本記事は、FLUX コンテンツクリエイティブ部部長を務める澄川恭子氏による寄稿です。

筆者は長年ファッション誌の編集長を務め、雑誌・ウェブ・SNS・イベント・キャンペーンを組み合わせた立体的なコンテンツ制作の先駆けとして活躍。2014年に出版社を離れ、ITスタートアップへ転身し、コンテンツをフックに「読ませる」と「買わせる」をつなぐ仕事を学んだ。その後起業し、現在は株式会社FLUXコンテンツクリエイティブ部部長として数多くのアパレルブランドをはじめとする企業のコンテンツマーケティングを支援。この10年、デジタル化の波の中で企業の「コンテンツの悩み」と向き合い続けてきた立場から言えば、2025年はAIの台頭によって、近年ない節目の年になったと感じている。本稿では、その現場視点から、AI時代にブランドが「選ばれる」ための戦略の全体像を整理してみたい。

ユーザーはもう、検索結果を「読まない」



生成AIの普及によって、消費者の情報収集行動が静かに、しかし根本から変わりつつある。

かつてユーザーは、検索エンジンが並べた10件のリンクを自分でクリックし、複数のサイトを行き来しながら情報を比較・判断していた。ところが今、GoogleのAI Overviews、ChatGPT、Claudeといったプラットフォームは、その手間をすべて肩代わりし、ユーザーが質問を入力すると、AIが複数の情報源を参照・統合し、「答え」として直接提示してくれる。ユーザーはもはや自分でリンクをたどることをしない。AIが出した答えを「起点」として意思決定する--そんな時代になってきた。

この変化が意味することは、実はとても大きい。かつてブランドは、検索結果の上位に表示されることを競い合っていた。しかし今や、AIが生成する「答え」の中に自社ブランドが含まれているかどうかが、勝負の分かれ目になりつつある。10本のリンクの中で1位を取るより、AIの回答の中で「最適な解決策」として推薦されること--それこそが、現代における可視性の本質ではないだろうか。

ところが企業は今、逆方向に動いている





ところが、この変化に対して多くの企業がとっている対策は、むしろ逆方向を向いているのでは? と感じることがある。

AIの台頭を受けて、「記事を量産しよう」という動きが広がっているのだ。生成AIによってコンテンツ制作のコストが劇的に下がったことで、「安く・速く・大量に」という方向に舵を切る企業が、なんと多いことか!

その背景には、いくつかの「思い込み」があるように思う。「SEOは記事数が勝負」という過去の成功体験が強く刷り込まれていること。AIツールによって比較的簡単に「作れてしまう」ので、とりあえず量をこなす方向に流れやすいこと。KPIが「本数」「投稿頻度」「接触数」で設定されていること。そして正直に言えば、「何をやればいいかわからない」という迷いの逃げ道として、量産という行動に走ってしまっていること。

しかしこれは、AI時代の検索構造に対する根本的な誤解。AIが評価するのは実は「量」ではなく「構造」だからだ。低品質なテキストがWeb上に溢れるほど、AIモデルはむしろ情報の「信頼性」と「一貫性」を厳しく問うようになる。量産すればするほど、AIには「断片化した情報の寄せ集め」と判断されるリスクが高まっていってしまう。

SEO全盛期に染み付いた「記事を増やせば勝てる」という感覚は、今や通用しないどころか、むしろ逆効果になりかねないのだ。



「部分最適」では、AIに選ばれない



企業の現場では今、こんな声をよく耳にする。「AI検索への対応が必要だとはわかっているが、何から手をつければいいかわからない」「施策をいくら打っても、流行の移り変わりに追いつけない」「部署ごとに取り組みが分断されていて、認知から購買までがつながっていない」--。

この悩みの本質を辿ると、従来型のマーケティング発想--すなわち「個々の施策を部分最適化する」アプローチが、AI時代には少しずつ機能しにくくなっているからだ。

従来のSEOは、特定のキーワードで上位表示されることを目的としていた。個々のページを検索アルゴリズムに最適化し、流入を稼ぐ--その発想では、施策は常に「点」の集積になる。しかしAIは、ブランドを「点(単発の情報)」ではなく「構造(一貫した意味のつながり)」で評価する。バラバラに最適化された施策の積み重ねは、AIの目には「断片化した情報の寄せ集め」にしか映らないのだ。

AIが評価する「3つの軸」



では、AIに選ばれるブランドはどこが違うのか。その評価構造を整理していくと、3つの軸が見えてくる。

1. 意味(コンテクスト)

AIは単なるキーワードの羅列を評価しない。「誰の、どんな悩みを、どのように解決するブランドなのか」という文脈を読み取り、それが明確に表現されているかを判断する。機能・価格・素材といったスペックはAIにとって比較データに過ぎない。重要なのは、「どのようなシーンで」「どのような感情の時に」そのブランドが選ばれるべきか、という「背景×感情」の文脈だ。

2. 一貫性(継続性)

単発の施策ではなく、積み重ねが評価される。記事、動画、SNS、店頭、イベント--すべての接点で発信されるメッセージが一本の軸でつながっているか。ブランドが語るストーリーに矛盾がないか。AIはこうした「メッセージの一貫性」を、信頼性の指標として読み取る。

3. 信頼性(実在性)

