【二階堂 運人】タクシーで「月収100万円」は本当に稼げるのか…現役ドライバーが明かす「1日14万円」売上の過酷すぎる条件
〈【タクシー運転手】東京では約61%が月収100万円到達経験あり、約5割が年収1,000万円を狙える職業と回答。一方、全国的には約7割が月収40万円以下。ブルーカラービリオネア最前線の働き方177名調査〉というニュースが巷を賑わしている。
「やる気さえあれば、タクシードライバーで、月収100万円は可能なのか」と思った人もいるかもしれない。
実際、今、タクシー業界には「月収100万」「年収1000万超え」という言葉が溢れている。SNSでは成功体験が切り取られ、「誰でも稼げる世界」のように語られることも少なくない。
結論から言えば、それは「半分は事実で、半分は幻想」だ。確かに、月収100万円を叩き出す「スーパー・ドライバー」は存在する。だが、その数字は決して「普通の延長線上」にあるものではない。まずは冷静に、「月収100万円」という言葉の中身を分解してみる必要がある。
月収100万円稼ぐために、1日いくら売り上げるのか
タクシー業界でいう収入は、単純な話ではない。まず、理解しなければならないのは、「月収100万円=売上100万円」ではないということだ。タクシー業界では売上のことを「営収(えいしゅう)」と呼ぶ。この営収が、そのままドライバーの収入になるわけではない。会社との分配があるからだ。この分配率を「歩率(ぶりつ)」といい、一般的には50〜65%程度とされ、会社によって幅がある。仮に最高水準に近い「歩率65%」で「月収100万円」を計算してみる。
「月収100万円を得るには、約155万円」の営収が必要になる。
ここで初めて、「100万円」の現実的な輪郭が見えてくる。
タクシーの主流は「隔日勤務」だ。これは簡単に言えば、2日分の仕事を1日でこなし、翌日は「明け番」として休む働き方である。1ヶ月の乗務日数は、おおよそ11〜13日。つまり、先ほどの155万円を「12日勤務」で割ると、1日あたり約13万円の売上(税抜)が必要になる。税込ベースでは、約14万円超えだ。この時点で、多くの人がこう思うだろう。
「いや、それ毎日やるの無理じゃないか?」
その感覚は、正しい。
1時間あたり8000円の売上を18時間ぶっ通しでーー数字で見る月収100万の条件
さらに「月収100万」を分解してみよう。
1回の乗務は、一般的には「最大21時間拘束」で「休憩3時間以上」を取ることが法律等で定められている。そのため、実際に営業できる時間(実働時間)は最大で18時間(会社の規定や実際の運行状況によっては16〜17時間程度)となるのだ。
「実働は約18時間」
つまり、1日14万円の売上を達成するには、時給換算で約8,000円の売上を、18時間ぶっ通しで出し続ける必要がある。これが、月収100万円の正体だ。
都内など需要の高いエリアであっても、一般的なタクシーの1時間あたりの売上(時間単価)は4,000円〜5,000円程度が平均的とされている。優秀なベテランドライバーでも6,000円台がひとつの目安だ。つまり、1時間あたり8,000円〜9,000円という数字は、以下のような過酷な条件を意味する。
・息つく暇がない
18時間という長丁場の間、空車時間を極限までゼロに近づけ、常にお客様を乗せ続ける必要がある。
・単価の壁
初乗りや近距離(1,000円〜2,000円台)をいくら高回転でこなしても、物理的に1時間8,000円には届かない時間帯が出てくる。
・ロング客の必須化
深夜の割増時間帯(22時〜翌5時)などに、高速道路を使うような「万収(1回で1万円以上の長距離)」を複数回引かないと、平均値を引き上げられない。
途方もない壁を越えない限り、「月収100万円」は見えてこないのだ。
ただし例外がある。それが「隔日勤務」とは異なる「ナイト勤務」だ。
ナイト勤務という「別ルール」の世界
ナイト勤務は、夕方から深夜帯に特化した働き方である。月22〜26日勤務、つまり、俗に言う夜勤だ。この時間帯には、隔日勤務とは異なり稼げる構造が存在する。まず、22時〜翌5時は深夜割増で運賃が2割増しになる。同じ距離を走っても、売上単価が大きく跳ね上がる。さらに、終電後の帰宅需要により、ミドル〜ロングの長距離客を引きやすいという特徴がある。結果として、隔日勤務で求められる時給8,000円に対し、ナイト勤務では7,000円台でも現実的に月収100万円が見えてくる。このため現場では、こう言われる。
「100万を狙うなら、ナイト一択だ」
もちろん簡単な道ではないが、少なくとも収入を伸ばしやすい勤務体系であることは確かだ。ただ、稼ぎを重視するドライバーにとっては花形ともいえる働き方でもあり、誰にでも務まるわけではない。
今までの計算は、「歩率65%」の高い歩率での計算であり、これより歩率が下がれば、ノルマの金額が更に上がることになることを留意してほしい。
月収100万円は可能、だが続けられるかは…
売上は、水物だ。景気、天候、曜日、イベント、そして運。あらゆる要素に左右される。そして、ドライバー自身もまた、人間だ。体調を崩す日、集中力が切れる日、事故や違反のリスクも常に隣り合わせだ。
その結果--月収100万円を叩き出した翌月、収入が激減する。
そんなケースは、決して珍しくない。極端な話ではない。実際に、「月収100万→年収100万」という転落も起こり得る世界なのだ。
タクシーバブルは確かに存在する。だが、それは誰にでも再現可能な成功ではない。
月収100万円とは
・155万円の営収
・1日14万円の売上
・時給8000円の持続
・それを月12回再現
という、極めてシビアな条件の上に成り立っているのだ。
「やる気があれば稼げる」
その言葉は、間違いではない。だが、決定的に足りないのが、「やり続けられるのか」という視点が抜けているのだ。そして、「やり続ける」先に待つものは、何なのか――。詳しくは後編記事〈「昨日まで月収100万円、今日から無収入」も…現役タクシードライバーが明かす「3つの地獄」〉でお伝えする。
