業者に前の事業者で働いていた人を継続雇用するよう求めているほか、職種ごとの最低賃金を規定して労働条件を急激に悪化させないような項目が設けられている。

 実際に今年4月に委託事業者が変わった市の電話交換業務では、希望する人は全員が次の事業者に引き継がれたという。

 ただし、こうした条例で定められた内容は、基本的には「努力義務」という扱いが多いのが現状だ。事業者にとってはコスト増につながるため、自由競争に反しているという観点から導入に反対の意見もあり、実際に見送られた例もある。

 滝川氏はこれを受けて、次のように述べた。

「結果的に今何が起きているかが重要で、日本は非正規雇用の安い労働力に依存し続けた結果、経済がこれだけ低迷する期間が伸びてしまっている。だから、自由競争云々がではなく、そっちを先に手を打つべき状況なのではないか」

(『わたしとニュース』より)