AIにとってテキスト記事は「不確実な主張」とみなされる。なぜなら皮肉にもWeb上にはAIが生成した低品質なテキストが溢れていて、情報の「証明」にならないからだ。では何を信頼し、真実性の基準としているかというと、動画や実際のユーザーの声を「実在の証拠」を裏付けるものとし、それがAIの信頼スコアを高める役割を果たしているのだ。

この3軸が揃って初めて、AIはそのブランドを「信頼できる情報源」として認識し、回答の中で推薦しているのだ。

なぜ「コンテンツ×YouTube」が最強の組み合わせなのか





この3軸--意味・一貫性・信頼性--を同時に満たす手段として、今もっとも注目されているのが「テキストコンテンツとYouTube動画の組み合わせ」だ。

2025年第1四半期の調査によると、GoogleのAI OverviewsにおけるYouTube動画の引用数は前期比414%増加。特に「方法論・チュートリアル」系のコンテンツに限れば、その増加率は651%に達するという。また動画プラットフォーム間の比較においても、YouTubeはほかのあらゆるプラットフォーム(インスタグラム、TikTokなど)と比べて200倍の頻度でAI検索に引用されており、事実上の独占状態にある。

なぜ動画、とりわけYouTubeがここまで強いのか。技術的な理由を紐解くと、意外にシンプル。AIはYouTube動画を「映像として鑑賞」しているわけではない。動画がアップロードされると自動的に文字起こしされ、そのトランスクリプトデータがGoogleのインデックスに格納される。このトランスクリプトは、ブログ記事の書き言葉よりも自然な口語表現で書かれていて、ユーザーがAIに投げかける質問の文体と意味的に一致しやすい。つまりYouTube動画の配信は、「検索意図に極めて近い、自然言語のテキストデータ」を大量に保有することと、ほぼ同義なのだ。

さらに重要なのが「検証」の機能。テキストで述べている主張と、動画内の音声・映像が同じ内容を語っている場合、AIはその情報の「確信度」を引き上げる。テキストは意味を与え、動画はその意味を証明する。この組み合わせこそが、AIにとってもっとも「信頼できる情報源」として判断される。

実際、この戦略を採用した企業の成果は、注目に値する。米国でITキャリアトレーニングとAIソリューション(家庭用電化製品の管理アプリ)を提供するセントリック(Centriq)は、既存の解説記事にYouTube動画を埋め込み、構造化データでマークアップしたところ、AI検索での引用数が300%増加。ユニリーバのB2B部門では、プロのシェフ向けにレシピ動画とWebコンテンツを連動させた結果、AI Overview引用数が950%増、オーガニック流入が265%増という成果を上げている。

AI検索は「ファネルの中間地点」に過ぎない



ここで一点、見落としがちな視点を加えておきたい。AI検索への対応は確かに重要だ。しかし、それだけを目標にした局所的な対応では、現場で「取りこぼし」が起きる。

たとえば、こんなケース。SNSでバズり、認知は十分に取れた。しかしユーザーがAIに「おすすめの〇〇ブランドは?」と尋ねたとき、自社製品が出てこない。逆に、AIには引用されている。しかしそこからECへの動線が弱く、購買に至らない--。「話題は作れても購買につながらない」「商品はあるのに、検索の場面で拾われない」。こうしたファネルの「穴」が、今まさに多くの企業で起きている。

その原因を考えると、シンプルなことに気づく。AI検索は、消費者の購買プロセスにおける「中間地点」に過ぎないからだ。ユーザーがAIに質問する前には、SNSで興味が生まれている。そしてAI検索は、かつて消費者が自らサイトを回遊して行っていた「比較・検討」を代行する存在になりつつある。ユーザーはAIの答えを起点に、すでに気持ちが固まった状態でブランドにたどり着く。問題は、そのあとだ--購買まで連れていく設計が、果たしてできているか。

必要なのは、認知(SNSで流行を作る)→ 検索・比較(AIに拾われ、推薦される)→ 購買(確信を持って選ばれる)という流れを一気通貫でつなぐ発想。個別の施策を足し算するのではなく、マーケティングの「OS」ごと作り直す--そういうスケールの問いが、今の企業には問われているように思う。



ブランドの「役割」を定義し直す時



最後に、もう少し上位の視点から考えてみよう。

AI時代において、ブランドのポジショニングのあり方そのものが変わりつつある。従来の競合比較--「あのブランドより安い」「機能が優れている」--は、AIにとっては単なるデータの羅列でしかなく、AIが本当に評価するのは、そのブランドが「誰の人生において、どんな場面で、どんな役割を果たすか」という定義の明確さだ。

問い直すべきは、「自分たちは誰の、どんな悩みを解決するブランドなのか」。「何が優れているか」を主張するのではなく、「誰かが何かに困ったとき、真っ先に思い浮かぶブランドになれているか」を問い直すこと。AIが推薦する理由を与えるのは、スペックではなく、そのブランドが持つ「文脈の明確さ」なのだから。

この10年、多くの企業のコンテンツ戦略に伴走してきた経験から言えば、「施策の積み重ね」で乗り越えてきた局面は、確かにあった。でも今回の変化は、その延長線上には見えない。AIという新しい「編集者」が消費者とブランドの間に介在する時代において、問われているのは施策の量ではなく、ブランドが持つ「意味の構造」の強度なのだと感じている。

バラバラに積み上げてきた施策を一度棚卸しして、一貫した意味と信頼性を持つブランド構造を再設計する。その問いに向き合う時が、今なのだ。

Image via gettyimages/ChatGPT